第33話 悩む

 まだ時間帯はお昼手前なので、ギルド内は閑散としていた。盗賊討伐の件を報告するため、事情を把握しているエミリーさんがいる受付に向かう。


 「盗賊討伐の件について報告があります」


 「どういった内容でしょうか?」


 「盗賊達は殲滅し、山の麓にあったアジトは再利用ができないように出入口を塞ぎました。囚われていた女性達がいたので、全員救出し、門兵に保護してもらいました」


 「証明するものは…それは、門兵に確認すれば問題ないですね。盗賊達の死体は【空間魔法】で回収したのですか?」


 「全員回収しました。前回同様、解体場に並べて確認しますか?」


 「そうですね。お手数おかけしますが、お願いします」


 「分かりました」


 解体場に移動し、ロディオさんに許可を得て、盗賊達の死体を並べる。


 「人数は前回の5人と合わせて25人。盗賊達の強さはどの程度だったのでしょうか?」


 「Fランク相当が15人、Eランク相当が9人、Dランク相当が1人です」


 「それを一人で殲滅するとは流石だな!ははは!」


 「詳細は把握しました。死体はこちらで処理しますか?」


 「ええ、お願いします」


 「では、報酬を渡しますので、受付に戻りましょう。ロディオさん、死体の処理をお願いします」


 「おう!分かった!」


 受付に戻り、報酬を受け取る。


 「報酬の200,000エルケーです」


 「ありがとうございます」


 報酬を受け取り、依頼書版を確認する。特に緊急依頼などは無かったので、冒険者ギルドを後にする。


 「この街にも傭兵ギルドはあるのかな?」


 場所が分からないので、大通りを行き交う人に尋ねてみる。


 「すいません。1つ聞きたい事があるのですが」


 「おう、どうした坊主。何が聞きたいんだ?」


 「傭兵ギルドってどこにありますか?」


 「傭兵ギルド?坊主は冒険者じゃないのか?」


 「冒険者兼傭兵です」


 「その歳で凄いな!傭兵ギルドはそこの細道を真っ直ぐ進んで、左に曲がって、3軒目の建物だ」


 「ありがとうございます」


 1人目で場所が分かって良かった。建物と建物の間の薄暗い細道を通り、左に曲がる。おじさんが言っていた通り、3軒目に傭兵ギルドがあった。


 何故、傭兵ギルドは冒険者ギルドのように大通りに無いのだろう?ああ、そういえば、盗賊や犯罪者の捕縛又は討伐の他にも、貴族からの秘匿依頼もあると言っていた。


 大通りだと人通りも多いし、秘密裏に依頼をしようとしたら、裏通りの人通りの少ない場所の方が都合が良いのか。


 両開きの扉を開けて、傭兵ギルドに入る。外観も内観も[アヴァール]にあった傭兵ギルドと変わらない。そのまま、中央にある依頼書版を確認する。


 盗賊討伐の依頼が1枚と…犯罪組織の捕縛又は討伐か。これを受けるとしよう。


 「この依頼を受けたいので、詳細を教えてもらえますか?」


 クールビューティーな印象を受ける受付嬢は俺を上から下へと視線を巡らせ、ふぅと息を吐く。


 「君は何処かの国でランカーだったりする?」


 「いえ、ランカーではないです」


 「じゃあ、この依頼は受けない方が良いわよ」


 「それは何故ですか?」


 「こちらで把握している情報だと、犯罪組織は最低3つはあるわ。ただし、人数や戦力は未知数。噂によれば元冒険者や元傭兵もいるみたいだから。それに、裏で貴族と繋がっているらしいから。上位のランカーじゃないと危険よ」


 なるほど。確かに危険性は高いかもしれない。しかし、実力のある冒険者や傭兵なら、わざわざ犯罪に手を染める可能性は低いと思う。いくらでも稼ぎようはあるからな。


 油断はしない。でも、その犯罪組織を討伐できればスキルやお金が手に入る。引き際を見誤らないようにしよう。


 「今のお話を聞いた上で、この依頼を受けようと思います」


 「…そう。分かったわ」


 受付嬢が依頼の手続きをしているのを眺めながら、言い忘れていたことを告げる。


 「依頼書版にある盗賊討伐の件についてですが、僕が冒険者ギルドで盗賊討伐の依頼を受けて、依頼完了したのですが、他にも盗賊はいるのですか?」


 「君は冒険者ギルドにも所属しているの?」


 「はい。これが冒険者証明書ライセンスです」


 ミスリルの冒険者証明書ライセンスを受付嬢に見せる。すると、驚いた表情で俺を見つめる。


 「その見た目でBランク…上級冒険者なのね。それで盗賊討伐の件だけど、冒険者ギルドに確認して、こちらでも調査をしてみるわ。それによっては、依頼書は破棄しないといけないわね」


 「そうですね。では、僕はこれで失礼します」


 「実力は確かなようだけど、十分気をつけるのよ」


 傭兵ギルドを後にして、大通りに戻り、露店で昼食を買い、食べ歩きながら次の目的地に向かう。


 「ここが剣闘場か…」


 前世のスタジアムのような建物があり、出入口付近には露店が並んでいるが、今は誰もいない。きっと、会場入りする前に食べ物や飲み物を買い、試合を観戦しながら楽しむのだろう。


 暇そうにしている露店の店主に剣闘場の詳細を尋ねてみる。


 「すいません。肉串を買うついでに、1つ聞いていいですか?」


 「おう!何が聞きたいんだ」


 「この剣闘場に参加又は観戦する場合はどうしたら良いのですか?」


 「観戦は早朝に受付所が開設されるから、そこで木板に書かれた番号札を買うことだな。人数には制限があるから、早めに並んでおいた方が良いぞ。参加するには…坊主、本当に参加する気か?」


 「いえ、まだ考え中です」


 「なら、やめておいたほうがいい。試合はなんでもありの殺し合いだからな」


 殺し合い…まぁ、そうだよな。でも、合法的に【強奪】で相手の【職業】【魔法】【スキル】が奪える貴重な場所だ。


 「参考までに教えてください」


 「…基本的に参加させられるのは奴隷だ。借金奴隷や犯罪奴隷、戦闘奴隷が試合をする。実績を積み重ねれば、奴隷から解放されるらしい。そして、とても珍しいが、坊主みたいに参加したい奴もいる。それも、参加の受付所があるから、そこで申し込めば良い」


 「分かりました。ありがとうございます」


 「あと、たまに貴族がお抱えの食客を参加させることもある。権威を誇示するためにな。坊主はまだ子供なんだから、参加しないほうがいいぞ」


 貴族のお抱えの食客となると、どの程度の実力者なのだろうか?Aランク冒険者やSランク冒険者、上位のランカーだったりするのか?


 「教えて頂き、ありがとうございます。肉串5本ください」


 「おう!毎度あり!」


 俺は次の目的地に向かった。

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