第31話 忠告

 「ギルドマスター…ウォルトさん。何故、僕の手首を掴んでいるんですか?」


 「君がこの男を殺そうとしているからだ」


 「先に手を出してきたのはこの男達ですが?」


 「殺すのはやり過ぎではないか?」


 「この男達は僕に敵意を負けてきましたが?しかも、3人で」


 「そのことについては、俺から3人に厳重に注意する。それに、この男達は武器を抜いていない。君が武器を納めてくれれば、人が死ぬことはない」


 「…冒険者は全てが自己責任。僕は敵意を向けられれば、敵意を以て対応します。それに、この男達は特に躊躇することなく、僕に暴力を振るおうとしました。とても、慣れを感じます。今まで、この男達の暴力に屈した冒険者がいるかもしれない。ここで見逃せば、報復にやってくるかもしれない。事前に芽を詰んでおいた方が良いと思います」


 「私にはそのような被害があったとは、報告が上がっていない。君の考えは憶測の域を出ない。それに、二度と同じことを繰り返さないように、私が厳重注意をする」


 「分かりました」


 俺は短剣を納め、受付に向かう。ギルドマスターのウォルトは俺の行動を黙って見ている。


 「すいません」


 「はい、何でしょうか?」


 「あの男達による被害は僕だけですか?駆け出しや冒険者や下級冒険者の中に彼らから暴力を振るわれたり、脅しをかけられて、金品を奪われたりといったことは無かったのですか?」


 受付嬢は視線を俺からギルドマスターに移す。また、俺に視線を戻して…黙る。俺は依頼書版の前で屯していた先輩冒険者に声をかける。


 「あの男達によって、被害を受けた冒険者はいませんでしたか?」


 「…そ、それは…」


 彼らも視線を一瞬、ギルドマスターに向けて、答えに息詰まる。おそらく、ギルドマスターがいるため、正直に答えるべきなのか、悩んでいるのだろう。ギルドマスターへの印象は悪くしたくないが、彼らの日頃の行いに目を瞑るのも罪悪感がある。


 俺はギルドマスターの後ろで動揺している2人に声をかける。


 「貴方達は同じ冒険者に理不尽に暴力を振るったり、脅して金品を奪おうとしたのは初めてですか?」


 「あ、ああ!そうだ!ちょっと、酒を飲み過ぎたせいで、お前に絡んじまった」


 「そ、そうなんだよ!わ、悪い酔いしちまったみたいだ」


 「そうですか」


 ギルドマスターのウォルトさんに向き直り、その目を見据えながら言う。


 「この男達は「初めてだ!」と言っていますが、ギルドの職員や他の冒険者達が沈黙されていることについて、どうお考えですか?」


 「…この男達の冒険者証明書ライセンスを剥奪する。それで、この問題を解決としたい」


 「それだけでは不十分ですね。僕に向けられた暴力行為と精神的苦痛に対して、賠償をお願いします」


 「ま、待ってくれ!ギルドマスター!俺達は冒険者以外に稼ぐ方法がないんだ!」


 「た、頼む!冒険者証明書ライセンスの剥奪は勘弁してくれ!きちんと謝罪をするから!」


 「お前達の処遇について変更はない。それに、謝罪だけでは済まないようだ」


 「ぼ、坊主!悪かった!ほんの出来心だったんだ!」


 「もう二度とお前には手を出さないから、許してくれ!」


 「分かりました」


 「ほ、本当か!」


 「助かる!」


 「冒険者証明書ライセンスの剥奪、武器と所持金全額で命は取らないであげますよ」


 「「え…」」


 「…それで良いんだな?」


 「はい」


 「ま、待ってくれ!」


 「謝るからよ!許してくれよ!」


 「さっさと冒険者証明書ライセンスと武器の解除、所持金を出せ」


 ギルドマスターのウォルトさんがみっともなく、悪足掻きをする男達に向け、怒気を孕んだ声で行動を促す。


 男達はその怒気にあてられ、指示に従う。地面にめり込んでいる男に対してはウォルトさんが懐などを確認している。


 「これで良いだろうか?」


 「はい、ありがとうございます」


 「君の名前とランクは?」


 「僕はアレス。Bランクです」


 「…何処から来た?」


 「[イベリア王国]の[アヴァール]から来ました」


 「その歳でBランクとは凄いな」


 「[アヴァール]の冒険者ギルドのギルドマスターと実技試験をした結果、Bランクになりました」


 「なるほど。オランドに認められた実力者か。では、私は業務に戻るとする」


 そして、去り際に耳打ちをされる。「追い詰められた者が何をしでかすか分からない。気をつけるんだぞ」と言われたので、「ご忠告痛み入ります」と返事した。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 俺に絡んだ男達は気絶している男を連れて、冒険者ギルドを立ち去った。俺は本来の目的であった報告をしに、受付に向かった。


 「報告があります」


 「な、何でしょうか?」


 「この街に来る街道上で盗賊5人に襲われました」


 受付嬢は俺の報告を受け、カウンターに地図を広げる。


 「先ほど、[アヴァール]から来たと仰っていましたね。ここが[アヴァール]とこの街を繋ぐ街道です。どの辺りで襲われましたか?」


 なるほど。大雑把ではあるが、大陸地図みたいなものがあるのか。まだ、訪れたことがない国や[オスマン帝国]の[セルジューク]もある。


 「ここら辺ですね」


 「何か証明するものはありますか?」


 「盗賊達の死体を持っています」


 「え、えっと?どいうことでしょうか?」


 「【空間魔法】の収納空間に盗賊達の死体があるんです」


 「く、【空間魔法】が使えるのですか!?」


 「はい。なので、死体を出せるところに案内して欲しいんですが?」


 「わ、分かりました。ご案内します」


 受付嬢に案内され、解体場に行く。解体場には解体器具を点検、整備している人達がいた。


 「どうした?エミリーの嬢ちゃん」


 「ロディオさん。実はここに用事がありまして」


 「そうか。ん?その少年は?」


 「アレスです。Bランク冒険者です」


 「そりゃすげぇな!将来有望だな!それで、用事ってのは?」


 「実はここに来る街道上で盗賊達に襲われまして、その討伐確認のため、死体を出せるところに案内してもらっているところです」


 「それは災難だったな。だが、死体はあるように見えないが?」


 「【空間魔法】が使えるので」


 「坊主は一体何者なんだ…おっと、死体ならあそこに出してくれ」


 「分かりました」


 エミリーさんとロディオさんに指示された場所に向かい、盗賊達の死体を並べる。そうだ!武器や金品は回収しないとな。


 「随分と損傷が少ない死体だな」


 「本当のようですね。冒険者ギルドにも盗賊被害の件は報告されています。ただ、拠点が分からなくて…」


 「盗賊討伐の依頼は出ているのですか?」


 「はい」


 「では、僕がその依頼を受けます。拠点については、この盗賊達を尋問して分かっていますので」


 「流石ですね。規模はどのくらいですか?」


 「20人ほどいるようです」


 「そうですか。そういえば、アレスさんの仲間は何処にいらっしゃるのでしょうか?」


 「僕は一人ですよ」


 「パーティーは組んでいないのですか?」


 「はい」


 「では、他の中級冒険者の方にも声をかけてーーー」


 「一人で大丈夫です」


 「え!?いえ、流石に危険すぎます!」


 「[アヴァール]では同程度の規模の盗賊討伐をしましたし、オーク・キングが率いるオークの集落を殲滅もしたことがあるので」


 「「オーク・キング!?」」


 「そ、それは…お一人でですか?」


 「はい」


 「…ギルドマスターに確認してもよろしいですか?」


 「ええ。どうぞ」


 「では、盗賊討伐に行く前に冒険者ギルドに寄ってください。それと、死体の処理費用は盗賊討伐の報酬から引かせて頂きます」


 「分かりました。それと、この街でお勧めの宿屋ってありますか?値段は高めでも大丈夫です」


 「それなら、[戦人の憩場]が良いぜ!飯も美味いし、風呂付きだからな。値段は相応に高いが」


 「教えて頂き、ありがとうございます。そこに泊まってみます」


 エミリーさんと解体場を後にし、俺はこれからお世話になる宿屋に向かった。

 


 




 

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