第30話 餌

 「アレス様!もうそろそろ、[マイソール]に着きますよ!」


 「ふぅ…ふぅ…分かりました。最後まで油断せずにいきましょう」


 野営の際、ボランさんから聞いたが、[マイソール]は人の出入りが激しいので、盗賊や野盗の被害が絶えないようだ。


 ん?これは…フラグ回収したかな。


 「おい!そこの馬車、止まれ!」


 盗賊のような装いの男達が馬車の前方に立ちはだかる。人数は5人で長剣や短剣を携えてる。


 ステータスはレベル20前後。冒険者でいえば、F〜Eランク程度。前回の盗賊達より、人数は少ないので制圧しやすい。


 「アレス様。よろしくお願いします」


 「分かりました。少々、お待ちください」


 馬車と盗賊達の間に立ち、短剣を構える。


 「くははは!おい、坊主!たった一人でどうする気だ?」


 「全くだぜ!現状を理解できねぇみたいだ!」


 「「「ギャハハハ!」」」


 「一瞬で、背後を取れ、空間転移テレポート


 盗賊の一人の首を斬り落とす。


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 「「「「え…」」」」


 「呆けている暇はあるのか?」


 「穿て、雷霆の一撃、迅雷ライトニング

 「突き貫け、火炎の短槍、火槍ファイア・スピア


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 一人を残し、盗賊達を殲滅する。腰を抜かして座り込む男に声をかける。


 「殺されたくなければ、質問に答えろ」


 「な、何が聞きたいんだ!?」


 「お前達のアジトは何処にある?」


 「…答えたら、命は助けてくれるのか?」


 「ああ」


 「向こうの山の麓に洞穴がある。そこを拠点として活動している」


 「人数は?」


 「20人くらいだ」


 「そうか。少し額に触れるぞ」


 「な、何をする!?」


 「別に危害を加えるわけじゃない。大人しくしてろ」


 人差し指を汗ばんだ額に触れる。こいつの言っていることが本当なのか、思考や記憶を強奪する。


 「うがぁあああ!」


 男は身体をビクビクさせながら、叫んでいる。なるほど。初めてやってみたが、無理矢理脳を弄られるているから、痛みが伴うようだな。


 こいつの証言は嘘は言っていないようなので、このまま衛兵に引き渡すか。…いや、いくら既得のスキルとはいえ、貴重な熟練度を無駄にするのはダメだな。


 「ザシュ!」


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 盗賊達の死体を収納し、ジェフさんのところに戻る。


 「さて、出発しましょうか?」


 「流石ですね。では、行きましょう」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 「城壁が見えてきましたね。あまり人も並んでいなそうですね」


 「タイミングが良かったですね。ここからは、もう盗賊などもいないでしょうし、アレス様は馬車の中にお乗りください」


 「分かりました」


 ジェフさんに言われた通り、馬車の中に乗る。


 「アレス様、お疲れ様です」


 「いえ、護衛として当然です。城門前に並んでいる人も少ないですし、すぐ街に入れそうですよ」


 「それは良かったです。身体の調子は大丈夫ですか?野営の夜番に道中は馬車と並走してましたので」


 「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫です。少々、新しい街ということで浮き足立ってはおりますが」


 「ははは!存分に楽しんでください。私の商店で買い物する際は、値段を勉強させてもらいますので」


 「ありがとうございます」


 その後、入市手続きを済ませ、門を潜る。街並みは木造より煉瓦で建築されている建物が多く、人通りも多い。


 大通りに並んでいる露店の店主達が行き交う人に声をかけたり、店主と値引き交渉している人達もいる。


 [アヴァール]もそこそこ賑やかだったが、ここはそれ以上だ。


 「それでは、アレス様。この羊皮紙に依頼完了のサインを書きました。これで手続きは問題ないでしょう」


 「ありがとうございます。では、ここでお別れですね」


 「そうですね。また、ご縁がありましたら、よろしくお願いします」


 「こちらこそ、よろしくお願いします。失礼します」


 ボランさん達と別れ、冒険者ギルドの扉を開けて、中に入る。時間帯的には他の冒険者は依頼を受けている最中だと思うが、何処にでも酒呑みはいるみたいだな。


 盗賊の件を報告するため、受付に向かう。


 「おいおい、いつからここは託児所に孤児院になったんだ!」


 「ここは子供が来る場所じゃねぇぞ!」


 「ギャハハハ!」


 俺には餌を呼び込む能力でもあるのだろうか?ステータスのスキル一覧を見ても、そんなものはない。酔った男達が近づいてくる。


 「随分と良い装備じゃねぇか!」


 「本当だな!おい、坊主!勉強代として、武器と防具、有り金を置いていきな!」


 この街は人の出入りが激しいというし、こういうゴロツキもたくさんいるんだろうな。


 「僕は冒険者です。受付に用があるので、失礼します」


 一言告げて、横を通り過ぎようとすると、肩を掴まれる。


 「あの?離して頂けませんか?」


 「まだ、話は終わってねぇぞ!クソガキが!」


 「俺達を無視するなんて、いい度胸じゃねぇか!」


 「ちょっと怖い目に合わないと分からないんだろ!そうだろ、クソガキ?」


 たかが、Eランク程度の実力で何をイキってやがるんだ、この男達は?


 「あの、酒臭いの近寄らないでもらえますか?それに、体臭もきつそうですし、触れないでください」


 「あぁん!?お前!今なんて言った!?」


 「こいつ…調子に乗りやがって!」


 「調子に乗るとどうなるか…身体に直接教えてやんよ!」


 俺の肩を掴んでいた男が肩をぐいっと引っ張り、自分に向けさせ、拳を振り抜く。俺はその拳を受け止め、逆に引っ張り、男の頭部が目線の高さまでくると、後頭部を掴み、地面に叩きつける。


 「ドゴッ!」


 男の頭部が煉瓦の地面を砕き、めり込む。そして、短剣を構え、頸部に刺しこもうとすると、手首を捕まれ、声をかけられる。


 「その辺にしてくれないか?」


 俺の手首を掴む男を見据え、尋ねる。


 「貴方は?」


 「この街のギルドマスター、ウォルトだ」


 

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