バンテン王国・マイソール編
第29話 野営
「リーナ、今までお世話になりました。部屋も綺麗でリラックスできたし、ご飯も美味しかったし、最高の宿屋だったよ。ご両親にも伝えといてもらえるかな?」
「うん!伝えたく!また、この街に来る時は、うちに泊まってよ!」
「分かった。じゃあ、またね!」
「またね!」
今までお世話になった[豪傑の大成]を後にし、冒険者ギルドに向かった。
「おはようございます、アメリさん。ボランさんから、話は通っていますか?」
「おはようございます、アレンさん。ええ、伺っております。[バンテン王国]の[マイソール]までの護衛の件ですね?」
「そうです」
「こちらは護衛依頼ではなく、指名依頼になっております。手続きをしますので、少々お待ちください」
ボランさん、指名依頼にしてくれたのか。実績にもなるし、有難いな。
「手続きが完了いたしました。この羊皮紙を向こうのギルドに提出して頂ければ、報酬を受け取ることが可能です。無くさないように注意してください」
「ありがとうございます。そして、今までお世話になりました」
「これからも冒険者活動を頑張ってください!」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「おはようございます。ボランさん、マリロナさん、ジェフさん」
「おはようございます、アレス様。冒険者ギルドでの手続きは問題ありませんでしたか?」
「はい、問題なく。その件でお礼を言わせて頂きます。指名依頼として依頼して頂き、ありがとうございます」
「いえいえ、とんでもございません!こちらとしては、実力のある冒険者に護衛してもらうのですから」
「冒険者にとっては実績になるので、とても嬉しかったです。道中の護衛は精一杯努めさせて頂きます」
「よろしくお願いします!それでは、出発しましょう」
ボランさんが用意してくれた馬車に乗り込み、[アヴァール]を後にする。
うーん…座席は柔らかいが、この振動が如何ともし難い。お尻が割れそうだ。
「ボラさんさん、二つほどお聞きしたことがあります」
「何でしょう?」
「一つ目はこれから向かう[バンテン王国]の[マイソール]はどんな街なのでしょうか?」
「商業が盛んな商業都市で大きい街になります。流石にオークションなどはありませんが、露店も多く、演劇場や剣闘場などもあります」
おお!剣闘場!是非、観てみたいな。
「しかし、人の出入りが多くある分、治安もあまり良くないと思います。スラム街だけにとどまらず、平民街でも人攫いの被害が出ているようです。裏組織もいくつかあると聞いたことがあります」
人攫いに裏組織か…。潰しても良いかな?スキル的にも金銭的にも美味しいし、強くなれるから、一石二鳥なんだよな。
ああ…[アヴァール]では魔物を狩ることばかり考えていたから、裏の部分のことは頭に無かった。
「貴重な話をありがとうございます」
「いえいえ、貴族や商人なら知っていることですから」
「では、二つ目ですが、馬車を降りて、馬車と並走しても良いですか?」
「馬車と並走…ですか?」
「護衛と体力作りを同時に行えるかなと。魔物や盗賊が現れても、いち早く対応できますので」
「ははは!向上心が凄いですな!私も見習わなければ!どうぞ、お好きになさってください」
「ありがとうございます」
ジェフさんに馬車を一度止めてもらい、馬車を降りる。
「それではジェフさん、出発しましょう。速度は落とさなくて大丈夫なので」
「分かりました。では、出発します!」
その後、陽が落ちできたところで野営の準備をする。ジェフさんにテントの設営の仕方や簡単な料理を教わる。
『スキル【野営】Lv.1を習得しました』
『スキル【料理】Lv.1を習得しました』
「あの…本当によろしいんですか?私も夜の見張りをした方がよろしいのでは?」
「大丈夫ですよ。しっかりと守り抜きますから、私が護衛の間は休んで下さい」
「分かりました。よろしくお願いします」
ジェフさんが休むと、俺は少し離れたところで、目を瞑り、オーク・キングを敵として、想像の中で戦う。身体に疲労が蓄積してきたら、さらに身体をいじめ抜くため、筋トレを行う。
腕立て100回、指立て100回、腹筋100回、スクワッド100回、背筋100回、体幹トレーニング。
(冒険者も傭兵も身体が資本だからな)
筋トレを終えると、【魔力操作】の訓練を行う。
体内に巡る魔力を両腕や両足、その指先などに集中させる。なるべく、タイムラグを無くすように。
「グギャ!」
「全く…良いところだったのに…」
火と女性の匂いを嗅ぎつけたか。
「グ…グギャ…」
装備を更新してから、初めて使ったが、凄いな。ゴブリンの頸部を何の抵抗もなく、斬り落とせてしまった。
『既得のスキルは熟練度に加算されました』
翌日の朝を無事に迎えた。
「おはようございます、アレス様。何も問題はなかったでしょうか?」
「ええ、何も問題はありませんでしたよ」
「昨夜の見張りは一人だったと、ジェフから聞きました。馬車の中ではゆっくり休んでください。そして、今夜の見張りはジェフに任せて頂いても大丈夫ですよ」
「お気持ちだけで大丈夫でよ。私の役目は皆様を安全に街まで届けることです。少なくない報酬も頂くので、遠慮せず、任せてください」
「アレス様は逞しいですわね!冒険者の鑑ですわ!」
マリロナさんに褒められる。美女に褒められるのは悪くない。
「アレス様、無理はなさらないように。では、出発しましょう」
俺達は[マイソール]に向けて移動を開始した。
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