第23話 緊急依頼
宿屋の夕食を楽しみに、足早に歩き出す。
「おい!」
いきなり、背後から声をかける。振り返ると、3人のチンピラ風の冒険者がニヤニヤしていた。
「何か用ですか?」
「ああ。あまり他人には聞かれたくないから、路地裏に行こうや」
路地裏に向けて親指をクイッとする。内心、溜め息を吐きながら、男達についていく。人気のない路地裏に着くと、3人は振り返り、手を差し出してくる。
「俺達にも分け前をくれねぇか?」
「僕もそんなに所持金がないので、申し訳ありません」
「おいおい、嘘は良くねぇな。受付で大金を受け取っていただろう。少しでいいからよ、俺達に恵んでくれよ」
なるほど。俺と受付嬢のやり取りに聞き耳をたてていたのか。そこから、俺をカツアゲする算段を立てていたのだろう。
「僕も日々の生活で精一杯なので、分けることはできません。それに、貴方達とはパーティーを組んでいるわけでもないので」
「はぁ…物分かりが良くねぇな。俺達は建前として、お前に恵んでもらうという体にしているだけで、本音はずべこべ言わず、金を寄越せって言ってんだ」
「そうですか。では、お断りします」
「ははは!どうやら、自分が置かれている状況を理解できないようだ。俺達が丁寧に教えやるよ」
俺と会話を交わしていた男が近づいてきて、胸倉を掴んで顔を近づけてくる。
(…息臭いな)
「最後の忠告だ。大人しく金を寄越すか?」
「お断りします」
即座に断ると、思いっきり右頬を殴られた。
「ぐあああ!」
殴った本人が拳を押さえ、蹲っている。俺は蹲っている男の胸倉を掴み返し、拳を振りかぶる。
「【剛拳】」
【剛拳】で同じく右頬を殴り返してやると、バキッと音を立てて、男は膝から崩れ落ちた。
「てめぇ!やりやがったな!」
「ぶっ殺してやる!」
短剣を携えて、残りの男達が襲いかかってくる。こちらも短剣を抜き、男達を迎え撃つ。男達の技量はお世辞にも良いとは言えない。
「ぐあっ!」
「ぎあっ!」
『スキル【盗聴】Lv.1を獲得しました』
『既得のスキルは熟練度に加算されました』
武器を抜いた2人の死体から装備や金品を剥ぎ取り、最初に殴った男を確認すると、既に死亡していた。スキルを使うのはやり過ぎだったかもな。
男達の死体を回収し、宿屋に戻る。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
翌日、最初に向かったのは武具屋。
「おはようございます」
「おう!どうした?装備の補修か?」
「いえ、装備はまだ大丈夫です。今日はこれらを売りに来ました」
昨日の賊から剥ぎ取った武器と防具を取り出す。
「なんだこれは?随分と量が多いな。それに、防具はボロいし臭うぞ」
「入手もとは秘密ですが、これらって買い取って貰えますか?」
「うーん…短剣5本、長剣5本、槍1本、弓3個、斧1個、武器は全部で15か。状態はあまり良くないから8000エルケーで買い取ってやる。革鎧と軽鎧は…買い取れねぇな」
「分かりました。しかし、困りました。防具はどのように処分するか…」
「そうだな…手数料はかかるが、俺の方で処分してやっても良いぞ」
「良いんですか!勿論、手数料は払います」
「それなら、手数料は1500エルケーでいいぞ」
「それでお願いします」
盗賊達の戦利品の処分はこれで問題ない。俺は武器屋を後にし、傭兵ギルドに向かう。依頼書版を確認すると、[アヴァール]の依頼は無かった。近くのへの護衛依頼や盗賊討伐はあるが、まだ街を移動する予定はないかな。
冒険者ギルドに向かい、依頼書版を確認すると、緊急依頼が貼り出されていた。内容はオークの集落の発見又は殲滅。詳細を確認するため、依頼書を持って受付に行く。
「この緊急依頼の詳細が知りたいのですが?」
「分かりました。依頼が発注されたのは森の浅い場所でオークの被害が多く報告されています。今までそのような場所でオークが発見されることはなかったですし、被害もありませんでした。なので、近くにオークの集落が形成されたと、ギルドは考えています」
「分かりました。この依頼を受けます」
「アレスさんがとても強いのは存じ上げていますが、集落が形成されてるとなると、上位種や王種が存在している可能性があります。できれば、パーティーを組んで調査することをお勧めします」
「ご忠告痛み入ります。では、失礼します」
冒険者ギルドを後にして、森に向かう。パーティーを組むのは俺の復讐を果たしてからと決めたので、今は組むつもりはない。
「キャーーー!」
「ん?」
森を駆けていると、悲鳴が聞こえた。すぐに悲鳴が聞こえた方へ向かう。そこでは、4人の少年少女がオークと対峙していた。
身長は2mほどで腹部はでっぷりとしているが、それ以外は筋肉の鎧を纏っているようだ。豚の頭部に上向きの二対の牙、薄茶色の肌で腰蓑で陰部を隠している。
オークが少年少女達を見て涎を垂らし、陰部を勃起させている。きっと、少年を喰らい、少女を犯そうとでも考えているのだろう。
オークがその丸太のような腕を振りかぶる。少年は咄嗟に円盾で防御するも、体格と膂力の差に吹き飛ばされてしまう。
長剣を所持した少年が剣先を震わせながらも少女達を守ろうと前に出る。少女達はどちらも魔法職のようだが、オークに怯え、冷静な判断ができず、魔法を撃てないでいる。
オークも少年少女達も俺には気づいていないので、ここは奇襲するとしよう。
「突き貫け、雷霆の短槍、
『スキル【休眠】Lv.1を獲得しました』
『スキル【環境適応】Lv.1を獲得しました』
『スキル【精力絶倫】Lv.2を獲得しました』
『既得のスキルは熟練度に加算されました』
「大丈夫ですか?」
「………」
「あの?早く彼を回復させた方が良いのでは?」
「そ、そうだな!」
剣士の少年が先に我に返り、少女達に指示を出す。俺はオークを【空間魔法】で収納し、周囲に他のオークがいないか警戒する。
「あ、あの!」
振り向くと、先ほど吹っ飛ばされた少年も回復し、4人整列して、俺を見つめている。
「「「「助けて頂き、ありがとうございます!」」」」
一斉に頭を下げて、感謝を伝えてくる。
「大事にならなくて良かったです。それより、今日はあまり森に入らない方が良いと思います。ギルドでも緊急依頼が出ていたでしょう?」
「そ、それはそうなんだが、俺らも生活費を稼がないといけないからな」
「では、森の入り口付近まで戻ることをお勧めします」
「そうだな。それより、君の名前を聞いてもいいか?俺はアイク、Fランクだ」
「俺はデニス、同じくFランクだ」
「私はサーシャ、同じくFランクです」
「私はレイカ、Fランクよ」
「僕はアレス、Bランク冒険者です」
「「「「Bランク!?」」」」
「俺達と変わらない歳に見えるけど、上級冒険者なのか…」
「す、凄いですね」
「本当にBランク冒険者なの?」
「ええ、そうですよ。これが証明になります」
レイカという少女が疑いの目を向けてきたので、
「ほ、本物ね!凄いわ!」
「それより、早く戻った方がいいですよ」
「アレスは戻らないのか?」
「僕は緊急依頼を受けたので、近くにオークの集落がないか、調査してきます」
「そうか。改めて、助けてくれてありがとう。気をつけてな」
アイクがお礼を言うと、他の3人も同じようにお礼を言ってから戻っていった。
「よし、仕切り直して、オークの集落を探すぞ」
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