第21話 アジトに奇襲

 森の中を進む。盗賊達が通ったであろう場所は草が踏まれて獣道のようなものができていた。付近の木々に刃物で付けた目印もあったため、特に迷うことなく盗賊のアジトに辿り着いた。


 木々が伐採されており、周囲を柵で囲っている。伐採した木材を組み立て、作られた納屋のようなものがある。一見すると、盗賊のアジトには見えない。


 冒険者達が偶然発見したとてしても、素通りをするか、警戒を緩めて尋ねたところを不意を突かれてやられるということがありそうだ。


 俺がイメージしていた盗賊のアジトは岩山に洞穴を作り、その中を拠点とするものだった。もしかしたら、この盗賊達が例外なのかもしれない。近くに岩山も無いしな。


 柵の入り口には2人の見張りが立っている。ステータスは先ほどの襲撃部隊の奴らと変わらない。


 「貫け、雷霆の一撃、迅雷ライトニング


 迅雷ライトニングは一人の見張りの頭部を貫いた。頭部を貫かれた見張りは後ろの柵にぶつかるようにして倒れた。


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 「な、何が起きた!?」


 突然、仲間が倒れたので、驚いて隙を晒している奴の背後に空間転移テレポートし、首を掻っ切る。


 「う…ぁ」


 血飛沫を上げながら倒れるもう一人の見張り。


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 見張りの男達の死体を【空間魔法】で収納し、柵越しにアジト内の様子を伺う。アジト内で屯する盗賊はいない。ということは、複数ある納屋のどれかにいるのだろう。


 慎重に周囲の様子を伺いながら、一番手前の納屋に向かう。防音性のない木材の壁越しに気配や音を探る。ここには誰もいないようだ。


 扉を開けて中に入ると、短剣や長槍、弓などが簡単に整理されて置かれていた。ここは武器庫のようだ。


 武器を回収し、次の納屋に向かう。こちらも人の気配はなく、中を確認すると、食糧や酒類が置かれていた。あまり、衛生的ではなさそうなので、後で処理しよう。


 3個目の納屋に向かうと、ここでは人の気配と声がする。


 「ああ!気持ちいいぜ!」


 「おら!もっと声を出せよ!」


 「そろそろ、俺と代わってくれよ!」


 内容から中でどのようなことが行われているのか想像がつく。過去の記憶が蘇り、頭に血が上る。扉を乱暴に開けても、中の奴らは俺に気づかない。


 5人の男達に組み敷かれている1人の女性。


 「おら!どうだ!俺のーーー」


 「黙れ。このクズが」


 腰を振っていた男の首を斬り飛ばす。男の首と血飛沫が宙を舞う。


 『スキル【睡眠耐性】Lv.1を獲得しました』


 『スキル【空腹耐性】Lv.1を獲得しました』


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 「な!だ、誰だお前は!?」


 「見張りの連中は何をやっている!?」


 「く、くそ!早くボスに連絡ーーー」


 出入り口の扉に向かおうとした男を斬り伏せる。


 『スキル【弓術】Lv.2を獲得しました』


 『職業ジョブスキル【弓士】を獲得しました』


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 残りの男達が大人しくなる。素っ裸で無手なので抵抗する気が起きないのだろう。


 「た、頼む!命だけは助けてくれ!」


 「な、なんでも言うことを聞くから!」


 「あんたの手下になる!だから!」


 形勢が不利となると、無様に命乞いをする盗賊達。先ほどまで犯されていた女性は焦点の合わない虚な目で俺を見つめている。


 「お前らのようなクズは生きている価値がない」


 「な!待ってくれ!これからは改心してーーー」


 「うるさい。その臭い口を閉じろ」


 「グ、グフゥ…」


 『スキル【殴打耐性】Lv.1を獲得しました』


 『スキル【斬撃耐性】Lv.1を獲得しました』


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 命乞いが無駄だと悟り、残りの2人が殴りかかってくる。その攻撃を短剣で捌き、的確に頸部を貫く。2人はもがくように死んでいった。


 『スキル【窃盗】Lv.2を獲得しました』


 『スキル【性交術】Lv.2を獲得しました』


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 未だに虚な目でこちらを見つめる女性に優しく声をかける。


 「よく耐え抜き、頑張りましたね。これから、貴方を街まで送ります。立てますか?」


 「………もう…一人…います。その…人も…助けて…ください」


 「分かりました。必ず助けます」


 女性の悲痛な嘆願を聞き、俺は最後の納屋に向かった。


 「ははは!ああ…良い女だぜ!これは病みつきになりそうだ」


 納屋の中からは野太い男の声。それと気配がもう一つある。それ以外に気配はないので、盗賊のボスしかいないのだろう。


 先ほどは頭に血が上って冷静じゃなかったが、今は不思議と落ち着いている。俺は扉をそっと開ける。


 犯されている女性と目が合う。もう、生きるのを苦痛で絶望した表情をしている。


 女性を抱き抱え、乳房にむしゃぶりつき、腰を振っている男の頸部を短剣で貫く。


 「グハァ!」


 素早く短剣を引き抜き、もう一度貫く。さらに、短剣を引き抜き、もう一度貫く。


 『スキル【斧術】Lv.3を獲得しました』


 『スキル【建築】Lv.2を獲得しました』


 『スキル【詐術】Lv.2を獲得しました』


 『スキル【酩酊耐性】Lv.2を獲得しました』


 『職業ジョブスキル【重戦士】を獲得しました』


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 「ここに来る前に助けた女性に貴方のことを聞き、助けに来ました」


 「………あ、ありがとう…ございます」


 「よく頑張りましたね。少し待ってて下さい」


 彼女達が着れる衣服を探す。なるべく、清潔そうなものを選び、彼女に渡す。


 「では、行きましょう」


 まずは彼女達を街まで送り届けた後、もう一度来るとしよう。その後、もう一人の女性にも衣服を着させ、街の入り口に転移した。


 彼女達を伴い、並んでいる人の列を無視し、門兵に話しかける。


 「すいません」


 「ん?どうした?」


 「私はBランク冒険者のアレスです。彼女達を盗賊のアジトから救出したので、保護をお願いします」


 そう言いながら、ミスリル製の冒険者証明書ライセンスを見せる。


 「わ、分かった。彼女達の身柄はしっかりと保護しよう。それと、詰所で話を聴きたい」


 「今から盗賊のアジトに戻って、建てらている納屋などを壊してきます。魔物や盗賊に再利用されないために。その後でよければお話しします」


 「分かった。気をつけてな」


 門兵に彼女達を託し、盗賊のアジトに空間転移テレポートする。食糧や酒類、盗奪品、盗賊達の死体を回収し、納屋や柵を解体する。これで再利用は防げるだろう。


 もう一度、街の入り口に空間転移テレポートし、詰所で門兵に事情を話す。傭兵ギルドで盗賊討伐を受けたこと、街道上で馬車が件の盗賊達に襲撃されたところを助け、アジトを奇襲したこと。


 「本当にありがとう。後のことは我々に任せてくれ」


 「お願いします」


 詰所を後にして、傭兵ギルドに向かう。


 「討伐報告をしに来ました」


 「あら?今朝、盗賊の討伐依頼を受けた少年ね。依頼完了の報告?」


 「はい」


 「証明するものはある?無ければ、現地確認をこちらでする必要があるから、別途費用がかかるけど」


 「盗賊達の死体を持ってきたので、どこに出せばいいですか?」


 「死体?どこにも見当たらないけど?」


 「【空間魔法】の収納空間に入れてるので。このように」


 盗賊のボスの死体を収納空間から出す。


 「え!【空間魔法】が使えるの?」


 「はい。それより、死体を全部出していいですか?」


 「いえ、奥の検分場所で出してもらえる?」


 「はい」


 受付嬢に案内されて、ギルドの解体場のような場所に着く。


 「ここに盗賊達の死体を出して」


 「分かりました」


 言われた通り、約20人の盗賊達の死体を出す。


 「…本当のようね。よく一人で倒せたわね?」


 「大半が冒険者のFランク程度、ボスがEランクって感じでしたから」


 「確かに、君はBランクだけど、この人数相手に無傷ってのは凄いわね」


 「ありがとうございます」


 「それじゃ、死体はこちらで処理するから、報酬を渡すわね」


 受付に戻り、報酬の100,000エルケーを受け取り、傭兵ギルドを後にする。


 「まだ、時間もあるし、魔物でも狩るか」


 俺は再度、街を出て、森に入り、魔物を狩り始めた。


 

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