第19話 傭兵登録

 「おお!凄いな!これらがたった一日の成果だとは。それに…【空間魔法】が使えるのか?」


 解体兼素材検分をする解体場に魔物の死体や薬草を提出する。今日の成果は採集が[ヒール草]10束、[マナ草]10束、[デトキシ草]5束、[パライズ草]5束。


 狩猟がゴブリン30匹、コボルト20匹、ホーン・ラビット5匹、カモフラ・スネーク4匹、グラック・スネーク1匹、魔猪1匹。


 「ええ。習得するのにとても苦労しました」


 「その歳で習得できる奴は他にはいないと思うぜ!それに、Bランクの冒険者でもこの量を一日で納品するのは無理だ」


 「一つ訂正を。一日ではなく、半日です。今日は寝坊したので、昼過ぎから活動したので」


 「まじか!ははは!将来有望だな!これを受付に持っていけば、報酬が支払われる。ご苦労だったな」


 「ありがとうございます」


 解体兼素材検分担当の筋骨隆々なおじさんから羊皮紙を受け取り、受付に向かう。この時間は他の冒険者も依頼を終えて、受付に並んでいる。


 ギルド内は熱気と汗の匂いでむさ苦しいことになっている。受付嬢や女性の冒険者はかなり辛いだろうな。


 「確認をお願いします」


 自分の番がきたので、冒険者証明書ライセンスと羊皮紙を提出する。受付嬢は羊皮紙を上から下までしっかりと確認している。


 「す、凄いですね!流石、ギルドマスターに認められた人ですね。これからも頑張ってください!」


 「ありがとうございます」


 「こちらが報酬の100,000エルケーになります。ギルドでお預かりすることもできますが、どうしますか?」


 「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」


 報酬を受け取り、夕食に期待しながら、ギルドを出ると、一人の男に声をかけられた。


 「失礼、少しお話よろしいでしょうか?」


 「…はい、何でしょうか?」


 身長は170cmくらいで金髪の革鎧にローブを装備した男。【鑑定】や【心眼】でステータスを視らないので警戒心が高まる。


 「傭兵に興味はありませんか?」


 「…僕がですか?」


 「はい。そのBランクの冒険者証明書ライセンスを見て声をかけさせて頂きました。それに、最近、この街に来たのではないですか?」


 「何故、そう思われるのですか?」


 「実力のある者を勧誘するため、冒険者の情報は常に収集しているもので。今まで、名前や顔を見たことがなかったので、他の街から来た冒険者かと思いました」


 「そうですか」


 「ですが、最近、ボロボロの服を着た少年が門兵にコボルト・キングの素材を入市料代わりにしたり、冒険者ギルドのギルドマスターと実技試験を行い、Bランクになった少年の話を聞きました。それは、貴方のことではないですか?」


 表情が読みにくいからカマをかけているのか分からない。ただ、聞いてくるってことは街中で俺の姿を見たわけじゃなさそうだ。


 この容姿とBランクの冒険者証明書ライセンスでは誤魔化しきれないか。


 「その少年というのは僕のことで間違いないです」


 「あっさりと認められるのですね?」


 「冒険者は多種多様な人達が多いですが、この容姿とランクは正直、側から見れば不釣り合いに見えますからね」


 「そうですか。では、本題に戻りますが、傭兵になってみませんか?今なら傭兵に登録すると、30,000エルケー貰えますよ」


 なんて謳い文句だ。しかし、しっかりと内容を聞いてからだな。


 「お話を聞かせてください」


 「では、傭兵ギルドに案内しましょう。私はあくまで勧誘と案内までなので、あとは職員に聞いてください」


 「分かりました」


 男の後についていき、大通りの裏の人通りの少ない通りに傭兵ギルドはあった。建物の大きさは冒険者ギルドよりは小さい。


 男の案内は入り口までで、中に入ると、中央に大きな依頼書版があり、その奥に受付がある。とりあえず、依頼書は帰りにでも確認するとして、受付に向かう。


 「すいません」


 「何でしょう?」


 受付嬢は少し目を細めつつ、俺を見る。


 「傭兵について教えてください」


 「分かりました。傭兵は主に冒険者ギルドでは取り扱わない、あるいは取り扱えない依頼を受けることができます。盗賊や野盗、逃亡した犯罪者の捕縛あるいは討伐、貴族からの秘匿の依頼などですね。」


 盗賊や野盗は同じでも、逃亡した犯罪者の捕縛、もしくは討伐は冒険者ギルドの依頼にはないし、貴族からの秘匿依頼って、きっと後ろ暗いことだろうな。


 「傭兵はある程度実績を重ねると、順位がつけられます。順位は100位までで、その者たちをランカーと呼びます。ただし、順位は国ごとになりますので、違う国に拠点を移した場合は、一から実績を積まなくてはなりません」


 それは、面白いな。冒険者とは違い、ランク制ではなく、順位制。しかも、順位を得るためにはある程度、実績を積む必要がある。


 「傭兵の説明は以上です。ちなみに、貴族の秘匿依頼などはランカーにならないと、滅多にありません」


 「分かりました。しかし、何故、傭兵ギルドに加入するだけで30,000エルケーも貰えるのでしょう?」


 「それは…冒険者に比べて圧倒的に死亡率が高いからです。知性なき魔物を相手にするのではなく、元冒険者や元兵士、あるいは他国の傭兵と戦うことがありますので、実力が無い者は自然と淘汰されます」


 なるほど。事情は分かった。俺的には【強奪】で強者から能力を奪えるのは願ってもないことだ。それに、冒険者だけでなく、傭兵として俺の両親を殺した連中の情報も集まるとしよう。


 「分かりました。傭兵に登録します」


 「…見たところ、とても強そうには見えないし、まだ子供でしょ。本当に登録するの?」


 「はい。それと、まだ子供ですが、Bランク冒険者ですので」


 Bランクのミスリル製の冒険者証明書ライセンスを見せる。


 「なるほど。実力は確かなようね。分かったわ、手続きするから、待ってて」


 少しして、受付嬢が透明なバングルを渡してきた。


 「これが傭兵の証。もし、貴族からの秘匿依頼などが入ったら、そのバングルが光って知らせてくれるわ。その時は傭兵ギルドに寄ってね」


 「分かりました。ありがとうございました」


 その後、30,000エルケーもしっかりと貰い、依頼書版を確認する。


 「お!近くに盗賊の出没場所がある。今日はもう遅いから、明日も依頼書があるなら、受けてみよう」


 今から走れば、夕食の時間に間に合う。俺は急いで宿屋に戻るのだった。

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