第17話 心機一転

 「いらっしゃいませ!」


 「こんにちは。宿泊は可能ですか?」


 「人数は何人ですか?」


 「1人です」


 「お客さんは運が良いですね!ちょうど、一部屋空きがありますよ!」


 「それは良かった。宿泊費について教えてください」


 「1泊1,000エルケー、朝食と夕食付きだよ」


 所持金は10,000エルケーと少し。まずは3日分支払っておくか。


 「では、3日分お支払いします」


 「なら、3,000エルケーだよ。あ、お客さんのことはなんて呼べばいい?」


 「僕はアレス。アレスと呼び捨てで大丈夫です」


 「私はリーナ。この宿屋の看板娘!」


 「リーナさん、これからよろしくお願いします」


 「そんなに畏まらないで!あまり私と年齢も変わらなそうだし、リーナって呼んで!」


 「分かったよ、リーナ」


 「それじゃ、部屋に案内するね!」


 リーナの後について部屋に向かう。


 「ここがアレスの部屋ね!何か分からないことがあったら、気軽に聞きにきてね!」


 リーナは仕事に戻り、俺は部屋の扉を開けて、中に入る。すぐ右側には扉が2つある。一つずつ確認してみる。


 手前の扉はトイレだった。前世の和式便所の形をしており、水洗ではない。しかし、臭いが充満していない。何か仕掛けがあるのだろうか?


 奥の扉は浴室だった。浴槽はなく、壁にシャワーヘッドのようなものがあり、手で触れて、魔力を通すことで温水が出る仕組みのようだ。


 部屋の中にはシングルサイズのベッドが1つ、作業机と椅子が1つずつあるだけだった。でも、ベッドは柔らかく、眠りやすそうだったので良かった。


 【空間魔法】があるので、部屋に置く荷物もない。というより、そろそろ服装や装備をどうにかしたほうが良いだろう。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 宿屋を後にして、街中を散策する。露店に出ている肉串や果実、アクセサリーなども気になるが、服飾の店を探す。


 「いらっしゃいませ!」


 店に入ると女性の店主が出迎えてくれる。しかし、俺を格好を見ると顔を顰めた。


 「あんた、随分と酷い格好じゃないか。何か訳ありそうだけど、金は払えるのかい?」


 「5,000エルケーで服は買えますか?」


 「そんなに掛からないよ。服は自分で選ぶかい?」


 うーん…特にファッションを気にするタイプじゃないし、一般的な平民服でいいよな。


 「一般的な平民服でお願いします」


 「分かったよ。ついておいで」


 意外と丁寧な対応に驚く自分がいる。このような見窄らしい子供が来たら、追い返されると思っていた。


 服は1着、下着は2着買って、店を出た。意外と安く済んだため、次は武具屋に行こう。


 「いらっしゃい!………」


 ここでも先ほどの服飾屋の店主と同じ反応をされた。


 「武器や防具を買いに来ました。その前にこの武器は売れますか?」


 俺達を襲った兵士3人の長剣と今まで使っていたナイフ。店主のおじさんは俺が【空間魔法】から武器を取り出したのを見て、驚いていた。


 「坊主…【空間魔法】が使えるのか?」


 「はい」


 「冒険者か?」


 「そうです。Bランクです」


 冒険者証明書ライセンスを見せる。


 「ミスリルの冒険者カード…確かに、本物だ。おっと、すまねぇ。これらの武器を売りたいんだな?」


 「はい」


 「長剣は1本1,000エルケー、ナイフはこの状態じゃ買い取れないな」


 ナイフは6歳の頃から使ってるからな。見た目が凄くボロボロだし、仕方ない。


 「では、長剣は売ります。ナイフは代わりに処分してもらっても良いですか?」


 「構わねぇよ。それで、次は武具の相談か?」


 「はい。武器は短剣、攻撃は基本回避するので、機動性重視の防具がいいです」


 「武器は分かった。防具は機動性重視なら革鎧と胸当て、籠手…靴も新調したほうがいいだろう。予算は?」


 「5,000エルケーでお願いします」


 「分かった」


 まず、2本の短剣を渡してきた。


 「あの?2本とは言ってないんですが?」


 「サービスだ。どうだ?持ってみて、違和感はあるか?」


 短剣を振ってみる。持ち手の部分も滑りにくく、長さもちょうどいい。


 「大丈夫です。とても扱いやすいです」


 「短剣の扱いが熟達しているな。若いのに凄いな」


 「ありがとうございます」


 「防具はこれとこれと、これだな。今から調整するから、じっとしてろよ」


 「はい」


 おじさんが身体の周りを動き回り、留め具などの調整をしている。


 「よし、できた!実際に身体を動かしてみろ」


 言われたとおりに拳撃パンチ蹴撃キックなど一連の動作に支障がないか確認する。


 「全く阻害感がありません。動きやすいです」


 「そうか。なら、会計を済ませるか」


 短剣2本、革鎧、胸当て、籠手、靴で5,000エルケー。

なんとか手持ちで足りたが、少し懐が寂しくなった。


 明日から依頼を着実に熟して、金を稼いでいこう。ポーションなども買わないといけないし、金はいくらあっても足りない。


 「坊主!頑張れよ!」


 「ありがとうございました」


 武具屋を後にして、宿屋に戻る。


 「アレス!夕食の準備できてるけど、食べる?」


 「お願いするよ、リーナ」


 「はーい!」


 空いている席に着き、少しすると夕食が運ばれてくる。メニューは肉の丸焼きにサラダ、スープだ。量は…3人前くらいあるんじゃないか?


 一口食べると、あまりの美味しさに感動してしまった。奴隷の時の飯より、何百倍も美味い!かき込むように平らげる。


 「リーナ、ご飯とても美味しかったよ」


 「ありがとう!父さんも母さんも喜ぶわ!」


 自室に戻り、シャワーを浴びて今までの汚れを落とす。身体だけじゃなく、心も洗われるようだ。


 タオルで身体を拭いた後は購入した服に着替える。そのまま、柔らかいベッドに入ると眠気が襲ってくる。


 つい最近まで、森の中で生活してたから、無意識に警戒し、気が抜けなかった。そのせいもあって、俺は深い眠りに落ちていった。

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