第16話 冒険者登録

 人が並んでいない冒険者受付の女性に話しかける。


 「冒険者登録をしたいので、手続きをお願いします」


 「承りました。こちらの羊皮紙に記入をお願いします」


 うーん…両親に筆記は教えてもらっていない。ここは代筆を頼もうかな。


 「文字が書けないので、代筆をお願いできますか?」


 「俺が代わりに書いてやろう」


 「「え…」」


 横から話しかけてきたのは先ほどの男だ。いや、別に受付嬢に代筆してもらうので、必要ないんだが。


 「代筆には料金がかかる。俺が無料タダで代筆してやる」


 うーん…ここは素直にお願いしておくか。


 「では、よろしくお願いします」


 「おう。それで名前は?」


 「アレスです」


 「年齢は?」


 「12歳です」


 「12歳か…それでその強さは訳ありか」


 「何か言いましたか?」


 「いや、なんでもない。最後に得意な戦闘方法は?」


 「短剣と格闘による奇襲です。魔法も使えます」


 「なら、魔法戦士でいいな」


 男は記入を終えた羊皮紙を受付嬢に渡す。


 「こいつの冒険者証明書ライセンスはまだ作らなくていい。これから実技試験を行った後、ランクを決める」


 「分かりました」


 なんだ?勝手に話が進められているが…。


 「あの?実技試験って何ですか?」


 「俺とアレスが実際に戦ってみて、実力を測るんだ。試験結果に基づいて冒険者ランクを決める」


 「実技試験は全員受けているんですか?」


 「いや、基本的には行わない。実力のある奴が登録時に自己申告をした場合だけだな」


 「僕は自己申告してないんですが?」


 「ははは!悪いがお前のステータスは視させてもらった。実力のある奴を低ランクにするのは、冒険者ギルドにとっても不利益しかないからな」


 「断るという選択肢は?」


 「実力相応のランクであれば、面倒ごとも少なくなるし、受注できる依頼の範囲も広がるし、稼ぎやすくなるぞ?」


 「…実技試験をお願いします」


 「そうこなくっちゃな!」


 男についていき、冒険者ギルド内にある訓練場に向かう。広さは縦横25mくらいで、地面は土を固めただけ。木剣や木盾などが備品として壁に並べられている。


 「この中から好きな武器を選べ」


 「では、この短剣で」


 「よし、じゃあ始めるか!」


 俺と男は少し距離を取り、向かい合う。


 「あの?」


 「どうした?」


 「お名前を聞いてもいいですか?」


 「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったな。俺は冒険者ギルドのギルドマスター、オランド・ダイトだ」


 「アレスです。よろしくお願いします、オランドさん」


 「俺は手加減するが、アレスは全力でかかってこい!」


 この会話のやりとり…ジルガ爺さんとの修行を思い出す。


 「はい!」


 返事と同時に空間転移テレポートでオランドの背後を取る。その頸部を狙うが、当たる直前に短剣が空を切る。


 【気配感知】では反応を拾えないが、【熱源感知】と【嗅覚感知】が背後の反応を捉える。空中で身体を翻して、背後を向くと、拳が迫っていた。


 咄嗟に【堅守】と【魔纏闘鎧】で防御を固め、拳を短剣の腹で受ける。少し吹き飛ばされる程度で済んだが、手加減している状態でこの威力。


 顔を上げると、オランダがこちらに向かってきている。オランドの拳を短剣の腹で受け流し、軌道を逸らす。そして、短剣を裏拳のように振るうが、オランドは逆の拳で相殺してくる。


 オランドは回し蹴りで顔面を狙ってくるが、上体を逸らして、回避する。だが、急に回し蹴りが止まり、かかと落としの様に振り下ろしてくる。


 「い、一瞬で、背後を取れ、空間転移テレポート!」


 慌てて詠唱し、オランドの背後に回る。短剣をオランドに向けて振るうが、避けられてしまう。先ほどと同様、背後に反応を捉えたので、振り向いて迅雷ライトニングを放つ。


 「お!ここで【雷電魔法】か!?」


 迅雷ライトニングはオランドに直撃したが、全くダメージを受けていない。


 「アレス、魔法の実力は分かった。次は格闘戦の実力を見せてくれ!」


 そう言いながら、向かってくるオランド。俺は言われた通りにするため、短剣を遠くに放り投げる。


 ジルガ爺さんに鍛えてもらったんだ。自信を持って挑め!


 オランドの拳を相殺するのではなく、掌で側面に触れ、軌道を逸らす。軌道を逸らさない場合のみ、躱す。


 「よし、ここまでだ!」


 「ふぅ…ありがとうございました」


 「その歳で熟達した魔法攻撃と格闘戦、良い師に恵まれたな」


 「はい!本当に…」


 「…実技試験とステータスを加味して、アレスをBランクとする。これから受付に向かうぞ」


 「はい」


 訓練場を後にして、受付にやってくる。


 「アメリ、こいつの冒険者証明書ライセンスを作ってくれ。ランクはBだ」


 「え!Bランク!?」


 「驚いていないで、早く作ってやれ」


 「は、はい!」


 アメリさんは奥の部屋に行き、それほど時間もかからずに戻ってきた。


 「持ってきました」


 「おう、ありがとう。アレス、これがBランク冒険者のカードだ。ちなみに、ミスリル製だ」


 「ありがとうございます。無くさないようにします」


 蒼銀色に輝くカードには名前とランクが書かれている。他にも余白があるので何か意味があるのだろう。


 「アメリ、冒険者について教えてやってくれ。俺は仕事に戻る」


 「分かりました。お疲れ様でした」


 オランドは階段を上っていき、2階の奥の部屋に入っていった。あそこがギルドマスターの執務室か。


 「では、アレスさん。冒険者について説明しますね」


 「お願いします」


 「冒険者はG〜SSランクまでランクがあります。一般的にGランクは最下級冒険者、F〜Eランクは下級冒険者、D〜Cランクは中級冒険者、B〜Aランクは上級冒険者、Sランクは最上級冒険者、SSランクは英雄級冒険者と呼ばれます」


 「僕はBランクだから、上級冒険者ということですか?」


 「そうです。ギルドマスターの権限で上げられるランクはBランクまでです。アレスさんは凄いんですよ!」


 「ありがとうございます」


 「努力で至れるのはAランクまで。才能と努力でSランク、その中でも選ばれた者だけがSSランクになれるんです」


 なら、最終目標はSSランクだな。


 「依頼は採取、討伐、護衛、指名、緊急の5種類あります。基本的に自身のランクより1つ上のランクまでしか依頼は受注できません。Bランク以上の依頼ともなるとパーティーを前提とした内容になります。パーティーを組むことも検討してください」


 パーティーか…憧れはあるけど…。


 「依頼の失敗と冒険者証明書ライセンスの紛失には罰金が発生します。そして、冒険者証明書ライセンスの再発行にも安くない料金がかかるので注意してください」


 「分かりました」


 「他に何か質問はありますか?」


 「この街でオススメの宿屋を教えてください」


 「Bランク冒険者の収入なら[豪傑の大成]がオススメです。部屋も清潔で食事の量も多く、人気なんですよ。場所は建物を挟んだところにあります」


 「ありがとうございます。早速行ってみたいと思います」


 「はい、頑張ってくださいね」


 アメリさんの激励を胸に、俺は冒険者ギルドを後にした。


 

 


 


 


 

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