第15話 粗悪粗暴

 この世界で初めての街並。石畳で舗装された街道が真っ直ぐ伸びており、その両脇を木造の平屋が所狭しと並び、街道の先に巨大で豪華絢爛な城が聳え立っている。


 街道上では様々な人達が行き交っている。容姿端麗で美男美女な森人エルフ族や豊かな口髭を蓄え、筋骨隆々な身体をしている地人ドワーフ族。


 森人エルフ族と同様で容姿端麗な者が多く、側頭部に羊角を生やした魔人族、額から2本の白い鬼角を生やし、肌の色が少し赤みを帯びている鬼人族。


 頭部や顔、鱗など竜の特徴がある竜人族が革鎧や軽鎧、長剣や盾などを装備し、談笑しながら歩いている。初めての異種族に感動を…いや、警戒心が高まる。


 ほとんどの者達が【鑑定】や【心眼】でステータスを視れないのだ。それだけ【隠蔽】のレベルが高いからだろう。いや、俺のスキルレベルが低いからか?


 異世界転生モノの主人公達は森人エルフ族や地人ドワーフ族を見たら、心の中で発狂して喜んでいた。俺も少し前であればそうだっただろう。


 しかし、厳しい環境で生きてきた身としては感動よりもこの者達が敵意を向けてきた時に生き残れるかどうかを考えてしまい、あまり喜べない。


 俺は周囲を警戒しながら冒険者ギルドに向かった。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 【鑑定】や【心眼】で視れる者達のステータスを確認しながら、冒険者ギルドを探す。5分ほど歩いたところで、周囲の平屋とは明らかに違う建物を見つけた。


 煉瓦で建築され、高さも幅も平屋2個分はあり、とても頑丈で大きな建物だ。3人は横になって通れる両開きの木の扉。


 扉の上には大きな剣と盾の象徴シンボルが描かれている。


 大きく深呼吸し、扉を開ける。正面には4つの冒険者受付と1つの依頼受付があり、それぞれに綺麗な女性が座っている。それと、受付の横には幅が広い通路があり、奥に扉がある。素材置き場でもあるのだろうか?


 左側には飯屋が併設さており、テーブルと椅子が並んでいる。まだ陽が出ているのに酒を飲んで酔っ払っている人達がいる。


 右側には依頼書版があり、羊皮紙に書かれた依頼書が貼ってある。しかし、数は少ない。時間帯的にも冒険者が依頼を受けていると思われる。


 (ふぅ…見られるているな)


 いきなりボロボロの子供が入ってきたので、受付の女性達も酔っ払い連中もこちらを不思議そうに見ている。


 好奇の視線を受けながらも、構わずに進もうとすると、1人の酔っ払いが声をかけてきた。


 「おいおい、ここは教会や孤児院じゃないんだぜ。来るところを間違ってるぞガキ。しかも、汚ねぇし、臭えし、早く出てけ!」


 「すいません。服はこれしかなくて、お金もないので。それと、今日は冒険者登録をしに来ました」


 「はぁあ!お前みたいな小便臭いガキがか?無理に決まってんだろ!冒険者は強いやつにしかならないんだぜ!俺みたいにな!」


 「最初は誰でも未熟です。冒険者だって、最初は市中依頼や薬草採取でコツコツ実績を積んでいくものではないのですか?最初から強い人なんていませんよ」


 「生意気な野郎だな…。俺が親切に教えているうちに帰れば良かったものを。最後にもう一度だけ言うぞ。お前みたいな小便臭いガキは帰って、ママのおっぱいでもしゃぶってろ」


 「…ご忠告ありがとうございます。でも、僕は冒険者になりたいので。失礼します」


 「帰れって言ってんだろう!ガキが!」


 男はとうとうブチギレたのか、右拳で俺の左頬を殴ってきた。


 「ぐっ………」


 少し衝撃はあったが、あまり痛くはなかった。ステータスは俺より下だったので、正当防衛のために避けなかった。


 「な、なんで平気な顔して…くぼぁ!」


 驚いて無防備になっているところを【跳躍】と【剛拳】で殴り返してやった。男は地面に沈み、気絶している。


 「て、てめぇ!やりやがったな!」


 「ぶち殺してやる!」


 彼の仲間だと思われる男達が俺に剣と槍を構えて、襲いかかってきた。振り下ろされる剣を空間転移テレポートで躱し、槍の男の人頸部に向かって【空間魔法】の収納空間から出した長剣を振るう。


 「どこ行きやがった!」


 俺を見失って隙を晒している男の背後に【抜き足】【差し足】【忍び足】で近寄り、心臓を貫く。


 「ぐふぅ!お、お前…」


 心臓を貫かれて俺に気付くが、もう遅い。剣を強引に引き抜くと男の胸から血飛沫が舞う。


 『スキル【恐喝】Lv.1を獲得しました』


 『スキル【強盗】Lv.1を獲得しました』


 『職業ジョブスキル【槍士】を獲得しました』


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 「新規スキルは2つだけか」


 2人の死体と気絶した男の身包みを剥ぐ。装備は後で武器屋にでも売って、有り金は…酒ばっかり飲んでいそうだから、少ないか。


 戦利品のしょぼさに肩を落としながら、受付に向かおうとすると、目の前に男が見下ろすように立っていた。


 「おい、坊主。この状況を説明しろ」


 なんだろう…身が竦み、本能が全力で警笛を鳴らしている。絶対に歯向かってはいけない、全力で逃げたいが、身体が動かない。


 「…気絶している男は僕がガキだからと難癖をつけて、殴ってきました。死んでいる2人は武器を抜いて襲いかかってきたので殺しました」


 「お前の実力なら殺さずに制圧出来たんじゃないか?」


 「僕はまだ子供です。2対1で大人に襲われたら、こちらが殺されます。僕は油断せず、手心を加えず、適切に対処したつもりです。それに、冒険者は全てが自己責任ではないのですか?」


 「ふん!生意気なことを言う。冒険者は魔物や盗賊の被害を減らす貴重な人材だ。多いに越したことはない」


 「それはあくまで人格と実力がある冒険者に限るのでは?粗暴で粗悪な冒険者も貴重な人材なら、冒険者ギルドは管理が大変でしょうね。市民や僕のような子供に被害が出たら、冒険者ギルドが存在する意義がないですね」


 「………」


 「………」


 「ははは!まだ子供の身でありながら、冒険者ギルドについて熟知しているようだ。ちょっと待ってろ」


 男はそう言って、受付の方に向かっていく。女性に何か話しかけて、その女性が頷き、奥の部屋に行く。


 戻ってきた女性の手には巾着袋のようなものがあり、それを男に渡す。


 「今回はうちの冒険者が済まなかった。しかし、怪我を負うどころか、返り討ちにしたこともあって、これぐらいしか渡せないが、許してほしい」


 「これは?」


 「この袋には10,000エルケー入っている。今回の被害に対する慰謝料だ。それと、冒険者になりたいそうだから、登録料も無料タダにしておく」


 「分かりました」


 「ありがとう。死体と気絶している男についてはこちらで処理するが構わないか?」


 うーん…【悪食】の効果によれば、人種も食えるんだよな。そうなると…いや、不潔そうな男を食うのは生理的に無理だな。


 「では、お願いします」


 男に後の対応を任せて受付に向かった。


 


 


 


 


 


 


 

 

 


 

 


 


 

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