第4話 打撃訓練

 森の探索から戦闘奴隷の居住区に戻る。素材回収場所で強面の大男に籠の中身を全て渡す。


 水場で返り血などを流し、配給された少量のパン粥を貰って、テントに戻る。


 「アレン、アレスお帰りなさい」


 「ただいま、マリア」


 「ただいま、母さん」


 「二人とも怪我はない?」


 「俺もアレスも大丈夫だ」


 「アレンのことはあまり心配してないけど、アレスは今日が初めの狩りだったから…心配だったわ」


 「マリア、アレスは凄い才能の持ち主かもしれない」


 「あら?そうなの?」


 「ああ、この歳で既に【魔力感知】を所持しているみたいなんだ。俺やマリアも教えてないのに」


 「本当なの?アレス」


 「本当だよ」


 「凄いわね。それなら、だいぶ狩りも楽なのではないかしら」


 「俺と同時にホーン・ラビットを見つけた時は驚いたな。スモーク・スネークもあっさり見つけたし」


 「アレスには狩猟の才能がありそうね!」


 両親は俺のことをベタ褒めしてくれるのでとても嬉しく誇らしい気分だ。もっと頑張ろう!


 「父さん、食事が終わったら狩りに戻るの?」


 「うーん…狩りもいいが、戦闘訓練と悩んでいる」


 「戦闘訓練は何をやるの?」


 「無手の格闘訓練や狩猟技能向上訓練、魔法習得の訓練などだな」


 「父さんはどんな魔法が使えるの?」


 「父さんは【火炎魔法】が使えるぞ。狩猟の時もわざわざ火を起こす必要もなく、動物や魔物の肉をその場で焼いて食べることもできる。非常に便利な魔法だ」


 「母さんは?」


 「私は【水波魔法】が使えるわ。水筒が無くても魔力さえあれば水分補給に困ることはないし、身体を洗うことだってできるから便利ね」


 「なら、食事が終わった後は戦闘訓練がしたい!」


 「分かった!時間がもったいないから急いで食べるぞ!」


 「うん!」


 「ダメよ!しっかりよく噛んで食べなさい!」


 「「すいません!」」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 「よし!それじゃ、訓練を開始する」


 「お願いします」


 「まずは俺の身体に拳撃パンチを打ち込む練習だ。最初は100回、準備はいいか?」


 「準備はいいけど、父さん大丈夫なの?身体で拳撃パンチ受けても」


 「安心しろ!これでも鍛えているからな。子供の拳撃パンチなら大丈夫だ!」


 「分かった。なら、まずは全力で拳撃パンチするから」


 「おう!どんとこい!」


 俺は腰を落とし、右拳を引き絞り、全力で父さんの身体に拳撃パンチを打ち込んだ。


 「…ふむ。このような拳撃パンチではゴブリンすら倒せないぞ」


 「全力だったんだけどな…。やっぱり、正しい打ち込みじゃないとダメだね」


 「そうだ。力任せの大振りな拳撃パンチじゃ、相手は倒れてくれない。躱されるか合わされるかして、こちらがやられる。今から正しい型を教える。まずはーーー」


 父さんは重心の移動や拳の握り方など丁寧に教えてくれて、これなら凄い拳撃パンチが打てそうな気がする。


 「よし、それを忘れないように今から100回打ち込みをする。一回一回丁寧にやれ。量を熟すのも大事だが、一回一回の質も大事だからな」


 「うん!」


 「よし!始め!」


 父さんの合図で打ち込みを開始する。20回を超えたあたりから疲労が溜まり、腕だけの力で打ち込んでしまう。


 「アレス、よく聞きなさい。100回はあくまで目安だ。だから、100回の不完全な拳撃パンチよりも1回の完璧な拳撃パンチを打ち込みなさい」


 「はぁ…はぁ…うん!」


 「良い返事だ!頑張れ!」


 なんとか100回の打ち込みを終える。


 「よくやった!次は左手で打ち込みをするが、できるか?」


 その言葉に無理という言葉が過るが、頭を振る。なんのために特典チートまで貰って転生したんだ。


 権力や暴力に屈しないためだろう!ならば、立て!一回でも多く拳を打ち込め!


 「ふぅ…大丈夫!まだできるよ」


 「流石、俺の息子だ!よし、続きを始めるぞ!」


 その後、左手での打ち込みも終える。もう、両腕は上がらない。


 「もう両腕は上がらないだろう。もし、敵の目前で両腕が塞がっていたり、使えなかったらお前はどうする?」


 疲労困憊で拳は握れない。ならば、どうする。まだやれることがあるじゃないか!


 「それなら、蹴り飛ばすよ」


 「ははは!そうだ!拳が握れないなら、足を上げろ!敵の顔面に、鳩尾にその蹴りを入れるんだ!そうすれば、お前の勝ちだ!」


 アレンは座り込んでいる俺の手を取り、立ち上がらせる。


 「蹴撃キックの打ち込みも左右100回ずつだ。狙う場所は俺の顔面でも鳩尾でも構わない。お前の全力を打って来い!」


 「はい!」


 俺は黙々と蹴りを打ち込み続ける。身体中から汗が吹き出しているが、そんなことも気にならないくらい集中している。


 「ふむ…疲れのせいか無駄な力が入ってないな。アレス、いい蹴りだ!」


 「はぁ…はぁ…はい!」


 少しずつ足が上がらなくなり、父さんの顔面よりも鳩尾に打ち込む回数が増えてくる。それでも、諦めず打ち込む。


 「アレス!ラストだ!渾身の一撃を打ち込め!」


 「はぁあああ!」


 渾身の蹴りを鳩尾に打ち込むと、俺は足に力が入らなくなり、座り込む。


 『スキル【集中】Lv.1を習得しました』


 『スキル【闘術】Lv.1を習得しました』


 『職業ジョブスキル【闘士】を獲得しました』


 「よくやったぞ、アレス!」


 「父さん、ありがとう」


 「テントまでは俺が運んでやろう。今日は疲れただろうからな」


 「うん」


 父さんが俺をおんぶしてテントまで向かう。


 「あ、そういえば魔法習得の訓練は?」


 「それは明日だな。明日は筋肉痛で動けないだろうから、魔法の訓練にちょうどいい」


 「分かった」


 俺は父さんの大きな背中の温もりで、いつのまにか寝てしまった。


 


 


 

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