第3話 狩猟採集
「アレス!アレンが待っているわよ!」
「はーい!」
俺は今日から始まる訓練のために身支度を整えていた。
先ほどの会話に違和感を感じるかもしれない。俺は6歳になり、流暢に会話ができるようになっている。
6年間について補足すると、2歳になる時には両足で立って、支えもなく歩けるようになっていた。一気に行動範囲も拡大したので周囲の状況も確認できた。
家?は最初に感じたとおりテントだった。色はくすみ、所々穴を補修した跡もあるので年季が入っている。
家具はテントと同じように年季が入ったテーブルと布団、天辺に吊り下げてあるランプ、動物か魔物の毛皮で作られた敷物。
何故、このような貧しい生活なのかというと、両親が戦闘奴隷だからだ。この世界の戦闘奴隷とは戦争の際に戦場に駆り出され、肉壁とされる者達のことをいう。
戦争が無い時は狩猟採集で生計を立てるが、成果物は主人に献上され、その対価として少量の飯を与えられる。
衣服は麻布で製作された耐久性や防寒性など皆無の服が与えられ、日用品も最低限という感じで現代日本に住んでいた俺からすれば苦痛だった。
人間は凄いと思う。とても耐えられないと思った生活にも慣れてしまった。優しい両親がいれば十分。
テントの外は少しだけ覗いたことがあるが、俺達と同じように生活している人がいるだけだった。
最後に俺の6年間の成果を見せておこう。
【ステータス】
・名前 アレス
・年齢 6
・種族 人族
・称号
・Lv.1
・魔力 10
・筋力 10
・頑丈 8
・敏捷 12
・知力 10
・精神 8
・器用 12
・幸運 10
【魔法】
・【空間魔法】Lv.10
【スキル】
・【魔力感知】Lv.3
・【魔力操作】Lv.3
・【強奪】Lv.10
【魔力感知】と【魔力操作】は習得してから、毎日修練を欠かさなかったが、レベル3が限界だった。
年齢と共に活動時間は増えていったが、この世界のスキルは規定値が多いらしい。当然だがレベル2の時よりもレベル3の時の方が時間がかかった。
俺は女神様から【強奪】を頂けたので他人よりはスキルを獲得できると思う。凄く恵まれてる。
「おーい!アレスまだかー?」
「今行くよー!」
今日から俺も仕事を手伝う。頑張ろう!
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「アレス!昨日、言ったことは覚えているか?」
昨日の内容を思い出す。ここは北の帝国[オスマン帝国]と東の王国[リヴォニア王国]の国境沿いにある街で領都[セルジューク]という。
セルジュークには近隣に広大な森があり、そこには多種多様な魔物が存在する。その森の中で狩猟採集を行い、生計を立てるのだ。
「うん。覚えてるよ」
「よし!では、早速始めよう。まずは薬草の採取からだ」
アレンの後に続き、森に入る。アレンは少し入るとそれ以上は潜らず、辺りで薬草を探し始める。
「アレス!これを見ろ。これが身体の怪我を治癒する[ヒール草]だ」
花弁は桃色で中央は黄色。じっくりと観察し、忘れないように記憶する。
「こっちには[マナ草]があるぞ。これは魔力を回復させる効果がある。魔法職にとっては必需品だな。お!あっちにはーーー」
その他にも解毒効果がある[デトキシ草]や痺れを中和する[パライズ草]なども教えてもらった。
採取は根元の少し上をナイフで切り、根を残す。再び成長したところを採取するというやり方をするそうだ。
「お!この木の実は食べれるぞ!」
アレンが取った木の実は真っ赤で、本当に食べても大丈夫なのかと正気を疑った。しかし、食べてみると甘酸っぱくてとても美味しかった。
最初の1回だけ採取の方法を教わり、その後は自分で見つけて採取するまでを見ててもらった。
背負っていた籠が半分くらいまで溜まったところでスキル習得のお知らせがあった。
『スキル【採取】Lv.1を習得しました』
詳細を確認しておこう。
・【採取】Lv.1
植物や果実などを発見しやすくなり、採取技能が向上するスキル。
「アレス、そろそろ魔物も狩ってみるか?」
「まだ全然弱いけど大丈夫かな?」
「ははは!いきなり高ランクの魔物を狩らせるわけがないだろう!初心者向けの魔物がいるんだ。そいつを狩ってもらう」
「分かった。で、どんな魔物なの?」
「大きさは普通の兎と変わらないが、額に一本の鋭い角があるホーン・ラビットという魔物だ。肉が柔らかくて美味しい!」
「それなら、たくさん狩らないとね!」
「その意気だ!早速探すぞ!」
アレンの側から離れすぎない距離を保ちながら周囲を観察する。すると、少し後ろで小さな魔力を捉えた。
「アレス」
「父さん」
二人が同時に声を発する。アレンは俺が声を発したのを不思議に思い声をかけてくる。
「どうした?アレス」
「多分ホーン・ラビットを見つけたと思う。父さんも?」
「ああ、そうだが…お前はどうやって見つけたんだ?」
「【魔力感知】で見つけたけど…」
「な!………いや、今はいい。とりあえず、ホーン・ラビットを狩るぞ」
「うん」
後方でむしゃむしゃと草を食べているホーン・ラビットを発見する。
「いいか?ホーン・ラビットは跳躍して角で攻撃しようとしてくる。それを躱し、ナイフで刺せば終わりだ。だが、油断だけはするなよ」
「分かった。十分気をつけるよ」
ホーン・ラビットの目の前に立つ。ホーン・ラビットもこちらに気づき、赤い目で睨んでいるようだ。
一瞬の静寂の後、俺がナイフを構えるのと同時にホーン・ラビットは跳躍してきた。
(なるほど。気をつけていれば避けらる速さだ)
ホーン・ラビットの突撃を右足を後ろにずらして半身になり、空中で無防備なホーン・ラビットにナイフを突き刺す。
「ギュゥ…」
小さな鳴き声を上げる。まだもぞもぞと動くので刺しが甘かったんだと思う。そのまま地面に叩きつけ、より深く反対側に貫通するように刺し込むと動かなくなった。
『レベルが2に上昇しました』
『スキル【跳躍】Lv.1を獲得しました』
『スキル【突撃】Lv.1を獲得しました』
(おお!これが【強奪】の力か!)
「アレス!よくやった!しっかり油断せず、狩れたな。初めてにしては上出来だ」
「ありがとう、父さん」
「アレス、さっきのことだが…いつのまに【魔力感知】を習得したんだ?」
「え、えっと5歳くらい時かな…」
(赤ん坊の頃に既に習得していたとは言えない…)
「そうか。………俺達の子は天才なのか?」
「何か言った?」
「いや、なんでもない。次はカモフラ・スネークを狩るぞ!」
「カモフラ・スネーク?」
「カモフラ・スネークは毒も持たない普通の蛇だ。ただ、厄介なのは体皮が迷彩柄で森に溶け込んでいて発見するのが難しい」
「そうなんだ。なら、あまり期待しない方がいいね」
「いや、普通ならそうなんだが、お前は【魔力感知】を所持しているから、さっきみたいに発見できるだろう」
「なるほど。じゃあやってみよう!」
「その意気だ!」
辺りを木々の上なども注意しながら探索する。時々、ホーン・ラビットもいたのでついでに狩っておく。
「あ、いた」
「…流石だな。あれがカモフラ・スネークだ」
体長は1m50cmくらいで体皮は迷彩柄、舌をチロチロさせながら俺の様子を窺っている。
「どうやって倒すの?」
「ホーン・ラビットのように突撃してくるから、それを躱して頭部より少し後ろを掴んで地面に押さえつける。そして、真上からナイフを刺してやれば終わりだ」
「難しそうだね」
「慣れれば簡単さ。失敗しても腕に巻き付いてくるから逆の手で押さえつければいい」
「やってみる」
カモフラ・スネークに少しづつ近づくとバネのように飛んできたので胴体を掴む。すると、腕に巻きつきながら噛みつこうとしてきたので逆の手で押さえつける。
そのまま頭部を真上からナイフを刺すと巻き付いていた体が解けて、少しの間体がくねくねしていたが動かなくなった。
『レベルが3に上昇しました』
『スキル【熱源感知】Lv.1を獲得しました』
「失敗したけど、なんとか殺せたよ」
「よくやった!それじゃ、飯の時間だから一旦戻るとするか」
「うん」
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