第4話。フワフワ。



今日は近くの森まで来ている。たまにはのんびり森林浴だ。

散策をしていると、不思議な生物が目の前に現れた。白くて長い毛に覆われた、長丸のような生き物だ。高密度に生えた白い毛がふわふわしていて、実に気持ちよさそうだ。


『ふわ……ふわ……ふわわっ』


誘うように不規則に動くフワフワ。よく見れば、まん丸な目が2つ。口や鼻は見当たらない。毛の中に埋もれているのだろう。手足というより、体全体で跳ねている。不思議な生き物だ。


「…これは見覚えがあるね。」


フワフワから触手が一本伸びている。きっと、この先にミミックがいるのだろう。よし、引っ掛かろう。


フワフワに近寄ると、程よい距離を保ちつつ後ずさっていく。獲物を誘き寄せるタイプのようだ。上手いな。この微妙な駆け引きを楽しみつつ数メール程進むと、唐突にフワフワは茂みの中へ入って行った。


そろそろ本体も近いんじゃ無いかと期待しながら茂みをかき分け進んだ先に、奴はいた。フワフワは3メートル程に肥大化していた。


『ふわわっ、ふわっ、ふわふわっ』


さあ触れと言わんばかりに、優しくフワフワと動く。逃げる気配は無い。近寄り触ろうとしたとたん、フワフワが僕に向かいガバリと口を開けた。正確には、ミミックにフワフワが覆い被さり一体化している。

箱から飛び出した長い舌が勢いよく手首に巻き付き、箱の中に引き摺り込もうとしてくる。お招きいただいたのなら、お邪魔しよう。

ミミックの中は暗闇だ。手首に巻き付いた舌から消化液が分泌されるのを感じる。


「服は溶かすが、金属は無理なようだね。という事は…。」


舌を腕から外し、内臓を傷付けないように慎重に触診していくと、手に硬い感触がした。未消化物が溜まっている。グイッと押し上げて排出を促すと。


『ごぼぅえええええっ!!!』


粘着質の消化液と相まって、凄まじい音を立ててミミックは内容物を僕と共に吐き出した。何が出てきたか確認すると、いつか見た勇者の紋章が入った鎧に武器や装飾品。三人分といった所かな。


フワフワは少し離れた所で震えている。ミミックとフワフワは別個体として共生しているようだ。逃げようとするのを捕まえて思いっきり引き伸ばすと、伸びに伸びた。これは面白い。


「回収袋に応用したいな。」


退化して無くなっているが、目と目の間に口の名残りがある。宿主に栄養を依存する種類のようだ。

伸ばして調べているとミミックが動きだし、フワフワと繋がっている触手を引き抜いた。


『ぎぴいいぃぃぃいっ!!!』


触手の無くなったフワフワは僕の手の中で痙攣し、動かなくなった。宿主に捨てられると即死するのか。長丸い形状からドロリと地面に垂れ落ちる。

フワフワは筋肉の収縮であれだけ伸び縮みしているようで。つまりは、生きた個体でないと活用法は無い。残念だ。


「今回は何も回収できないね。さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」


フワフワをこのまま置いておけば、ミミックが食べるかもしれないな。地面に置いて散歩を再開した。

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