第3話。共生する。
今日は大森林に来ている。ここの土地は肥沃で、木の実や果実が豊富に実っている。昼夜問わず一定の温暖な気候で、近くの村は観光業や農業が盛んらしい。
『幸せの黄金ミミック』がいるという噂を聞きつけ来ただけなのに。村へ入ると、村人達は挙って観光客に押し寄せてきた。
豪華な花の首飾りを押し付けられ、観光客向けの半袖短パンのカラフルな衣装を買わされた。宿の売り込みも過激なので、宿泊先に困ることはない。
お金が飛んでいってしまったが、これもミミックへの投資だと思っておこう。
黄金のミミックは何処かと聞くと、村の祭壇に案内された。だが、そこには金貨や宝石が詰められたただの金色の箱があるだけ。賽銭を多く投げると幸運が訪れるらしい。
観光客達は幸運を願い賽銭を投げ、お土産物の金メッキミミックも喜んで買い求めている。かなり粗悪品なのに高い。良い商売だ。
僕の探しているのは、生きている黄金のミミックだ。村人達に居場所を尋ねると、一様に僕へ驚きの表情を向けてきた。
「アンタ、そんなに若いのに。困っているならウチで働かないか?」
「俺の店を手伝ってくれよ。人手が足りなくて困ってたんだ。部屋もタダで貸すぜ。」
「いえ。私は生きたミミックに興味がありまして。どうしてもこの目で見てみたいのです。」
「でも。まぁ……俺らが何を言っても行きそうだな。
あの山の麓にアイツらはいるよ。結構な数だから行けば直ぐに見つけられる。くれぐれも危害は加えないでくれ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
村から少し離れ、言われた場所に近づけば近づく程。下草が踏み固められ、食用植物がたわわに実っている。人が手入れしているような感じだ。ミミックはこんな所にいるのか。
人の気配はするのでその方向へ向かってみると、ふくよかな全裸の人がせっせと実をちぎっては食べていた。
「すいません。」
「………。」
「あの、こんにちは。」
「………。」
僕を気にも止めず、一心不乱に食べている。その表情は恍惚として、実に幸せそうだ。こちらには見向きもしない。
その人の背中からは、脊髄に張り付くように一本の茶色の紐が伸びている。先が見えない。気になったので辿っていくと、別の人がいた。その人も体格良く、着衣を身に付けず背中から紐を伸ばし、幸福そうに夢中で作物を食べていた。こちらも返答が無い。
紐を辿れば答えが分かるだろう。暫く歩くと、ミミックの箱を見つけた。5メートル程はある巨大な金色の宝箱で、広々とした広場の中心で太陽の光を煌々と浴びている。
眩い光を反射させながら、その口からは50〜60本程の茶色の触手を長く伸ばしている。全部繋がっているのかな。
「あぁ……うぅ…」
宝箱の側で共に日光浴をしている人達がいた。1人、まだ自我が残っていそうだ。近寄ると僕に視線を向けてくる。対話してみよう。
「どんな気分ですか?」
「えへぇ…きもぢ、いぃ…じぁわぜ。」
「そうなのですね。では、ここに居たいですか?」
その人はコクリと頷くと、白目を剥く。快楽に身を任せたようだ。
「そうですか。わかりました。」
このミミックは人の体液を栄養源にして、お返しに快楽物質を与えているのだろう。満腹中枢が破壊され、過剰に栄養を蓄え排泄し、肉体が朽ちる。それが木々を豊かに育てる。共存し、自給自足し。完璧なサイクルだ。
「これも『幸せ』の一つなんだろうね。」
ミミックが僕の気配に気が付いたようで、触手を伸ばしてくる。
どのようなモノなんだろう。とても気になるので服を捲り背中を出すと、ミミックは僕の腰骨辺りに吸い付いてきた。完全に身を任せてミミックが扱いやすいようにする。
「へぇ〜、この液体には麻酔効果と…快楽物質が溶け込んでいるみたいだね。
成分を出しつつ針を刺し、髄液を吸う。器用だね。蚊と同じ口をしているのかな。この成分は……ああ、末期患者に使用するのと似ているようだね。」
暫くすると、ミミックが雄叫びを上げた。僕から触手を外すとガタガタと暴れ始め、暫くするとピタリと動かなくなった。
『カサカサカサカサ』
ミミックの黄金の外壁が動き始めた。よく見るとこれは、虫だ。ミミックにタマムシのような虫が多量に張り付いて黄金色を模していたんだ。
宿主が死んだので、新たな寄生先を探して旅立つのだろう。空に向かい飛び立っていく。近くに同じ個体がいるのか、同じ方角へ黄金の塊となり向かって行った。
虫達は新たな宿主に直ぐ向かい入れて貰えるのだろう。ただし、残りは……。触手にも本数がある。
僕は大きな茶色の宝箱の中身を開け、内部を見渡し快楽液を探し当てる。腰に下げている鞄から試験管を取り出して、液体を回収した。
「こうなると思っていなくてさ。ゴメン。コレ使えるから貰っていくね。」
良いコレクションが手に入った。解析して同じ物を作ろう。
「さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」
複数の雄叫びを背後に、僕は宿に戻った。
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