第2話。水に呼ばれる。



今日は、内部が全体的にジメジメとしたダンジョンに来ている。

自分の歩く靴音と共に、不定期にあちこちから水滴の落ちる音が石造りの地下道に響きわたる。美しい旋律だ。


少し深く潜ってみると、開けた空間に出た。地底湖になっており、崩れてはいるが神殿が建っている。どこからか水滴が落ちる数々の音が、一つの音楽になっているようで。厳かな景観と相まって美しさを感じる。


中に入ってみると、祭壇を取り囲むように3人の女神の像が祀られていたようだ。というのも、落書きや悪戯をされて破損しているので、原型がわからない。神を冒涜する者は何処にでもいるようだ。

他も調べてみるが、荒らされていて目ぼしいものはみつからなかった。狩られ尽くされたようだ。残念だと肩を落として帰ろうと神殿を出ると。


『……きて…』


「…!?」


人の気配はしないが、何かがいる。


『…きて…』


水辺から声は響いてきた。ゴクリと唾を飲み込み一歩ずつ慎重に近寄ると、揺れる水面に女性の姿が映っている。


『……きて…きて…』


両手を広げ、優しく微笑む姿。人によっては非常に好ましい見た目と言えるだろう。


『…きて…』


いや、声というより音と言うべきか?この周波数だから声と捉えていたが、よく聞けば機械的とも言える。


笑顔のその人から、ニュッと透明な触手が複数伸びて僕に絡みついてくる。こうやって狩っているのか。僕は触手を解くと、逃げないようにしっかり掴んでそのまま陸に上げるべく引き摺る。


「結構長いなぁ。………あ、出た。」


暫く引き摺ると、10メートル程の触手の先に本体がいた。2メートル程の棺桶のような黒い箱、開いた蓋から透明な大きい口が一つ。触手が口を取り囲むように10本付いている。

内部には、殆ど消化されたモノがいた。何も身につけていないようなので、この触手が捕食する際に剥ぎ取ったようだ。器用だな。


「この箱、貝殻と似た材質なんだね。ミミックが淡水に誤って落下して適合し、進化したのかな。

ふむ。骨以外を消化して、余りを口から吐き出すタイプか。僕を捕まえて溺死させた後に交換する予定だったようだね。」


陸に暫く上げているだけなのに、微動だにしなくなった。という事は、水の中でしか呼吸できない種類なのかもしれない。

戻す前に、何かこのミミックから欲しいな。何かないかと身体中を見渡すと、それぞれの触手の先に、ツノのような白く硬い突起が付いているのを発見した。毒針とは違うようだ。


「あれ?触ったら簡単に取れた。爪みたいに生え替わりやすいのかな……コレ貰っちゃうね。」


ツノを懐にしまいミミックを元いたところに戻すと、ドボンと音を立てて沈んでいった。ふと、耳を澄ますとあの水滴の音楽が止んでいる。

もしやと、先程手に入れたツノを水に浸して持ち上げると。ツノの先端からこぼれ落ちた水滴が水面に落ちる際、まるで『きて』と言っているかのような音を立てた。


「あの10本の触手の先からそれぞれ水滴を落として、幻影と音を作っていたんだね。素晴らしい芸術家だ。」


これは良いコレクションになった。


「さて、次はどんなミミックに出会えるかな。」




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