Episode28 異能力者の過去 Ⅲ





「カナデさん、この能力、名を『クロノ・エーテル』というのですが、これはどんなことが出来る力だと思いますか?」



 セレノアに、そんな問いを投げかけられたカナデは、


「え?“虚構を創り出す”能力ですよね?」


 先程、セレノアにそう教えられたばかりであって、“その他に何かあるのか?”と疑問を覚えながらも問い返した。

 そんなカナデの回答に対してセレノアは、


「そうですね、その通りです。ですが、その言葉だけではこの力を正しく表現できていません。」


 “一部”は合っている、と頷く。


「この能力の根本はもっと異なるものなんですよ。」


 しかし、根底にあるものは違うのだと、

 その淡い桜色の瞳を、能力の核心へと引き込むようにカナデの瞳と合わせた。

 それに、少し息をのんだカナデは、


「…それは、いったい?」


 セレノアにその答えを求める。

 するとセレノアは軽く頷いて、


「──時間を操ること。それがこの能力の真価です。4つ目の次元である時間を操れるということは、必然、密接に関わり合っている、3次元空間に影響を与えることもまた可能であると、そういうことなんですよ。」


 指を一つ立てながら、少し難解な説明をした。


「時間を操る……凄い力、なんですね…」


「そうですね、使い方を間違えば、世界すらも崩壊させてしまいかねません。なので、しっかりと学んでおく必要があるのです。それに……その能力を十全に扱えれば、それが“後にあなたの助けになってくれる”はずです。」


 セレノアは最後に意味ありげにそう言ってから、軽く手を振る、すると何冊かの分厚い本が本棚から飛び出して宙を舞い、カナデの目の前で静止した。


「これらは、昔に私が纏めた、能力を十全に使うための資料みたいなものです。まずは、それをお読みいただいて、それから使ってみるのがよろしいかと思います。」


 空中を静止している本に面食らいながらも、言われるままにカナデは差し出された一冊の本を手に取った。

 実際のところ、本の虫であるカナデは少々“ワクワク”していた。いったいどんなことが書かれているものなのかと。


 そんな期待を胸に抱きながら、ページを捲ってみれば──、


「あの、これ読めないんですが…」


 そこに書かれた全く見たことのない、地球のどの言葉ですらないだろう文字列を見て、カナデは肩透かしを食らい、残念そうに顔を俯かせた。


「あぁっ!すみません、失念していました……そうですよね、すぐに読めるようにいたしますので!」


 そんなカナデの暗い様子に、少し“あわあわ”としたセレノアが再び軽く手を振ると、


「凄い…」


 なんと、本に書かれた文字が意思を持っているかのように動き出し、空間に浮かび上がり始めた。

 そして、その文字は複雑に変化しながら日本語へと変わっていき、暫くして、また本の中へと収まった。


「これで、大丈夫だと思うのですが、どうでしょうか?」


 そんなとんでもない事をやってのけて起きながら、心配そうな表情で問いかけてきたセレノアに促され、本の文章へと視線を動かしたカナデは、


「………」


 読めはするが、難解な言葉が連なるその文章に思わず眉間に皺を寄せた。


「あの、これ。文章の意味とか教えてもらいながらでもいいですか?」


 カナデがそんなお願いをすると、


「はいっ!構いませんよ!手取り足取り何でも教えて差し上げます!」

 


 頼られたことが余程嬉しかったのか、セレノアは表情に“ぱぁ”と花を咲かせて、カナデのお願いに快く頷いた。




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