Chapter Ⅰ Prescience
【 月下の抱擁 】
魔の
そんな室内を、唯一の小窓から差し込む青白い月の光が、不気味な静けさで満たしていた。
黒装束に身を包む彼らの面持ちは神妙なものであり、部屋には緊迫した雰囲気が漂っている。
「我らが直面する選択は重大だ。既に時は満ちてしまった。組織内に於いても個々の信念が衝突する今、我々は
静寂を破るように、重々しい、低い声が
其々の思惑が部屋の中に漂い、暗闇の中で運命の歯車が静かに回り始めていた。
────────
狡猾な風が、
「…嫌な風ね。」
その者は窓辺に立ち、深い空を彷徨う月の光を浴びていた。視線は一心に月へと固定され、その眼差しは遥かなる彼方へと飛び立って、まるで月の神秘を欲し、旅路に出たかのようだった。
そんな、窓辺で孤独に佇むその者の姿は、やるせない哀愁を湛えていた。
徐に、その者が月に向かって手を伸ばす、
すると──、
“きら” と、胸元の何かが、月の光に照らされて煌めいた。
その者は月へと伸ばしていた手を、緩慢に胸元へと持っていく、そうして銀色の光を放つ、精巧な彫刻のなされたペンダントを優しく撫で付けた。何度か彫刻に手を添わせてから、それを顔前へと持っていく。
その者はペンダントを物憂げに見つめて──、
それの“扉”をそっと開いた。
開けてみれば、小さな宇宙のような様相を持っているそれは、ロケットペンダントであった。
ペンダントの内は、濃紺色を基調としており、星々に見える小さな光がペンダントの中を散らばって、中央にはまるで時計のように、複数の針が弧を描いて“チクタク”と時を刻んでいる。
「もう…こんなに経ったのね。」
その者は沁み沁みとした様子で、ただそれだけ言葉を漏らすと、ペンダントを優しく両手で包み込み祈るような姿勢で、そっと、胸元に寄せて抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます