Episode15 旅の始まり





「なぁ、これってさ。誘拐とか拉致の罪で兵士?とかに追われることになったりしないのか?」


「うん、大丈夫。多分、そんな事にはならないと思うよ?エフィは正式な奴隷契約の手続きを踏んでいたわけじゃないから、実際には奴隷じゃないし。そんなエフィが自分であの地を発つ事を決めたんだから。」


「そっか。なら安心だな。」


「何かあったら私が自分で説明するので大丈夫です!」


 そんな会話をしている彼らは、既にあの寒村には居なかった。あの村で一晩を明かしてから、まだ日も登らぬ早朝、彼らは立てた作戦通りに各々、村の外にある少々大きな木を待ち合わせ場所として、村からこっそりと出立したのだ。


 何故かの答えは言うまでもないかも知れないが、勿論エフィの為である。取り敢えずとして、誰もバレる事なく村からの脱出に成功し、今は村から歩いて30分程の所で喋りながら、新たなる地を目指し歩みを進めている所である。


「それで、イル。どこに向かうんだ?」


「ある程度大きな街、いや都市か。レガスディアって所なんだけど。大体ここから歩いて10時間くらい掛かるかな。勿論、途中休憩を挟んでね。」


「えっ、そんなに掛かるのか……」


 カナデはイルの言葉を聞き、見た目からでもありあり分かるくらい心底げんなりしていた。そんなカナデを見てイルは小さくクスクス笑っている。


 一方エフィは、と言えば。


「都市…」


 まだ見ぬ地へと想い馳せているのか、目をキラキラと輝かせていた。


 対象的な表情を見せる二人に、イルは一層笑みを強くした。


「はぁ、まあこればかりは文句も言えないか。一番近いのがそこなんでしょ?」


「うん、そうだね。馬車があれば楽ではあるんだけど、私一人なら必要ないと思ってたし。」


「まぁ、そうだよな。」


「うん。そもそも旅に出るのなんて、商人か冒険者くらいだから、そうなると一般的に馬車を使うのは、その商人、冒険者と貴族、王族ぐらい。冒険者も別に個人で保有している訳じゃなくて、商人の護衛の対価に乗せてもらうという場合が多いし。」


(なるほどな。見た感じ中世くらいの時代がらからして、旅行なんてものは滅多にないんだろうし。何より魔物なんて危険なのが跋扈してる世界だもんなぁ。)


「なんにせよ。歩いて行くしかないわけだ。」


「まぁ、端的に言っちゃえばそう言うことだね。」


 イルがそう肯定すれば


「憂鬱だぁ…」


 カナデはそう言って、肩を落とした。


「ふふふ……あ、そういえば、カナデ。私の旅に付き合ってくれるのは嬉しいけど。そのニホン?と言う場所に帰らなくてもいいの?」


「そりゃ、勿論帰りたいよ?」


 その質問にカナデはそう本音で答えた。


(向こうには家族や小さい頃からの親友だって居るんだ。帰りたいに決まってる。)


「だったら私の旅に付き合うのは辞めて、一人で帰る方法を模索する方が早いと思うよ?あの時の恩を返そうとかなら本当に、そんなのは大丈夫だし。恩を返されるためにやった訳じゃないから。」


「だから、イル俺は恩を返そうとかそういうのじゃ……いやそれもある事にはあるけども!俺が本心からしたいって思ってる事なんだ。だから俺の為にとでも思って、旅に同行させてくれないか?」


「でも、それじゃ『それに』」


 そうイルが話し出そうとしたところで、カナデが少し重い、暗い口調で言葉を被せた。


「これは多分、そんな簡単な事じゃないから。」


 実際、地球とは異なる別の世界に来てしまっているのだから、事はそんなに単純ではないだろう。何も知らない世界の中一人で帰る方法を模索した所で、上手くいかない可能性が高いと、カナデは考えていた。

 そのため、イルの旅に同行させてもらいながら、少しずつでも情報を集めていくのが最善だと、カナデは思っていたのだ。


「………ニホンと言う国を聞いた事がない以上、相当遠い場所にあるんだろうなって事はわかるけど…」


「遠いってのは確かなんだけどな、またそういうのとはちょっと違うんだ。」


「遠いのは確かだけど、違う?」 


 イルが首を傾げながら、そう言うと。


「まぁ、詳しくは街に着いてからでも話すとするよ。」



 カナデはそう返し、この話を終わらせる事とした。




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