Episode17 城郭都市レガスディア




「カナデお兄ちゃんは、従者さんなんですか?」


 エフィから、今更ながらにそんな事を問われたカナデは、よくよく考えてみれば、ここまでお互い大した自己紹介を行っていないことに思い至る。


「いや、ちが……ん?あ~まあ、確かに。考えてみると…従者みたいなもん、なのか?」


 エフィのその問いに、否定しようとしたカナデではあったが、現状を考えてみると、エフィのその言も、あながち間違いではないなとカナデは思い直した。


「ちょっと、カナデ!私達、友達だよね?」


 それに対して、割り込むように待ったの声を掛けたのは、当事者でもあるイルだった。


「従者って、そんなの私、望んでないよ。」


「ごめんごめん。うん、そっか、友達か。」


 イルのその言葉に、カナデはしみじみとそう呟いて、笑顔で頷く。


「まったく、もう。カナデって意外と自己評価が低いよね。」


 イルはその、カナデの少し卑屈な、謙遜しがちな性格に対して不満げな表情をし、溜息を吐いた。

 そんな微笑ましい二人のやり取りを、横で見ていたエフィは…


「従者じゃなくて、お友達……いいな、お友達。」


 エフィのこれまでの悲壮な人生において、友達などという存在は、まさしく夢の中のものでしかなかったのだ。

 普通の人にとっては一般的で現実的な友達という存在でも、エフィにとっては非現実な、そんな存在を作ることに、エフィは憧れを抱いていた。

 そんな中で、


「エフィ、私と友達になってくれない?」


 そう言って、エフィの友達第一号に名乗りを上げたのは、イルであった。


「俺も、エフィと友達になりたいんだが。」


「カナデとエフィは、兄妹なんでしょ?」


「そうだけど、妹であり、友達でもある。そんな関係も悪くないだろ?」


 そうやって言い合っていた二人の横で、


「…え?…いいん、ですか?」


 なんと言われたか、言葉の理解に少し遅れたエフィが問いかける。

 エフィは、カナデ以上に卑屈にしか成り切れない人生を送ってきたからこそ、こういった温かな言葉への応答は少し不得意だった。


「もちろんだよ。私達二人ともエフィともっと仲良くなりたいの。」


 イルがそう言って、穏やかな表情で首肯すると、カナデもイルの横でうんうんと頷く。


「─ッ!……はいっ、わかりました!イルお姉ちゃんとカナデお兄ちゃんはお友達ですっ!これからも、よろしくお願いしますっ!」


 そんな二人の温容な面持ちに、エフィはとても温かい気持ちになって、満面の笑顔で二人へと応えた。


 そんなエフィの言葉に対して、イルはといえば…


「ッ!」


 雷に打たれたかのような表情をして、固まっていた。


「イルお姉ちゃんか……危うく、何か魂が抜けていきそうになっちゃったよ。危険だね、これ…カナデはよく毎回これを耐えてるね。」


「うちの妹は世界一可愛いからな。」


「ッ!世界一っ、ですか?」


 三人はそんなたわいもない、けれど微笑ましいやり取りをして、互いの仲を深めながらも、レガスディアまでの距離を着々と縮めていた。






─────────






 ──一陣の風が草原を撫でる。


 そんな突風に煩わしさを覚えるが、頬を触ってすり抜けていくその風は、南方から吹かれてくるものなのか暖かさを感じて、この世界では恐らく季節は春、これは春一番なのかとの感慨に耽る。

 そんなカナデは、その強風に、これまでの道程で疲弊した身体を若干蹌踉よろけさせられて、思わず蹈鞴たたらを踏んだ。


「見えてきたね。」


 そんな、疲労困憊なカナデを救うかのようなイルの言葉に顔を上げれば、そこは街道の一つの終着点。


「うわぁ!大きな壁、あんなの初めて見ました!」


「………やっと、着いた、か。」


 イル、エフィ、カナデの一行は、三者三様の情感を持って、新たな地への邂逅を果たす。

 見えるは、威風堂々、高々と聳える城壁、その壁は30mはあろうかという雄大さを誇り、街を堅固に防守している。更には、城壁の縁を走るように空堀までも築かれており、それによって街はより一層に頑強さを確かなものにしていた。



 そこは王国の外縁にて、隣国のナサリアとを隔てるクゥエイフ辺境伯が治める堅牢たる要塞、ネオルテア王国のかなめたる都市──、



「あれが私達の目的地、城郭都市レガスディアだよ。」




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