Episode7 着到の理由






「ところでさ、この森がいったいどこなんだか教えてもらえないか?」


「えっ?まあ、それは良いけど、………まさか、このフィガルの森で迷ってたの?」


 カナデのそんな普通ではありえない問いに、イルが心底不思議そうな表情をしながら、疑問を投げかけた。


「まあ、そんなところ、かな?」


(迷っていたって言えば迷っていたよな。逆にあの状況で迷うなって方が無理な気もするけども。)


 カナデはそんな、どうしようもない事を思考しながらも、イルの問いを肯定する。


「ここは、フィガルの森だよ。さっき私が倒したあの魔物、フィガルが多く生息しているからそう呼ばれてるの。あんな魔物が居る森だから、この森に詳しい人しか滅多に入らないんだよ。それにほら、この森、特定の魔物のみが生息しているのが珍しいっていうので結構有名だし、カナデも名前くらい聞いた事あるんじゃないかな?」


「いや、俺は聞いたことがないけれど、」


 当然、地球の日本育ちであるカナデには、異世界の森のことなど知る由もない。


「だけどこの森、あんなのが沢山いるのか、」


 カナデはあのフィガルたちの姿を思い浮かべて、

 また襲われるのを想像し、思わず身震いした。


「イル、一つ聞きたいことがあるんだが、この近くに村はないか?」


「うーん、近くかどうかはわからないけど確かにあるよ。それがどうかしたの?」


「そこに行かなきゃいけない約束があってさ。」


 カナデはエフィとの約束を守る為に、エフィの居る村へと向かうつもりだった。そのため、イルから村のある方角だけでも教えてもらえたらと思ったのだ。 


「そうなんだ。じゃあ案内するよ。」


 イルは真剣な顔をしたカナデの話に頷いて、案内を先導し始めた。


「え?いいのか?」


「うん、元々迷ってたカナデのことは、少なくともその村まで、送り届けるつもりだったし。私元騎士だからねっ!」


 イルはそう言って、“だから気にしないで”と、“ニッ”とカナデに笑いかける。

 それに対して、カナデもイルのそんな笑顔につられて笑みを浮かべながら、


「ありがとう、イル。助かるよ」

  


 感謝の気持ちを伝えた。






─────────






「……でもさ」


 イルは鬱蒼とした森を軽く見渡す、


「さっきから気になってたんだけど、カナデは何でここで迷ってたの?今ここに居る私が言える事じゃ無いかもしれないけど、こんな危ない森、冒険者でもなければ普通来ない所でしょ?実際カナデはピンチになってたみたいだし。」

 

 そしてイルはそう疑問をカナデに問いかけた。

 イルのその問う顔は、実に興味有りげだ。


「いや、迷ってしまったというか何というか、気がついたらこの森にいた、というか。」


 カナデも歩きながら、曖昧にそんな事を答える。


(よく考えれば、ホントに訳わからないよなぁ。どうして俺、異世界になんか来ちゃったんだろうか。)


 カナデは人に会えた安心感によって、異世界ここに迷い込んでしまった理由を、前より格段に冷静に考察できていた。


 だが、冷静になれたところで、


「結局、わからないよなぁ。」


「わからないけど、この森にいた、か。そんな変な事あるんだね。」


 カナデがそんな暗鬱な面持ちをしながら漏らした言葉を聞いて、イルは再び不思議そうな表情を浮かべる。


「カナデはこの森に来る前はどこに居たの?」


「自分の家の自室だよ。恐らくここからは恐ろしい程、離れた所にある筈の。本当に瞬き一つしたときには自室からこの森に、って感じだったんだ。まるで瞬間移動みたいに」


「なるほど、それは災難だね。」


「あれ、もしかして信じてない?」


 イルの軽い調子の返答に“もしや信じてないな”と感じたカナデが尋ねれば、


「うーん、半信半疑といった所かな。」


 そんなカナデの問いに、眉間に軽く皺を寄せて首を傾げながら、イルは唸った。


「まあ、確かにこんな突拍子もない話信じられないよなぁ。」


 カナデも、もし自分がこの現象の当事者でなければ、こんな事はさらさら信じられないだろうな、と納得する。


「けど、カナデ、嘘を付いているようには見えないんだよね。」


「そりゃ、こんな事嘘をつく必要もないしな。」


「確かにそうだよね。だけど、そんな事聞いたこともないなー、何かの魔法によるものなのかな?」


 【魔法】この世界には存在するらしいファンタジーには必須の要素。


(なんかこう、魔法と聞いただけでわくわくするものがあるよな。)


 こういう言葉で胸が高鳴ってしまうのは、やっぱり男のさがなのか?などとカナデは思った。


「うーん、考えてもわからないね。まあ、当事者のカナデが分からないんじゃ私に分かる訳がないか。」


 イルは最初思案に耽るように手を顎に添えて唸ったが、すぐに無駄な事だと悟ったかのように、そうやって考える事を放棄する。


「まあ、その件についてはなるべく早く探っていければと思ってる。自分としてはとても大事なことだから。」





 そんな会話をしつつも、カナデとイルは最寄りの村を目指して歩き続けた。





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