ドキ!密室で二人だけ?!
スケルトン討伐の為に騎士団総出で出撃した。ブロッサムの街の近くにテントを張り、そこを簡易作戦室としている。
騎士団が聖都を出てからだいぶ時間が経ち、テントを張った時にはもう直ぐ日が落ちそうであった。夜戦の方が危険だと思うがトライソーンが出発を意味もなく渋り、こんな時間までずれ込んだのだ。夜になると奴にとって都合のいい事があるのだろう。
西の森からワラワラ出てくるスケルトンを騎士団が相手をしている。勿論メリアも出撃してスケルトン相手に剣を振っている。
ただ思いの外スケルトンの相手は手こずっており中々壊滅まで追い込めていない。それもそのはずスケルトンはカクタスが操り時間稼ぎに徹しているからだ。いくら騎士団言えど時間稼ぎに徹し連携してくるスケルトンには手を焼くだろう。
そうして状況が変わらない戦闘が続き日がすっかり落ちた頃、トライソーンはテントに残っている騎士を全員出撃させた。テントに残っているのは俺とトライソーンだけである。
トライソーンはテント裂け目から顔を出して周囲を確認するとニヤニヤしながら振り返り俺を見た。
「どうされました?騎士団長様?」
俺が惚けてトライソーンに話しかけるとニヤニヤとバカにした様な下品な口を開いた。
「所詮お前も人を疑う事を知らないお人好しだったって事だ」
「それはどういう事ですか?」
「教会はお前が邪魔なのだよ。だからお前はここでスケルトンに襲われて死んだ事になる」
そう言うとトライソーンは鞘から剣を抜いた。
「何か恨みを買った覚えは無いのですが?」
「ふん、それはお前の認識だ。こちらとして御使がいるだけで邪魔なのだ」
「邪魔だからグラジオラスを殺したのですか?」
グラジオラスの名を聞いてトライソーンは明らかに動揺した。目を見開き口をパクパクさせている。
「何故それをお前が……その事を知っているのは……とにかく生かしておけない」
トライソーンは俺に剣を向けた。正直怖いが冷静にならなければならない。
「私が知ってる理由を知りたいのですか?それは直接聞いたからです」
「直接?誰に?」
俺は持っている鞄に手を突っ込むグラジオラスの髪を掴み鞄から引き抜いた。
「勿論グラジオラスですよ」
グラジオラスの生首を見たトライソーンは腰を抜かして地面に尻餅をついた。
「お前!正気か!首を持ってくるなど!正気か!おま!正気か!」
トライソーンは動揺して肝心な事に気が付いていない。二十年も前に亡くなった人間の首がこんなに綺麗な筈ないだろ。
「久しぶりだな、トライソーン」
グラジオラスの目が開き、喋り出した。
「ひぃ!しゃ、喋った!グラジオラス!死んだ筈では!」
首は重いので俺は机に置いて二人の会話を眺める事にした。
「やはりお前が私を殺したのだな」
「ひぃ!違います!私では無いです!」
トライソーンは腰を抜かしながら必死でテントの外へ逃げ出そうとしている。そこへテント入り口に人影が見えた。
「助けてくれ!」
トライソーンが情け無い声でテントの幕を開けるとそこには首無しの騎士が立っていた。
「ひぃ!く、首が!」
トライソーンはまた腰を抜かした。そしてグラジオラスの首と体を交互に見てようやく事態が理解できたらしい。
「グラジオラス!まさかデュラハンに!」
グラジオラスの体はトライソーンの襟首を掴みズルズルと引き摺りながら生首の前に連れて来た。絵面が怖すぎる。
「さあ、トライソーン二十年前あの砦で何をした聞かせてもらうか」
グラジオラスとトライソーンは完全に上司と部下の関係になっている。
「そんな!私は関係ないです!誤解です!」
トライソーンの言葉にグラジオラスは剣抜いた。
「今ここで俺と同じ様に首を切り離してもいいのだぞ?首が取れるのは中々便利でいいものだ」
「ひぃ!話します!話します!」
遂に観念したトライソーンはガタガタ震えながら砦の出来事を話し始めた。
「確かに騎士団長を襲ったのは私ですが……私はただ命令されただけです!」
「誰にだ?」
グラジオラスはトライソーンを睨みつけ恫喝する様な声を出した。
「アコナイト法王です!」
直ぐに白状した。やはり保身は口を軽くする。
「アコナイト卿だと、それも今は法王なのか」
「は、はい十年程前に前法王が崩御され、後任にアコナイト様が法王に即位しました」
「その命令はアコナイト個人からの命令か?」
「それは分かりません……ただ他の枢機卿や当時の法王が深く追求してこなかったので、おそらく全員知っていたのでは……」
今も昔もそう言う奴等が教会を牛耳ってきたのだろう。特別驚きはしないがな。
「何故私を殺した?」
「それは騎士団長が目立ちすぎたからと……彼らにとってあまり好ましくなかったとか……」
「その程度の理由で……」
グラジオラスは下らない理由で殺された事に怒りが湧いている様であった。
まあ、トライソーンから聞きたい事は聞けたし後はコイツを拘束して市民の前で喋らせれば目的は達成するだろう。
「ほら、グラジオラス。あまり長居は出来ない、早く連れて行こう」
「ああ、そうだな」
「連れて行くって何処へ!」
トライソーンはまたガタガタ震え出した。
「別に殺しはしない。ただ市民の前で真実を話してもらう為に一時的に捕まえるだけだ」
俺はトライソーンの手首に綱を巻き拘束し始めた。
「後はカクタス司祭と合流してスケルトンを撤退させよう」
その言葉にトライソーンは驚きながら反応した。
「まさかあのスケルトンはお前達の差金か!」
「察しがいいですね騎士団長様」
俺がそう返すとトライソーンは絶望した顔で呟いた。
「まさか法王様と同じでお前達も操れるなんて……」
こいつ今なんて言った?
「お前達も?それに法王様だと?」
今の言葉は聞き捨てならなかった。それはグラジオラスも同じである。
「おい、トライソーン!それはどういう事だ!」
グラジオラスがトライソーンに掴み掛かった。それがいけなかった。グラジオラスはうっかりトライソーンの剣に触れてしまった。剣の鞘にも女神の装飾が施されておりそれに触れたグラジオラスは痛みのあまりトライソーンを離してしまった。
トライソーンは好機と見たか、転がる様にテントから飛び出して行った。
「助けてくれ!魔物が出た!テントの中だ!」
騎士団長の筈のトライソーンは恥じる事なく情けない声で騎士達に助けを求めた。
「しまった!くそ!トライソーン!」
グラジオラスは自身の失態に声に漏らした。
どうする、もうトライソーンを捕まえに行くのは難しい。退却するしかないのか。
俺が考えているとグラジオラスは入り口とは反対側のテントの幕を剣で裂いた。
「こっちから逃げろ!私の事は心配するな」
「分かった。俺は街で身を隠す。森の中で待機しててくれ。何とか連絡をよこすから」
それだけ言うと二人でテントから飛び出して二手に分かれて逃げ出した。
草陰に飛び込み身を屈めながら早足で逃げて行く。幸い街が近いのと街明かりが見えるので迷う事なく夜でも進んでいける。
後ろでは騎士達が何か叫んでいる。おそらくグラジオラスが何かやってくれている。正義感の強い男だ。囮になってくれたのだろう。
心配ではあるがグラジオラスが遅れをとるとは思えない。それに今は夜だ。森の中に入ってしまえば問題無いだろう。
今はただ自分の安全を最優先に逃げるだけだ。
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