五話
帰ってきた始まりの街
行きに比べてやたらと日数が掛かったが何とか帰ってくると事が出来た。帰ったと言っても聖都の一つ前の街、つまり俺がこのふざけた世界に叩き落とされた街である。
着いた時は暗くなっていたので聖都はまた明日に向かうことになった。
ここで一つ問題が発生した。この日に街で宿泊して明日聖都に向かうと街の外にいるグラジオラスとカクタスと連絡が取れなくなるのだ。二人は近くの森で身を潜めているので俺が意味もなく森に通うのは怪しまれる。
その事を話すと、
「いい方法がある」
グラジオラスが自身の考えを提案し、特に代案がない為それが採用された。そして首無しと骸骨と街の外で別れて街に着いたのだ。
街に着き向かう先は当然教会である。
「ウンスイ様!メリア様!お帰りなさいませ!」
街の教会に着くと出迎えてくれたのは腰の曲がった司祭ではなく、修道士のアイリスであった。
「お二人の噂はこの街まで届いております!元騎士団長の霊を鎮め、アナスタシアの街も開放したと!街はその噂で持ちきりです」
少しのんびり旅をし過ぎた。出来れば噂が広がる前に聖都に出向き話をまとめておきたかった。人の噂と言うもの脚色されて伝わるものだ。特にネットも何も無いこの世界では伝聞のみが情報源である。噂によっては取り返しのつかないことになる。これでは聖都の奴らからの心象は悪くなる一方だ。
メリアはメリアで俺の活躍の噂に不服そうな顔をしてる。まあ女神像を振り回していたからな、不服なのも仕方ない。
とりあえず営業スマイルで俺は対応する。
「そんなに噂が広がっているとは……少し照れますね。ああ、それとこれをお返します」
俺はポケットからアイリスから貰ったネックレスを返した。グラジオラスを正気に戻す時に使った便利なネックレスだ。
「ありがとうございます。ウンスイ様は必ず帰って、返してくれると信じておりました」
アイリスの真っ直ぐこちらを見ている。その目は澄んでいると言うかガン決まっていると言うか。盲信は怖いなと感じた。
「それでは部屋に案内します。長旅でお疲れでしょう。そちらの鞄を持ちましょう」
アイリスは俺が持つデカい鞄を持とうとしたが事情があるので断った。
教会に入ると腰の曲がった司祭がお辞儀らしい首の動きを見せて挨拶してくれた。司祭と他愛もない話をしてアイリスは俺達は個室に案内してくれた。そこでようやくゆっくり出来る。
「全く何故アイリス殿はウンスイなんぞを慕うのか……」
メリアはアイリスがいなくなったのが分かるとぶつぶつ文句を言い始めた。
「またそれか……」
メリアは俺がチヤホヤされるのは嫌がる。別に俺はチヤホヤしてくれとは言ってない、勝手に向こうがしてくるのだ。俺に文句を言うな。
「実に真面目そうで信仰心の厚そうな女性であったな」
部屋にグラジオラスの声が聞こえる。声は俺がこの部屋に持ち込んだデカい鞄からだ。鞄を開けるとグラジオラスの生首が収められている。
「こっちの安全が確認できるまで喋るなよ」
「これはすまん、すまん」
俺がグラジオラスを注意すると笑いながら謝った。
これが離れた所で待機しているグラジオラスとカクタスへの連絡手段である。
街の外の森の中ではグラジオラスの首から下とカクタスがいる。グラジオラスの首が見聞きした事を遠く離れた自身の手を動かして文字を書きカクタスに伝える。それが奴等の連絡手段だ。
「とりあえず明日の朝直ぐに聖都に向かう。そこでトライソーンの様子を探る。それでいいか?」
メリアは俺に明日の予定を告げた。俺からは断ることは無い、と言うよりコイツらと関わっているので断る選択肢は無い。
「グラジオラス様もそれでよろしいでしょか?」
「ああ、カクタス司祭にも伝える」
グラジオラスの首は一切動かないが遠くで手を動かしているのだろう。
「……右手を握られた……カクタス司祭も分かったらしい」
カクタスからの細かなメッセージは受け取れないのでグラジオラスの右手を握ると「はい」左手を握ると「いいえ」と簡単な意思確認のみで意思疎通している。
この電話やメールの無い世界で遠くの人間と意思疎通出来るのは非常に有利である。問題があるとすれば俺が常に生首を持ち歩く事だろう。
こんな所を見られたら不審者を通り越して猟奇殺人鬼だ。しかもその首が流暢に喋るときたもんだ。
いかに自分が文明の力に甘えていたかを痛感した。いや、元の世界でも電話ができる前は別に生首を持ち歩いて連絡をとっていたわけじゃないが。
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