ルーピン・プティー伯爵

ルーピンは庁舎にいるらしいので取り敢えずそこに向かった。どうせ門前払いされると思っているのでメリアに大人しくついて行く。

 こんな面倒事にも首を突っ込むからメリアは市民に人気なのだろう。それで解決するならいいがイタズラに敵を作るだけだろう。こんな生き方は俺には出来ない。例え市民から感謝されようが大金を得ようがだ。

 

 立派な庁舎に着くとメリアは受付でルーピンへの面会を頼んだ。神聖騎士であるメリアが突然来たことにより周囲はざわついている。もちろん受付も何か重大な事件が起きたのかと勘繰り裏にバタバタと引っ込んで行った。

 神聖騎士団と言うのは随分影響力があるのだと実感した。アポ無しで来て追い返される事なく直ぐに対応してもらえるのだから。

 俺達は直ぐに応接室に案内された。応接室にはやたらと高そうなソファにテーブル、絵画、彫刻等が置いてあり、この街がいかに儲けているのかよく分かった。

 大きな窓からは運河が見え多くの船が行き交っている。この賑わいこそ街の発展に繋がっているのだと実感できた。やはりいい街だ。何かあったらここに逃げ込もう。

 そんな明るくも後ろ向きな将来設計を考えていると応接室の扉が開いた。そこにはやたらと身なりのいい肥満気味な中年男性が立っていた。ニヤニヤと下心がありそうな下品な笑みを浮かべながら男は俺達の前に立った。

「大変お待たせしました。私が領主のルーピン・プティー伯爵です。噂の神聖騎士であるメリア・アルストロ様にお会いできるとは、何という幸運でしょう」

 ルーピンはあからさまなゴマスリをしている。

「やや!もしやそちらのお方は噂の御使様では?大変噂になっております、メリア様と各地で除霊の旅をしているとか。お会いできて光栄です」

 ルーピンは俺にもわざとらしいゴマスリをする。メリアの表情は硬いままだが俺は柔らかな表情で応対する。

 あれこれ騒いだルーピンはようやくソファに座った。するとメリアはいきなり本題を切り出した。

「ルーピン殿に周辺の村から減税の嘆願が出ている」

「ほう、その様な事が」

「ええ、村の代表が私に頼んできたのだ」

「しかし、周囲の村はこの街よりだいぶ税は少ないはずです」

「それでも生活が立ち行かなくなっているそうだ。この街の税が高くてもやっていけるのは運河があり栄えているからではないか?」

「メリア様、何か勘違いされておられる。それならこの街でなくとも周囲の村々は運河の恩恵を受けています。遠い異国の果実に織物、どれも他の領では手に入らないものです。それなのにその恩恵にただ乗りするのは如何かと」

「しかし」

「それにこの税はしっかりと聖都の方に確認をとって決定したものです。何か不備があれば教皇様に」

 メリアは反論出来なくなってしまった。そもそもメリアは弁が立つ奴じゃない、無策に乗り込んでも何とかなるわけがない。

「メリア様、プティー様も公務で忙しいでしょうから今日は帰りましょう」

「おやそうですか。そうだ、今日の晩私の屋敷で晩餐会があるのですが是非ともご参加願いたい」

「いいのですか?私どもがお呼ばれして」

「何を仰る。お二人がお越しいただければ会場も盛り上がるでしょう。各国から取り寄せた美食の数々をお楽しみください」

「それは今から楽しみです」

 プティーの晩餐会の誘いを受けて俺達は庁舎から出た。メリアは何一つ納得していない様子である。

 

 少し歩いたところでメリアは俺の腕を引っ張り裏路地へと連れ込み壁に押し付けた。痛い。壁に頭をぶつけた。

「どうして尻尾を巻いて逃げた!」

「じゃあどうやって説得するつもりだった?反論出来てなかったじゃないか」

「それは……粘り強く……」

「あの話は教皇が出てきた時点で勝ち目は無いんだよ」

「なら直接教皇様に!」

「知らない訳無いだろ。教皇もグルだよ。この街は潤っているから多額な寄付金を出してんだろ?教会は金出すやつには自由にさせる。そう言うもんだ」

「ぐっやはり我々が教会を変えるしかないのか」

 また正義に燃えてる。こんな事に首を突っ込むから嫌われてんのに。

「ウンスイはプティーの話に納得しているのか」

「してないね。運河の恩恵とか言ってるが日々の暮らしに珍しい調度品なんて要らない。村の人間は高値の輸入品なんて買えやしない」

「それなのによくあの場で笑っていられたな」

「特技だからな」

 メリアは軽蔑した目で俺を睨んでくる。いつもの事だ。

「まあ、俺もああいうゴミクズ野郎が気に入らないから手を貸そう」

 メリアは驚いた様な顔をしている。

「何だよ。なんか文句あるのか」

「いや、まさかお前がそんな事を言うとは」

「そう言う時もあるんだよ。ほらさっさと行くぞ。準備がある」

 俺はこの薄暗い路地裏から表へ出た。後頭部はまだ痛む。

「何か策があるのか?」

「やらないよりはマシ程度だよ」

 俺は後頭部を摩りながら歩いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る