四話
運河の街
俺は聖都に戻る旅を続けていた。途中悪霊と化したカクタスを同行者として向かい入れた。馬車の中には首無し騎士に骸骨の神官が相席している何とも愉快な地獄絵図が広がっていた。このまま馬車に火をつければ完璧だろう。俺は御免こうむるが。
カクタスがリッチーとなり徘徊していたアナスタシアの街は今や誰もいない。俺に浄化を頼んだ修道士にもその事を伝えると泣いて喜んだ。また一つ御使様の伝説を作ってしまった。
あまり目立つとろくなことがないのは知っている。元々教会から目をつけられている身だが流石に色々やり過ぎだ。暗殺されるのも時間の問題な気がする。
もう一つ懸念事項がある。剣の達人の元騎士団長グラジオラスにスケルトンの軍団を操れるカクタス。これだけでも危険視される。自分の身を守る為とはいえ過剰戦力だ。いざとなったら強制的に成仏されるのも手かもしれない。それだけの爆弾を俺は抱えている。
二人の取り扱いを考えていると御者台に座るメリアが声をかけてきた。
「そろそろ街に到着します、何処か隠れる所を探しましょう」
この化け物二人を街に入れる訳にはいかないので街の周囲にある森に化け物共を置いていく。
グラジオラスもカクタスが仲間になって寂しくないだろう。二人で大人しく過ごしてな。俺はここの教会に泊まるからな。
行きの旅程にもこの街の教会に泊まった。大きな街で至る所綺麗に整備されており過ごしやすかった。もちろん教会も大きく素晴らしい泊まり心地であった。
時間があるなら観光するのもいいだろう。運河があり様々な物が入っているらしく、店の品揃えも豊富で中々楽しめそうである。
日本にいた時は除霊に呼ばれて行った街の観光をするのも仕事の楽しみであった。
馬を馬宿に預けてメリアと二人で街を行く。相変わらずメリアは人気者で街行く人に声を掛けらていた。
教会に着くと年老いた男の司祭と若い男の司祭が深刻そうな顔で話していた。
「おや、メリア様とウンスイ様。おかえりなさいませ」
年老いた司祭がこちらに気付いて挨拶をした。彼はここの教会の人間であり既に行きで会っている。
「すまない、取り込み中であったか?」
「いえ、私の事はお気になさらず」
若い司祭は遠慮して一歩後ろに下がった。
「待ちなさい、メリア様に相談してみては?」
年老いた司祭が若い司祭を引き留めた。何だかやな予感がする。そしてメリアはこの相談事に必ず首を突っ込む筈だ。
「私で解決出来るなら何でも言ってくれ」
ほら見ろ。安請け合いするんじゃないぞ。
俺にはどうする事も出来ない相談であった。
この辺りを任せられている領主、ルーピン・プティーは強欲な男らしい。この街の運河を通る時に徴収する通行税でかなりの資産を形成していた。それによりこの街も発展して素晴らしい景観を誇っている。
しかし彼が任されているのこの街だけではなく、街の周囲には他に幾つかの村も存在する。そこの村には多額の税負担を強いているそうだ。
通行税で領は潤っているのに税金は安くならず、更に厳しい取り立てをしており村の人間は生活が立ち行かないそうだ。
ルーピンにとってこの街と運河にしか興味が無く、他の村では搾れるだけ搾り取ろうとしているのだ。廃村しても運河あるので税の心配はないのでやりたい放題らしい。
そんな状況を見かねた村の司祭がこの街の司祭に相談に来た。その時にタイミング良くメリアが訪れた。そう言う訳である。
なら俺は関係ない。相手は教会でも悪霊でもない。メリアもどうする事も出来ないからさっさと断れ。
「分かりました。私が直接領主に直談判します!」
こいつ……マジで何考えてるんだ。
「ありがとうございます、メリア様、御使様」
何故かしれっと俺も含まれている。そうなると嫌だとは言えない。
「僕もやれるだけの事はやってみます」
笑顔で嫌々承諾した。解決するとは言っていない。
空いた時間で街の観光をしたかったがとんだ予定が入ってしまった。ならさっさと領主のとこに行って断られてくるか。
足早に外に出たメリアを俺は渋々追いかけた。何も考えていないのだろう。それでもメリアの目は正義に燃えていた。
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