働けリッチー

グラジオラスとメリアはアナスタシアの現状を教えた。

「なんと、あれから十年も経っているのか」

「カクタス司祭は何をしていたのですか?」

 グラジオラスは率直に質問した。カクタスの顔は骸骨なので表情が読み取り難いが喋り辛そうなのは分かる。

「この街をアンデットから守っていた。いや、お前さんの話を聞くに守っていたつもりなのだろう。アンデットはおろか誰一人この街にはいない。ワシは一体何をしていたんだろう……」

「聞いて下さい!ここに来たのは貴方にお願いがあるのです」

「悪霊となったワシにできる事等ない」

 「今や教会は信用に値しません。リッチーとなった貴方の力が必要なのです」

「まさか、このワシに教会に歯向かえと言うのか?悪霊となり、街を占拠し、それでいてまだワシに罪を重ねさせるのか」

「違います。教会は権力で腐敗しているのです。教会をあるべき姿に戻すためにそのお力を正義の為に使って下さい」

「今のワシに教会を咎める資格はない。ワシも同じ罪人だ」

 何だこの骸骨、しょぼくれてるのか。大体グラジオラスもいきなり本題に入りやがって。こういうのは少しずつ話を聞かなきゃいけないのに。下手くそが。これ以上話を任せても埒があかないな、俺が話すしかないか。

「それでカクタス司祭はこれからどうするんだ?」

「君は誰だ?見慣れぬ格好をしているが」

「まあ、教会関係者だ。それよりどうするだって聞いてるんだ」

「女神様に祝福されなかった悪霊はいてはならない。一思いにワシを浄化して欲しい」

「へーそれでこれまでこの街を占領して散々住人を困らせた罪を滅ぼせるとでも?」

「ウンスイ!貴様何を言っている!」

「メリアには聞いていない。今はこの責任逃れ骸骨野郎に聞いてんだ」

「責任逃れ?このワシが?」

「そうだ、十年もやりたい放題したくせにその責任を果たさずに天国に逃げようとする卑怯者だ」

「だがワシはここに居てはいけない」

「まだこの街の住人は生きている奴もいる。そしていつの日かこの街に戻ろうと必死に生きているんだ。それなのにテメーは一人で勝手に逃げて女神様に何て申し開きをするんだ?うっかり悪霊になっちゃったから許してね、とでも言うつもりか?」

「それは……女神様に罰を与えてもらう」

「だったら今しろ。しっかりやる事やってその後天国でも地獄でも好きに行けばいい。死んで責任を果たすなんて舐めた真似をするなよ」

「ならワシはどうしたらいいんだ」

「骸骨になって頭の中の脳味噌まで無くなったのか?そこらに居たスケルトンを使えばいいだろ?昼夜問わずそいつらに働かせればいいだけだ」

「しかしあれは許されざる力だ」

「誰か許さないんだ?」

「勿論女神様だ」

「十年も使ってたんだ、今更使ったところで何も変わりはしない。それに力は何のために使うが重要なんだよ」

「何のために……」

「そうだ、包丁だって料理に使うが人殺しにだって使える。だから使用を禁止するなんて馬鹿げているだろ?その許されざる力とやらも人助けに使えば何も問題はない」

「また、力に飲み込まれて自分を失うかもしれない」

「その時はまた殴って正気に戻せばいい。それにこっちには最強な騎士団長様もいるんだ、いつでもぶっ殺してやるよ」

 カクタスは黙ってしまった。大体教会を倒すとかそんな事言って納得する訳がないだろ。何でこう信者共は真っ直ぐしか進めないのだ。とにかく信者共は真面目過ぎる。もっと柔軟に考えられないのだろうか。

「住人達はワシを許してくれるのか」

「そんなもんは知らない。許して欲しけりゃ行動しろ。少なくともお前の心配をしていた奴はいたぞ。そいつはアンタから子供の頃、人としての生き方を教わった。許して貰うには行動するしかないんだろ?」

 まあ、そんな事は聞いていないけどな。そんな事聖典に書いてあっただけだ。ただどうせそんな説教をしていたはずだ。ガキ向けの説教なんてどれも一緒だ。

「そうだな、信仰も贖罪も行動によってのみ示す事が出来る。子供達にあれほど言い聞かせていたのに」

 ほら、やっぱりしてた。馬車の中の暇な時間にグラジオラスに読んでもらっていてよかった。

「それで?まだ生きるか?」

「ああ、この身砕けるまで贖罪をする事を女神様に誓おう」

「カクタス司祭!よかった」

 グラジオラスは喜んでいる。

「いい大人がはしゃぎおって」

 骸骨だから表情は読み取り難いがカクタスは笑っている様な気がする。まあ、これで大幅な戦力強化が出来た。教会をぶっ潰すかどうかはさておき軍隊並みの力を手に入れてしまった。これは絶対にバレてたら問題になる。必ず隠し通さなければ。

「ところでなんで女神像に綱を巻きつけているんだ?朧気な意識の中でワシはハッキリと女神像を振り回しているのを見たのだが」

 明らかにカクタスの空気が変わった。

「え?これ?いや、これはカクタス司祭の下に行く為に仕方なく……」

「全員そこに座れ!」

 骸骨の顔で恫喝してきやがった。断れる訳ないだろ。しかも後ろにはスケルトンが現れて逃げられない様にしてやがる。

 俺達の三人は街のど真ん中でカクタスによる説教を受けた。スケルトンに囲まれる説教は生きた心地がしなかった。これ地獄の刑罰の一種だろ。

 大の大人に対して子供を叱り付けるように説教する様は、生前もこんな風に怒っていたのだと容易に想像できた。

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