老骨に鞭打ち

今日もアナスタシアの街の前に来ていた。グラジオラスは無事で俺達を待ってくれていた。

「ご無事でしたか」

「ああ、夜中も何度か侵入を試みたがやはりスケルトンの数が多くて前に進めない」

「そうでした。ですが私もしっかり休んできました。今日こそお力になります」

「心強いな」

 メリアは盛り上がっているがこの調子では今日も突破は無理だろう。

「本当にカクタスの所に行くんだな」

「ああ、今日が無理でもまた準備を整えて何度でも挑戦するつもりだ」

 何日もここらをウロウロするのは願い下げだ。隣の街ならまだしも、さらに遠くまで行って準備するとか言い出しかねない。グラジオラスには寿命は無いだろうがこっちの時間は有限だ。無駄な時間は過ごしたく無い。

「カクタスの所に行くのにどんな手段を用いてもいいのか?」

「構わない」

「言ったな?」

「ああ、騎士に二言は無い」

 俺は声を出さずに笑った。


 俺達は荒廃した街中を堂々と歩いている。俺は女神像にロープを巻きつけて頭上でブンブン振り回してながら歩いている。

 女神像に触れたスケルトンは砕かれ消滅し、他のスケルトンは近付こうにも近付けず俺達の周りを取り囲んでいるが手出し出来ずウロウロしている。

 この女神像を振り回して出来る神聖なる結界の内側にはスケルトンどもは入る事が出来ない。まるで小学生が縄跳びでブンブン振り回す様な幼稚で単純な発想だが、予想通りの結果に笑いが止まらない。

「これは女神様の侮辱だぞ!」

 メリアは怒っているがちゃんと俺が振り回すロープの内側にいる。

「そんなに嫌なら出て行けばいいじゃないか」

「くっ」

「まあ、これも女神様の祝福だな。こんな俺でも守ってくれるんだ。本当、女神様は誰にでも分け隔てなくて慈愛に満ち溢れている」

「まさかこんな方法があろうとは」

 グラジオラスの言う通りだ。コイツら信徒は女神像を振り回すなんて不敬な発想をそもそも持ち合わせていないのだろう。例え思いついても誰にも言えないだろうし、騎士団でこんな方法を使える訳がない。

 それにしてもあの自称女神を形どった像を好きなだけ振り回せるなんて愉快、愉快。しかも信徒の目の前でだ。久々に気持ちのいい時間を過ごしている。

 剣を使えない俺に強力な武器ができたことはなりよりの成果だ。悪霊退治もこれから楽しくなりそうだ。

 そんな風に女神像をブンブン振り回しながら街の中心部へと進んでいくにつれて黒い瘴気は濃くなっていき、元凶に近付きつつあるのが確信できた。

「もうすぐ街の中心だ」

「ここからが本番ですね」

 メリアはカッコよく決めているがお前はその本番に何をするんだ。説得も俺の仕事の筈だろ。お前の本番って何なんだ。

 文句を喉の奥に飲み込みつつ歩いていると前方に不審な奴がいるのに気付いた。

「なんか宙に浮いている奴がいないか?新種か?」

「司祭服を着ている。おそらくあれがリッチーになってしまったカクタス司祭だ」

 他のスケルトンは全裸だが、宙に浮いているスケルトンは司祭服を着ていて何やらぶつぶつ言っている。グラジオラスと違って完全に白骨化して悪霊になっている。そこの差は何かあるのか?

 ようやくカクタスらしきリッチーの目の前に着くとグラジオラスが叫んだ。

「カクタス司祭!私です!グラジオラスです!」

「やってやる……やってやる……やってやる……」

 コイツもこえーよ。悪霊になるとどいつもこいつもぶつぶつ何かを唱えていやがる。それに全く聞く耳を持っていない。いや、骸骨なんだから耳なんて最初から無いのか。でも声帯もない筈なのに声を出してるからなあ。本当に非常識な奴らばかりだ。

「私です!グラジオラスです!話を聞いて下さい!」

 どんなに叫んでもカクタスは反応しない。正気を失っていてこちらに気付いていない様だ。仕方ないまた手荒な方法だがこっちを見てもらうか。

「少し伏せてろ」

 そう言って俺はブンブン振り回している女神像をカクタスにぶち当てた。女神像はカクタスの胴体に当たり、鈍い音を立てて地面に落ちてきた。

「がっは!」

「お前!何をしている!」

「怒んなって。ほれ、これで話が通じる様になっただろ」

 メリアを宥めてる間にグラジオラスが叫んだ。

「カクタス司祭!ご無事ですか!」

「う、う……その声はグラジオラスか……」

「そうです!グラジオラスです!お久しぶりです!」

「お前は十年前、戦死した筈では」

「私も悪霊となりこの地に留まっているのです」

「そうか……お前もか」

 どうやらまともに話せる様になった。なら俺からの要望は、

「それより周りのスケルトンをどうにかしてくれ。腕が疲れてきた」

「え?ああ、すまんな」

 カクタスは俺達の周りを取り囲んでいたスケルトンを地面に帰した。これでようやく腕を下ろせる。

 

 

 

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