ビックリどっきりスケルトン
はい、着いてしまったアナスタシアという街に。いや街だった所と言うのが正しいだろう。今や誰も住んでなく、野盗すら近付かない。悪霊が出るからこれが本当のゴーストタウンってか、馬鹿野郎。
そんな事考えている暇は本当はない筈なのだが、俺はやけになっている。街の前まで着くと昼間だというのに街全体がどんよりと薄暗い。黒い霧の様なものが立ち込めている。この手の黒い霧だか瘴気だかは悪霊を見つけるたびに見てきたが街全体を覆う程とは恐れ入った。
だから帰ろう。なんてったって三人で、しかも俺は戦力外なのにこの街に突撃するなんて無茶だ。こいつらも戦闘のプロなんだろ?だったら無理な事くらい分かれよ。
「あの美しい街が……」
「グラジオラス様……心中お察しします」
なら俺の心中も察しろよ。露骨に嫌顔してるだろ。ほら見ろよ、ほら、ほら、ほら。
「それでその司祭様とやらは何処にいるんだ?」
「街の中央に教会がある。居るとしたらそこだろう」
「分かりました!」
結局俺も行かざるおえない。一人で待つより二人に付いて行ったほうが安全なのは明白だからだ。
メリアが街に一歩踏み入れた瞬間、地面からわらわら骸骨が出てきた。
「おい、グラジオラス!こいつらを説得するのか!」
「コイツらはスケルトンだ。悪霊ではなく魔物の一種だ。説得は無理だ」
そこの違いはよく分からないが話の通じない相手なのは分かった。体を動かす筋肉もないのにどうやって動いているんだ。そして目も耳も無いのに明らかにこちらに向かって来ている。
「行くぞ!メリア!」
「はい!」
二人してスケルトンに切り掛かって行く。切られたスケルトンはカタカタ音を立てて崩れ去っていく。動き自体は遅くそこまで厄介な相手では無いと思う。正直俺だって剣持ってりゃ倒せるだろう。
ただいかんせん数が多すぎる。倒しても倒してもワラワラ出てきて、一向に前に進めない。二人では明らかに人数不足である。このままでは消耗してこちらが潰れてしまう。デュラハンになっているグラジオラスに体力と言う概念があるのかは分からないがメリアは明らかに疲れが見える。
「一回撤退しよう!メリアが限界だ!」
「私はまだやれる!」
「中央まで持つのか!失敗すれば帰りも剣を振るんだぞ!今だって撤退する為の体力がいるだろ!」
「だが!」
「いや、撤退しよう」
「……分かりました、グラジオラス様」
さっさとそうしろよ。何の算段があって突撃したんだコイツらは。
街の入り口まで撤退した俺達は息も絶え絶えだった。死んでいるからかグラジオラスの呼吸は乱れていない。
「はぁ、はぁとりあえず近くの街で休もう、暗くなってた」
「私はここにいる。どうせ街中には入れないからな」
「なら私もお供します!」
いや駄目だろ、馬を操れない俺もここで待機となる。
「メリアはウンスイと街で休め。私の心配は要らん」
メリアは不満そうな顔をしている。街で休めるのに何が不満なのだ。
「グラジオラスにはグラジオラスの考えがあるんだよ。俺達は生きてるんだから飯も必要だし睡眠も必要だ。ここはグラジオラスに任せよう」
「ウンスイの言う通りだ。明日またここで合流しよう」
「分かりました」
すんなりグラジオラスの指示に従ったメリアと一緒に馬車で本来の目的地である街に向かった。その道中メリアは何度も後ろを振り返ってはグラジオラスの心配していた。
「やはり戻った方がいい」
「大丈夫だって」
「何故そう言い切れる」
「悪霊って奴は神聖な武器とか魔法じゃないと倒せないんだろ?じゃああの廃墟でグラジオラスを倒せる奴はいない筈だ」
「確かにそうだが」
「それにグラジオラス一人の方が動き易い事もあるだろう。それとも天下の最強騎士団長様はそんなにも弱っちいのか?」
「グラジオラス様を馬鹿にするな!」
「馬鹿にしているのはお前だ。グラジオラスが最強ならお前は何の心配している」
「……」
「要らぬ心配だって事だよ」
ようやくメリアは落ち着いてくれた。大丈夫だと頭で分かっていても心配になるのが人間ってもんだ。だから人は分かる形で拠り所が欲しくなるのだろう。それの拠り所が紛い物だとしても問題ない。なんせ本人が心配しているだけで問題など起きないのだから。
街に着くといつもの様に教会に泊まらせてもらう。そこで俺は片手で持てるほどの大きさの女神像が飾られているの見かけた。俺が女神像を眺めているとメリアが話しかけてきた。
「何だ?遂に信仰心が芽生えたか?」
「いや、そうじゃない。スケルトンにも神聖武器って効くのか?」
「普通の武器でも倒せるが、神聖武器ならより効果的だ」
「なるほどね」
「そんな事より早く寝るぞ。明日の早朝直ぐにアナスタシアに向けて出発する」
「はいはい」
メリアは母親の様に忠告してから自分の部屋に入っていった。
グラジオラスがアナスタシアにいる以上、明日も必ず行かなくてはならない。あの様子だと諦める事も無いだろう。俺も腹を括るしかない。
あのスケルトンを操れる奴をこちらに引き込める事が出来れば確かに強力な戦力なる。兎に角、出来る限りの準備をしていこう。
俺は通りかかった男性の若い修道士に声を掛けた。
「すいません、ダニーさん。少しよろしいですか?」
「ウンスイ様、どうされました?」
この見習いも俺が丁寧な対応をしているおかげで柔らかな対応をしてくれている。行きの道中でしっかりと交流した成果がここで出ていた。
「こちらの女神像を明日お借りできますか?」
「えっと、構いませんがどの様な理由で?」
「明日、アナスタシアに行くのです」
「本当ですか!」
男性はこちらの予想以上に驚き喜んだ。
「はい、それでこちらの女神像の祝福を少しばかりお借りしたいのです」
「それでしたらどうぞお持ち下さい」
「ありがとうございます」
「遂にカクタス司祭が救われるのですね」
「お知り合いなのですか?」
「はい、私は元々アナスタシアに住んでいました。そこでカクタス司祭には大変お世話になっていたのです」
「それは辛い過去をお持ちで」
「いいえ、辛いのは女神様の下へ行けず彷徨っているカクタス司祭です。どうかカクタス司祭をお救い下さい」
男性は深々と頭を下げて懇願した。故郷を追われ、恩人も悪霊になってしまったコイツの境遇は流石に可哀想だ。この街にはそんな奴らが大勢いるのだろう。
「どうかお顔を上げてください。出来る限りの事をやってみます」
「お願いします」
男性と別れ、俺は女神像を持って自室に入った。明日はこの女神像に活躍してもらう。どれだけ効果があるか分からないが試す価値はある。
俺は女神とやらを信仰もしていないし、尊敬もしちゃいない。ただこの女神像に宿る神聖という力は便利なものだと身を持って知っている。
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