寄り道オブザデッド
何の作戦も決まらないまま帰りの旅は続いて行く。まあ、何にも決まらないならそれはそれでいい。コイツらが大人しくしてくれていれば俺も何もしなくていいからな。
後は教会内でどう立ち回るかだ。一応グラジオラスは消滅した事になっている、もしかしたらまた何処かに連れて行かれて除霊する事になるかもしれない。それならダラダラ旅するのも悪くない。その時はグラジオラスを連れて行こう。コイツがいれば俺もそれなりに安全だからな。別にどいつもこいつも説得しなくてもいい、何で真面目に除霊なんかせにゃならんのだ。
「メリア、この道であっているのか?」
「何か間違えましたか?グラジオラス様」
「このまま行くとアナスタシアに着かない筈だ」
帰りの旅も行きと同じ街を通っているので俺も分かるが、アナスタシアなんて街には泊まらなかった筈だ。グラジオラスは頭と体が分離してボケているのか。
「そうでした、グラジオラス様は知る筈もないですよね。二十年も砦にいたので」
「アナスタシアで何かあったのか」
「はい、十年前、突如アンデットの群れに街が襲われて滅びました」
「なんて事だ、それで街はどうなったのだ。何で復興していない」
「それが街の司祭が悪霊と化し、大勢のスケルトンを使役していて奪還出来ないでいるのです。それでアナスタシアは諦めて別の街を作る事になりました」
「私が知らぬ間にその様な事が」
へー、恐ろしい事もあるもんだ。とんでもない世界だここは。早く日本に帰りてーな。そしてたら貯金もあるし霊媒師から足を洗うか、また自称神にこの世界に連れてかれる可能性もある。
「もしかして悪霊と化したのはカクタス司祭か?」
「そうです、ご存知なのですか?」
「ああ、私が若い頃からお世話になった司祭様だ。優しくみんなに慕われていた」
「思い出深いお人だったのですね」
「ああ……」
グラジオラスは黙ってしまった。そもそも二十年も前に生きていたんだ、死んだ知り合いくらい一人二人いるだろう。感情に浸っているなら好きにさせよう。何か言って変な事を思い付かれたら堪ったもんじゃない。
「ウンスイ、カクタス司祭を助けられないか?」
ほら出た、こう言う事だよ。
「やはり騎士たるもの見逃せませんよね!」
メリアも乗せるなよ。何で俺がそんな一円にもならない事をしないといけないんだ。
「今まで除霊が出来てないって事は騎士団でも手を焼いてるんだろ?俺達だけで出来るの訳ないだろ」
「ウンスイ、これは悪い話では無いのだ」
グラジオラスは真面目な顔をしている。
「俺に何の得があるんだ」
「カクタス司祭は恐らくリッチーと言う悪霊になっている。リッチーは意のままにスケルトンを操る事が出来るのだ。もしカクタス司祭を我々の仲間に出来れば」
「なるほど!スケルトンの軍勢を使ってトライソーンを戦場に誘き出す事が出来るのですね!」
「その通りだ」
完全に作戦が決まってきてる。このままじゃ俺はそのスケルトンの巣窟に行く羽目になる。ここはきっちりと抗議しなければならない。俺には何の得も無いしな。
「だからどうやって騎士団でも敵わなかった相手に近付くんだよ」
「ウンスイ、お前は誰も敵わず二十年も縛られ続けた私に立ち向かったのだ。お前なら出来る」
「グラジオラス様もそう言っている。やるんだ」
「ちょっと待て!だから!」
「メリア!アナスタシアに向かってくれ!」
「了解!」
メリアは馬を操り方向転換した。
ああ、これだから話を聞く気の無いやつは嫌いなんだ。俺だけ逃げようにもこの世界に一人で生きる事も出来ない。人数不利になった時点で俺の運命は決してしまったのかもしれない。
こんな事ならグラジオラスをさっさと昇天させるべきだった。
後悔してももう遅い。馬車は使われなくなった荒れた街道をズンズン進んでいく。
ああ、いったい俺はどこで選択を間違えたのだろう。
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