三話

作戦ではない会議

砦に巣食う悪霊は居なくなった。村の司祭に報告すると泣いて喜んでくれた。

「ああ、ありがとうございます。これでようやくグラジオラス様は女神様の下に……」

 泣いて感動しているが当の本人は村の外で待機している。今も元気に素振りをしているだろう。だがそんな野暮な事を俺が言う訳なく。

「ええ、安らかな表情で天に上って行きました」

 嘘は言っていない。実際そんな表情でちょっとだけ上がっていったんだ。直ぐに降りてきたけど。

 そんな感動的な場面でもメリアは何か言いたげであるが事が事だけに何も言えないでいる。よく見とけ何でもかんでも真実をそのまま言えばいいってもんじゃないんだよ。

 司祭の婆さんは俺とメリアに固い握手して送り出してくれた。

 教会を出て次は馬車の確保が必要になる。グラジオラスも同行するので今まで乗ってきた馬車に乗る事が出来ない。これまでお世話になった御者には砦でやる事があると言い先に帰ってもらった。仲間に引き込もうとグラジオラスが言っていたが、ただの御者に教会の転覆を打ち明けるなど本人も荷が重いだろう。もしかしたらアイツは俺達を見張る監視かもしれないしな。

 そして村で馬と馬車を買いそれに乗って行く事になった。これからの活動に自由に使える馬が欲しかったらしい。何だかメリアはノリノリで準備をしている。メリアはそれなりに金を持っていた。それなら何で今まで狭い質素な教会で寝泊まりさせたんだよ。

 村の外に出て森の中で待機していたグラジオラスと合流して三人の帰りの旅が始まった。

 まずはグラジオラスにデカい外套を羽織ってもらった。コイツの鎧は脱げないらしく、人前でそのまま歩く訳にはいかない。だから外套で全体を隠す事にした。外套と言ってもただデカいボロ布だ。それでも無いよりマシだろう。

 顔を隠す兜は村には無かったので道中良さげな物を見繕うつもりだ。グラジオラスの為ならメリアは金に糸目をつけないからな。

 グラジオラスが御者台に座ると色々面倒くさい事になりそうなので御者はメリアが担当する事になった。三人だけなのでこれからの作戦会議を堂々とできる。

「それでは教会を再建すべく、これから行う作戦を考えよう」

「はい!グラジオラス様!」

 二人はご機嫌だ。巨悪を倒す正義の味方になったつもりなのだろう。いい歳してやめてくれよ。こっちはそんな事しないでのんびり平和に暮らしたいのに。

「まずはトライソーンを捕まえて聞き出そう」

「分かりました。私が聞いてきます!」

「ちょっと待て!お前ら本気か!」

 俺は慌てて止めた。

「何だウンスイ、大声を出して」

 とメリアが不機嫌な顔をしている。

「何だじゃねーよ。メリアが直接聞いて、トライソーンが私がやりましたとでも言うと思ってるのか?」

「え!それは……その」

「否定するに決まっている、そしてトライソーンは上に報告をして必ずメリアを殺しにかかるぞ」

「う……確かにそうだな」

「ならば何か案があるのか?」

「聞き出すにしてもトライソーンが言い逃れ出来ない状況にしないといけない。それが出来るのは……」

「グラジオラス様だけだ!グラジオラス様が殺されたと大々的に公表すればいいのだ!」

「なるほど!」

「いや無理だろ。グラジオラスは一応悪霊だぞ。誰が信じるんだ」

 こいつら何事も真正面過ぎる。騎士がそうなのか、それとも宗教にどっぷりだからそうなのか。

「トライソーンから聞き出すのはグラジオラスの役目だろう。だがなるべくトライソーンが一人の状況がいい。他の人間にバレると何されるか分からないからな」

 あくまで内密に聞き出さなければならない。お前らがどうなろうが知ったこっちゃないが、ここでメリアが変な行動を起こしたら確実に俺が疑われる。

「うーん、それは難しいかもしれない」

 メリアが異を唱えた。

「何でだ?」

「トライソーン騎士団長は聖都から滅多に出ないのだ。常に教会内に居て一人になる隙を付くのは容易ではない」

「え?騎士団長なのに働かないのか?」

「ああ、大規模な作戦以外は滅多に現場に来ない」

 それでよく騎士団長をやってられるな。もしかしたら上の連中が怪しい動きをしないように見張っているのかもしれないな。

「トライソーンめ、騎士団長でありながら聖都に引きこもっているなど騎士として恥ずかしくないのか」

「はい!騎士たるもの常に危険と隣り合わせの戦場に赴き、民の為に剣を振るうのが責務の筈です」

「その通りだメリア。君こそが本物の神聖騎士だ」

「有り難きお言葉!」

 あー、こいつらが教会から疎まれるのも分かる。こんなのがウロウロしてたらやってられないだろ。俺だってうざったい。

「あー分かった、分かった。それでトライソーンを誘い出す為には何か理由が必要って訳だな」

「む、まあ、その通りだ」

「前回トライソーンが出撃したのはどんな時だ?」

「うーむ、確か法王様が他国に貴賓として招待された時に付いて行った筈だ」

「それは俺たちには無理だな」

「後はアンデットが大量発生した時には流石に出撃していたな。そんな時も引きこもっている訳にはいかないからな」

 やはり個人で出来る範疇を超えているな。

「やはり聖都で一人になる機会を待つしかないだろう」

 トライソーンをどうやって一人の状況を作り出し言い逃れができない状態で聞き出す事が必要だ。

 何で俺はこんな事を考えなくちゃならんのだ。こいつらが大人しくしてればこんな事になっていないのに。

「やはり夜中に襲撃するか」

「はい!お供します!」

「だからやめろって!」

 少し議論が行き詰まると直ぐにコイツらは強行策に出ようとする。脳筋共が。道中何度もこのやりとりをして馬車は進んでいった。ああ、早く一人になりたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る