聞く耳も頭もない
二階に着くとデュラハンの足音は止んだ。どうやら二階には降りてこないらしい。こちらはスーツと言えど相手は鎧を着ており走りさえすれば逃げ切れた。
息を整えて冷静になる。とりあえず説得は無理そうだ。何で頭が無いのに俺を認識出来たか分からない。ただアイツは俺が声を掛けるまで俺に気付いていなかった様だ。一階や二階を彷徨いてる時も現れなかったし、三階に上がっても気付いていない。
逃げ切れる自信はあるので少し観察をしてみるか。
俺は恐る恐る階段を上がっていく。足音は少し遠くに聞こえる。
階段から顔を出して周囲を確認するがデュラハンはいない。先程歩いていた通路に戻った様だ。
また俺はゆっくりと歩き曲がり角に着いた。足音は遠ざかっていく。角から顔を出してデュラハンを観察してみる。
デュラハンはゆっくりと向こうに歩いていくのが見える。そして奥の角を曲がり姿が見えなくなった。俺はまたゆっくりと歩きながら通路を歩いて行く。耳の澄ませデュラハンの足音に全神経を集中させる。
そうしてデュラハンが曲がった角まで辿り着いた。その角には塔を上るための階段があった。
角から顔出してデュラハンの姿を確認する。その時デュラハンの足音が止んだ。そしてゆっくりとこちらを向いて元来た通路に戻り始めた。
気付かれた!そう思って顔を引っ込める。しかしデュラハンは足音はゆっくりと近付いてくるだけで、俺を追って走るような感じはしない。
それでも俺は身の危険を感じ最初の曲がり角に急いで戻った。またそこでも少し頭を出してデュラハンが来るのを待つ。先程まで俺がいた奥の角からデュラハンが姿を現した。やっぱり俺を追っている様に見えない。どちらかと言うと巡回をしている様に見える。
そしてデュラハンはまたゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。俺は頭を引っ込めて下りの階段まで戻った。
デュラハンの足音は相変わらずゆっくり近付いてくる。デュラハンが曲がり角から姿を見せた。そして曲がる事なくそのまま引き返した。
どうやらデュラハンは二つの通路を行ったり来たりと巡回している様だ。あそこの通路だけ巡回していると言う事は何か守っているのだろう。三階の通路には部屋は無く塔への階段しかなかった。
あの塔に何か守る物があるのだろう。階段には行き着いたがデュラハンが巡回している為上るのは危険だろう。もし上っている途中でデュラハンに気付かれたら逃げ場は無い。それを確認する為に一応もう一つの塔に上ってみよう。
俺はデュラハンが守っている塔の対角上にある塔に上ってみた。こちらはデュラハンが近付かないので安全に上ることが出来た。
上ってみるとやはり逃げはない。外を一望できるが夜なので何も見えない。ただ夜空は星が出ていて綺麗であった。まあそんなものを楽しめる余裕は俺には無いのだが。
警戒しながら塔から下りてまた二階へ続く階段に戻ってきた。
やはりあちら側の塔を上る為にはデュラハンをどうにかするしかない。ならば方法は一つである。俺は嬉しさのあまり笑ってしまった。
俺は砦の外に出た。外ではメリアが待っていた。
「悪霊退治してやったぞ」
俺はメリアに報告をした。
「そんな馬鹿な。あり得ない」
「なら確認すればいいだろ、それで嘘じゃないと分かる」
そして俺はメリアと一緒に再び砦に入った。メリアは一階から用心深くグラジオラスを探すように探索して行く。
「ほらいないだろ?」
「まだだ、上の階が残っている」
メリアはズンズン歩いて行く。
「大体どうやって騎士団長を倒したのだ」
「倒してねーよ、説得するって言ったろ」
「何と言って説得したんだ。二十年も地上を彷徨っているのだぞ」
そんな話をしていると二階の探索も終えた。
「言う訳ないだろ。俺を嫌っている奴に。アンタは悪霊がいない事を確認すればいいだけだろ?」
「絶対に何か裏があるはずだ」
遂に三階に着いた。俺はアイリスから貰ったネックレスを落とした。
「先に行っててくれ。ネックレスを落とした」
「大事にしろと言ったろ」
「分かってるって、探してるからさっさと行けよ。一週回ってくる間に探しとくから」
「必ず見つけるんだぞ」
「はいはい」
メリアはズンズンと歩いて行き曲がり角を曲がった。それを確認すると俺は急いでメリアとは逆方向に走っていく。そして遠くからメリアの叫び声が聞こえた。
「貴様ーー!!まだいるではないか!」
「ざまーみろ!!首無し騎士様とデートでもしてな!」
メリアに仕返しをしてやった。何て心地よいのだ。
俺は急いでデュラハンが守っている階段に着き上っていった。下ではカンカンと音が鳴っている。おそらく剣やら盾やらで戦っているのだろう。
階段を駆け上がり塔を上り切るとそこには男の首が床に置かれていた。デュラハンがいるので少しは予想していたがやはり本物を見ると不気味である。
男の髪は床に付くくらい長く、その顔は青白く目の下はクマがあり不健康そうであった。死んでいるので健康か不健康かで言えば不健康だと思うが今は関係ない。それよりさっきから何かぶつぶつ言っている。
「まだだ、まだだ、まだだ……」
怖えよ。普通の人間が言ってても怖いのに生首が呟くなよ。
「おい」
「まだだ、まだだ……」
「おーい、聞こえてるか?」
「まだだ、まだだ……」
駄目だ完全に自分の世界に入っている。となると下の体は勝手に動いているのか。
こちらに気付いてくれないと話が進まないので俺は生首を拾い上げてアイリスから貰ったネックレスを生首に押し当てた。
「オラ!聞いてんのか!」
ネックレスを当てた所から白い煙が出てきた。生首は苦しそうに絶叫した。
「ぐわぁぁぁ!!天に召される!召される!しかし……なんのこれしき!」
「うるせぇ!さっさと召されろよ!」
俺は生首を床に投げ捨てた。何で召されるのを拒むんだよ。
「はっ!何者だ!」
ようやく俺と会話する気になった様だ。手の掛かる騎士団長様だ。
「アンタの魂を救済しに来た」
「私を救済に?」
「そうだ、それより下で戦ってる体を止められるか?連れが襲われてんだ」
「それは申し訳ない」
階段の下から音が止んだ。勝手に巡回してくれるし、自分の意思で止めれるのか。便利な体だ。
「それでは貴方は教会の者か?」
「まあそんな感じ。教会から頼まれてここに来た」
「随分司祭様の服も変わったのだな。それに若い。修道士ではないのか?」
「まあ色々事情があるんだよ。それにアンタが死んで二十年も経ってるからな」
「長い間ここで彷徨っていたが二十年も経っているのか」
ちゃんと話せば分かる奴で安心した。正直メリアやアイリスよる話が通じる。
階段から上って来る音が聞こえてきた。
「ウンスイ!貴様!覚悟はできているのか!」
メリアは剣を俺に向けてきた。怒っている。まあ当然だ。
「そんな事より憧れの騎士団長様だ。挨拶くらいしたらどうだ」
俺が床に目を向けるとメリアも床を見た。メリアは生首と目があった。
「どうも」
「きゃあああ!!」
メリアは腰を抜かしてしまった。コイツ悪霊退治が仕事じゃないのか。こんなので腰を抜かしていたら仕事になんないぞ。
「その鎧、神聖騎士団か?」
「まさかグラジオラス様ですか?」
お互いに質問しあってる。とりあえず危険は無くなったので一安心だ。
「とりあえず体ないと落ち着かないから、下から体を連れてきてくれ」
俺は生首に注文した。いい加減顔を下に向けるのも疲れる。
「これは失礼」
そう言うと下からガシャンガシャンと体が上ってきた。これでようやく俺の仕事が始められる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます