水、売りましょうか。高いですけど

わたあめ

水、売りましょうか。高いですけど

 この砂漠の果てには、人類生存域を広げるための一族がいる。そんな場所に、一人の魔法使いの少女が行く。


「水、売りに来ました」


 ぼったくり価格で水を売るために


「ああ、いつもありがとうねぇ……」


「1L2000円です」


「また高くなったのかい」


「ええ、外の世界でも水は貴重ですし、私がここにくるための色々な準備費もあります」


「君が水を売ってくれなきゃ生きていけないからね。買うよ60L」


 ふっ儲かった。


「では、また1ヶ月後に会いましょう」


「じゃあね。嬢ちゃん」




 12万円、これで今月も生きていける。


「家賃に2万、母の薬に5万、準備費に3万それでほとんど消えちゃうんだけどね」


 残りの2万を貯金に回し、後は日雇いの仕事で飯を食べる。


「値上げすればちょっとだけ余裕でたな」


 あの家族には悪いがぼったくらせて貰おう。


「魔物による国の危機なんて勇者がとっくに終わらせたというのに、私以上に哀れだ」


 砂漠にいる彼らは、国が魔物の被害でヤバかった時に人類が住めるところは他にないか探索しに行ったものだ。


「たまには此方に戻ってくれば、真実を知れるというのに」


 昔は遠かったが、今では砂漠の近くまで開発されている。数日であそこまで辿り着けるから今、私達は生きていけてる。


「最初は大変だったなぁ……」


 今よりも遠かったし、安全なルートも分からなかったから死にかけまくったし。


「さて、ご飯を買って家に帰ろう」




「おかあーさーん、ただいま」


 相変わらず病に倒れてる母。


「ごめんね。娘にそんな苦労をさせるなんて親失格だよね。本当にごめんなさい」


「お母さんは寝ててよ、今ご飯出すから」


 ああ、哀れだ




「今月もそろそろかな」


 砂漠を旅する準備をせねば。片道2日ほど歩いたら、砂漠の一家のところに着く。

 

「本当に何故みんなは気づかないんだろう」

  



私がそれを知ったのは数ヶ月前、まだ魔物により王国が危機に瀕していた時だ。


「王が砂漠に遠征させた奴ら、いただろう?」


「ああ、あのよく分からないやつか」


「音信不通になったらしい。もし生きていても今頃は水不足で苦しんでるだろう」


 その時、私はお金に困っていた、母と二人、慎ましく暮らすだけなら、なんてことも無かった。

母が病気になるまでは。そこからは母の稼ぎは無くなり、薬の代金で貯金を切り崩し続ける生活だった。




「水、売りましょうか」


 砂漠に作られた簡単なテント、そこに三人の、家族がいた。初めてあった時は肌が乾燥し、唇はカサカサに生きているのも不思議な状況だった。


「水……くれないか」


「ええ、1L1000円で」


 私達が生きていくための掛けに私は勝ったのだ


「お金は奥にある、とりあえず水をくれ」


 手から水をだし、水筒に入れそれぞれ渡す。それを一気に飲む三人。


「助かったよ」


「いえ、商売ですから」


「今、王国はどうなっている?」


「貴方達がここに来てから変わらない、どころか悪化しています」


「そうかい……なら戻れないね。次はいつ来れるんだい?」


「1か月後なので、今出せる限界の量、60L。それを買っておくことをオススメします」


「分かったよ、6万円ね、今持ってくるよ。」


「ありがとうございます」


「ほら、受け取って。お金は国からたくさん貰ったからね。ちょっと上がって話すかい?」


「お断りします。急いで戻らないと、次がドンドン遅れますし王国も水の魔法使いは欲しているので」


 まあ、母がいるから前線へ働きに行けない私には関係ないけど


「そうかいな……」


「では、また」




「あの時はなんで成功したんだろう」


 あれから数ヶ月、色々なミスもした。それを振り返りながら準備をする。


「それじゃ行ってくるね」


「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 数日分の食べ物と薬を起き、私は行く。

 


 いつも通りに道を歩く。


「今日もここで野営かな」


 砂漠の夜は冷える。幾つかのオススメスポットを私は見つた私は、日の進捗度によって場所を選んでその日は休む。


「おいしい」


 簡単なご飯を食べ、私は進む。


「水、売りに来ました」


「今日も来てくれたのね」


 いつもより嬉しそうなおばさんがいた。


「何かあったんですか?」


「昨日、1ヶ月に一度のデーツの収穫だったの、それが私達の命を繋いでるからね。喜ぶしかないわ」


 何を食べてるんだろうと思っていたが、そんな物を……


「そうですか、では1L2000円です」


「はいはい、今取ってくるわ」


「ありがとうございます」


「はいどうぞ、これも一個あげるわ」


 貴重であろう、デーツを渡してくる


「そんな、悪いですよ。貴重なものですし」


「いいのいいの」


「では、また来月」



 その日の夜、思い出したようにデーツを食べる。


「甘い」


 ここ数ヶ月、甘味は食べていなかった。


「食べてしまった」


 その時気づく、これ、母にも食べさせてあげたかったなと。




「ただいま」


「お帰りなさい。ありがとうね、毎日毎日」


 今までは謝罪だったのに、今日は感謝だ。なにか心境の変化でもあったのだろうか


「お母さんがいるなら、なんてことない」


 だから元気になってね?


「私は貴方が元気ならそれでいいわ」




「じゃあ行ってきます」


 今月も水を売りに行く日が来た。


「ええ。頑張ってね。行ってらっしゃい」



「いつも通りの道、なんてことはない」


 変化のない日々、それでもいい。幸せだから。そんな事を考えていると、砂漠一家の家についた。


「水、売りに来ました」


「ふふ、今日もありがとね。」


「またビーツの収穫があったんですか?」


「違うの、今からあるのよ。折角だから貴方も収穫してみる? また一個あげるわ」


「いえ……お願いします」


 断ろうとしたが、母へあげたいな、その考えてを思い出した。参加させて貰おう。


「じゃあこっちよ」



 今まで来たこと無かった家の裏側には、大きく深い穴と、何個ものビーツが実った木があった。



「あの木が私達のここにいる理由だわ」


収穫をしながら言ってくる。


「なんでですか?」


「あの木が育つってことはここの地下に水源があるって証拠でしょ? だから今もあそこで夫と息子は穴を掘っているのよ」


 穴を見ながら言う。今まで会わなかった二人はあそこに居たのか。


「そうなんですね。人類のために、そんなことを……本当に凄いと思います」


 これは本心だ。この人たちは他の人のために、ここで1年近く過ごしているのだ。水をぼったくる私とは大違い。


「それを言ったら貴方もよ? そんな私達が生きるために貴方は水を売ってくれてるのでしょう」


「言われてみればそうですね。……これで収穫は終わりですか」


「そうね、じゃあはい。これ、ビーツ。またお願いね」


「はい!」


 ビーツとお金を貰い、私は家に帰る。




「ただいまー」


無事に帰れた。


「お帰りなさい。お疲れ様」


未だ病に寝込む母。


「じゃあご飯、出すね。今日はデザートもあるから」


「そうなの、ありがとうね……」



「美味しかったね」


「そうね、本当に甘かったわ。」 


 結局半分個に持ち込まれてしまった。それでも母に幸せな変化を与えられて良かったと思う。だけど、幸せな変化は悪い変化も呼ぶのかも知れない。


「お母さん大丈夫?」


「ええ、ゴホッゴホッ、ゴッ」


 月の後半になった時だ。母の体調が悪くなって来た。薬を飲ませ、看病していれば良くなると思っていたそれも、意味はなかった。


「本当にありがとう。もう、貴方は私に縛られず、自由にしていいのよ」


「自由って言われても、分からないよお母さん」


「ふふ、本当に苦労をかけたわね」


「良いこともあったんだよ」


「なら、いいわ。じゃあ元気でね」


そう言った次の日には、もう亡くなっていた。軽く泣いた後もどうしようかと考えてた時に、私の耳は聞いてしまった。


「あそこの子、可哀想ねぇ」


「本当にあんな薬、ただ、豆を砕いただねなのにねぇ」


 その言葉で私は壊れ、三日三晩泣き続けた。だってそうだろう? ぼったくっていた私は、他の人から騙されていたからだ。




「水、届けなきゃ」


どうして思い出したのかは分からない、母の死骸を捨てたからか? それとも川という水を見たからか? だが、私が行かなければ、今も人類のために過ごしている三人が、渇きで死んでしまう。それは分かったのだ。


 急いで準備した私は砂漠を歩く。午前中は順調だった。そこまでは良かった、問題は午後からだった。


「風が……強い」


 痛いほどの砂。少し歩くだけで体がぼろぼろになる。


「そうか……いつもより数日遅いから」


 毎月、決まった五日間にこの短い旅をしていたから問題無かった。だけど、今日はその予定から少し遅れてしまった。だから周期的な砂嵐に巻き込まれたのだろう。


「水を持っていかなきゃ……」


 歩き続ける。どうにかその日の内に予定のスポットに辿り着けた。



「速く、行かなきゃ……」


 今日も続く砂嵐の中、最悪な吠え声が聞こえる。


「魔狼が……まだいたのね」


 数ヶ月前、最強の勇者の手によって一掃された魔物。それでもここは、人類が殆ど来ない砂漠。勇者が見逃していても可笑しくない。


「うぐっ」


 魔狼に突撃された私は、何とか大きなダメージは受けなかったものの、切り傷や擦り傷でいっぱいになった。


「痛い痛い痛い」


 魔狼が近づいてくる、砂が体に打ち付ける痛みで慌てた私は様々な魔法を使う。


「やってしまった。魔力が切れるなんて」


 自分が殺られる直前、なんとか殺れたものの、水を出す魔力がもう無い。これでは向かっても意味が無い。


「それでも、行かなきゃ」


 立っても立っても風で転ぶ私は、這って進む。


「これだけでも、伝えなきゃ」


もう人類が大丈夫なこと、もう貴方達がそこにいなくてもいいこと、もう、私が来ないこと。


 これを伝えなければ、人類のための行動はただの渇きで終わってしまう。


「また、強くなったかな」


風はドンドン強くなり、砂も多くなる。


「喉渇いたな」


這って這って数十分、朝から水を飲んでいない私は渇きに襲われる


「でも、あの人たちはもっと渇いてた」


そう考え、這い続ける。


「ああついた」


 そうやって家についた私。最後くらい立って、扉を叩く。軽い返事の後、扉が開かれる。


そこには




「水、売りましょうか」


 そこには、にこやかに笑っているおばさんの姿があった。


「お願い……します」


「えっ?」

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水、売りましょうか。高いですけど わたあめ @wataame7070

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