魔法少女ガチャを外して!

@parliament9

第1話

私の名前はデヴィッド・リン・クライスタント。

家族、友人、同僚からはデリーと呼ばれている。


というか、いた。


過去形になるのは今はもう新しい名前があるからだ。


タマサブロ-。


それが私がパートナーとなる、最低最悪の魔法少女に与えられた名前なのである。


part1 廃刻の秘術


私の故郷はある日突然侵略された。

家は焼かれ、女子供の区別なく殺され、蓄えは奪われた。

我らが王は決して愚かではなかった。

平素より臣民の為にと心砕き、慕われつつも万が一への備えとして軍備を整えることも忘れなかった。

ただどれだけ備えを尽くしたとしても、それらは全て過去の戦争、あるいは自軍の戦力を元に算出、用意されたものとなる。


まるで未知の、そして圧倒的なまでの戦力には何の役にも立ちはしない。


ということで栄華を誇った我らが故郷は一瞬のうちにして存亡の危機を迎えることとなったのであった。

追いつめられた我らが王は残された戦力と官吏達を王城へとかき集めた。

当時の私は弁術士として、国中のあらゆる分野からの提言を精査する仕事についていた。それはもう少し具体的に言えば提出された書類について不備や矛盾がないか、そして誰が読んでも納得できる公平さが担保されているかを判断するものだった。

それ故に専門家には及ばずとも、彼らとの繋がりや幅広い領域において基礎知識を備えており、それを評価され、降伏するなり特攻するなりした後のことを担うべく呼び出されたのだろうと思っていたのだが、王は私と二人きりになるよう人を払うとこう告げた。


"これより廃刻の秘術を起動する"


初めて耳にする術であったが、それも当然。

それは代々の王から王へと語り継がれてきた禁断の秘術だった。


それは領土の地下深くまであらゆるところに張り巡らされ、大地が持つ魔素を吸収する"根"。

それ以外の領土範囲内の全ての刻を止める。生命も、建物も、一切の刻をだ。

人は死と共に土に帰ることで、その身に溜まった魔素も土に還す。

そうして術式に基づき、あらゆる現象を引き起こす魔法や乗り物や通信機器、日々の生活を助ける器具の数々を稼働させる素となる魔素は循環されていく。

廃刻の秘術は人の刻を止める為、その循環も止まる。刻を止めるために消費される魔素を"根"が地中から得られなくなったとき、秘術は自動的に解除され、人々はまた動き出す…。

かつて天地の乱れが生じ、国全体が飢饉の危機に瀕した時に編み出された秘術。


それが廃刻の秘術だ。

私は王から説明を受け、侵略が最終段階に入った今こそ確かに必要な秘術だと理解した。


だがそれと同時に疑問が湧く。

"国土の範囲内の全ての生命"…それはまさに蹂躙の限りを尽くす侵略軍も対象となるのではないかと。


永劫の果てに敵もまた再び同じように動き出してしまうのであれば意味が無い。


そう指摘すると王はゆっくりと頷き、懐から鎖の無い懐中時計のような物を取り出した。


手のひら程度の円盤状のそれは黄金色に輝き、その円の中でいくつもの時計が時計回りにも、反時計回りにも針を巡らせながら浮かんでは消えるようにして、いたずらに刻を刻んでいる。


"これは星時計と呼ばれる。廃刻の秘術を起動する為に作られた魔法具だ"


王はそう告げ、私に手渡した。


"それは秘術のスターターであり、術式の一部でもある。刻を廃するという究極にも等しい術式は一人の天才により作られたものであり、今では誰も全容を掴めぬほど極めて複雑かつ精緻なものだ。つまり、この星時計自体が壊されればそれを綻びとして術式もまた自壊する"


そこで王の言いたいことが理解出来た。

廃刻の秘術を止めるには二つの方法しかない。

一つは地中の魔素が尽きるのを待つこと。

もう一つはこの星時計を壊すことなのだと。


王は私の肩に手を起き、私の目を見つめた。


"デヴィッド。今話したようにこの星時計は廃刻の秘術と繋がりを持つ魔法具だ。つまりこれから"根"が吸い上げる膨大な魔素を引き出すことができる"


王の手に力が込められる。


"私は何が起きても国民を守れるように備えてきたつもりだ。だが此度の侵略者達には我々のなにひとつも通じなかった。魔法も、剣術もなにひとつもだ"


そして、手の震えを感じた。

王の目には、涙が浮かんでいた。

無辜の民を殺されることへの悔しさと悲しみ、無力感が入り混じった巨大な感情が私の心へと流れ込むようだった。


"奴らの力はこの世界のものではない、あらゆる書物にも記されていない、この世界の理を外れた埒外の力だ。それに対抗するには、同じく埒外の力をもって他にない"


"デヴィッド"


"お前はこの国においてあらゆる分野に通じ、あらゆる書物に目を通してきた最も思慮深き者だ。その見識、そして我が国の全てとも言える膨大な魔素をもって悪しき侵略者共を打ち倒す、異界の戦士をどうか、連れてきてほしい"


与えられた使命は再興を見据えるような悠長なものではない。それどころか存亡を賭けた最後の手段であった。

正直荷が重い、とは思った。一介の文官が担うようなものではないと、騎士長などもっとふさわしいタフな人間がやるべきではないかと。


だが王の手は震えている。眦には涙が浮かんでいる。

結局はそれが私に決意させることとなった。


「…出来ると、言い切れるだけの客観的な根拠はありません。何もかもが未知数ですから」


そもそも異界の戦士などどこにいるというのかも分からないのだ。

いたとして、価値観も異なるであろう異界の戦士がどうして死ぬかもしれない戦いに協力してくれるというのだ。


「ただそれでも、ここに。ここに、デヴィッド・リン・クライスタントは宣言しましょう」


そうして肩に置かれた王の手を取り、両手で固く握りしめるようにして告げた。


「必ずやお連れします。侵略者を打倒し、この国を救う英雄…異界の戦士を!」


その言葉に王は深くうなずいた。

そうして私は異界での助けとなる道具を託され、王の魔法により異界となる地…地球と呼ばれる惑星の、日本国は東京都立川市へと降り立つことになったわけである。



『長いよっ!』



…これから魔法少女との出会いの話に入るから、もう少しだけ付き合ってほしい。

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