仕事ができないと王宮を追放されましたが、実は豊穣の加護で王国の財政を回していた私。王国の破滅が残念でなりません
大舟
第1話
「ミリア、君は本当に使えないな…もうこれで何度目だ…」
「お、恐れながら陛下、それは陛下がそうするようにと…」
「なんだ?たかだか財政部長のお前が、国王たる私に口答えをするつもりか?」
「い、いえ…そのようなつもりは…」
「はぁ…もう良い。お前は見てくれも悪くないから、以前より側室の候補として婚約の手続きをさせていたが、それももう無しだ。問題ばかり起こすお前のような女は、この王宮には必要ない…。もう出ていくといい」
「…」
私が王国のためにどれだけ汗水を流してきたかなんて、この男には一生理解などできないだろう。…これまでにも国王陛下からは、このような理不尽な責めを受けることは何度もあった。そのたびに私は、この王国への愛国心とここでの仕事のやりがいを思い出し、それらをかてになんとか今日まで耐え忍んできた。…けれど、もう限界だ。陛下の言われる通り、ここを去ろう。
ともに働いてきた仲間たちには申し訳ないけれど、彼らにだって非はある。彼らは国王陛下の意向に、誰も一切”ノー”を言わないのだ。よって陛下の無理難題は毎回強引に進められ、そのたびに財政的問題から私が陛下にノーを告げ、結果的に私だけが陛下に攻撃されるのだ。…もう私には、王国への愛国心も、この仕事へのやりがいも、感じられなくなっていた。
そして私が王宮を離れるという話は、瞬く間に王宮の皆へと広がっていった。
「ミリアさん、ここを辞めるらしいわよ…」
「やっぱりな。あの能力で財政部長なんて、無理に決まってる…」
「あんなに問題ばかり起こす無能なのに、どうやって財政部長になったんだろうな?」
「彼女見てくれだけはいいから、やっぱり陛下と寝たんじゃない?(笑)」
「なるほど、それであそこまでの地位に上り詰めたわけか(笑)」
「それなのにここを追い出されるって、どんだけ無能なんだよ全く(笑)」
…仲間だと思っていたのは、私だけだったようだった。こういう状況になって初めて、自分の愚かさに気づかされる。いったい私は、何のためにここにいたんだろうか…?
「…もう、どうなってもいいか…」
ここを去るにあたり、私の中にはひとつだけ懸念点があった。…実は私には、豊穣の加護がついている。豊穣とは穀物の実りなどを指す言葉ではあるものの、この王宮においてはお金を実らせる能力として、大いに働いてくれた。…この豊穣の加護をもってしても陛下の無理難題には対応できなかったのだ。つまり私がここを去れば、王宮の財政は完全に破綻し、王国の崩壊すら招きかねない…それだけが私の懸念だった。それはすなわち、王宮の仲間の皆を路頭に迷わせることになるから…
…けれど、彼らの言葉を聞き、心は決まった。もはや彼らに慈悲など必要ない。自分たちで何とかして、無理ならそれまでだったという事。
「…長い間、お世話になりました…」
王宮の前に掲げられている王国旗に向かい、一礼する私。私はその足で、王宮を去った。
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