第34話
「いい加減姿を現したらどうですの!」
ガーメール大尉がイマジナリー強者と戦い始めて数分が経った。 ガーメール大尉の周囲を紅蓮に燃える盾が十個浮遊している。
彼女を守るように精製された炎の盾が、壁や床に触れないよう最新の注意を払って浮遊しており、見えない方向からの攻撃に最新の注意を払っている。
(一体何を考えていますの? あえて攻撃しやすいように一箇所だけ隙間を開けているというのに!)
眼球運動で部屋中に視線を送るガーメール大尉。
先ほどから近くにあるランタンを消して回っているため、ギミックの進展は一向に変わらない。 このギミックは動くのを面倒がって近くのランタンを点けてしまうと、永遠に同じパターンを繰り返してしまうからだ。
しかしガーメール大尉は見えない敵を危険視し、右の壁際から動いていない。 ランタンを消すたびに灯りが点いたり消えたりして、息を飲みながらそちらに視線を送り、敵がいないことを確認して額から汗を溢れさせる。 これの繰り返しだ。
(先ほどから、敵はランタンを消したり点けたりしているだけ。 わたくしに攻撃を仕掛けてくる気配がまったくない! これはおそらく、わたくしがこの部屋の仕掛けに気がついてしまったから! 相手がわたくしに気づかれないように消しているランタン。 おそらくこのランタンに秘密が隠されている?)
先ほどからずっと右前と右中央を往復しているため、点いたり消えたりするランプも同じ法則で点灯している。 ガーメール大尉は部屋中を注意深く観察し、額から溢れる汗が真っ白な肌に線を引く。
(いいや、落ち着くのですわわたくし! 左後ろのランタンだけは点灯したまま変化なし、だったらあそこには敵がいない。 重要度が低いから? そもそも、ランタンを点けたり消したりすることになんの理由があるのでしょうか?)
深読みしているようだがここには敵の存在などないため、ガーメール大尉はモグラの向いている方向のランタンを消すために思考を割くか、モグラの像自体を回転させることができる事実に気がつかなければならない。
だが、緊張の糸を張り巡らせながら周囲の様子を伺うガーメール大尉は、もはや看板に書かれていた暗号のことなど全く考えていない。
(ここまでランタンが点いたり消えたりしている場所を確認していましが、先ほどから決まった法則でランタンの灯が点滅している! 点いたり消えたりしているのは最大で四箇所。 おそらくわたくしの移動に合わせて相手も移動しているに違いありませんわ!)
「ネタが割れましたわよ! あなた方は四人で動いている! 気配を消すことにかけては一流ですが、おそらくわたくしのカウンターを警戒しているのでしょう?」
沈黙。
「いくら気配を消すことに長けていても、接近すれば流石のわたくしでも気が付きますわ! だからここでランタンを消したり点けたりしてこのわたくしを撹乱。 集中力が途切れたところに攻撃を仕掛けるつもりなのでしょう?」
もちろん沈黙。
「先ほどからわたくしの動きに合わせ、四箇所のランプを行ったり来たりしている。 ならば、わたくしが予想外の動きをしたのなら、あなた方はどう動くのかしら?」
ガーメール大尉は意を決し、全力ダッシュで右前のランタンから左中央のランタンの方へ走る。 現在点灯しているのは左右後ろと左右中央、左右前は消灯している。
魔法を床に触れさせるわけにはいかないため、自らの足でひたすらに駆けていくガーメール大尉。 先日正門で見せた運動神経の悪さを形にしたようなひどい走り方。 通称襟巻きトカゲダッシュ。
襟巻きトカゲダッシュで左中央に辿り着いたガーメール大尉は、スライディングしながらランタンの前に滑り込み、すかさず反転して周囲の様子を伺う。
自らの安全を確認し、ほーっと胸を撫で下ろすと。
(攻撃されなくてよかったですわ。 炎の盾で身を守っていたとはいえ、あそこまで隙だらけなのに攻撃してこないとは! まさか、攻撃を誘われてると勘違いしたのかしら? それともわたくしが突然違う行動をしたために動揺した?)
歓喜の瞬間は目前に迫っている。 ギミックの仕組みを知っている建築士くんたちは、今頃管制室で興奮しながら総立ちしていることであろう。
(なんにせよ、相手の予想に反する動きを繰り返していれば、ボロを出すのは時間の問題。 さて、根比べと行こうかしら?)
ガーメール大尉は鋭い視線を周囲に向けながら、戦いを楽しむ戦闘狂のように口角を吊り上げていた。 今頃管制室では、早く灯りを消さんかい! とでもツッコミを入れられていることだろう。
じっくりと周囲を警戒した状態で、背を向けていた左中央のランタン下部に取り付けられていたスイッチに手をかけた。 すると、
「んな! 一体何が起きたんですの!」
その瞬間、看板が貼り付けてあった壁が鈍い音を立てながら、ゆっくりと上にスライドしていった。
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