第25話

 試行錯誤の結果、どうやらどこかしらのランタンを消すと、消えているランタンが灯り、前後左右で隣接しているランタンが消えるらしい。


 つまり最初に左後ろのランタンを消した時、灯りが灯っていた右後ろのランタンは消え、消えていた左中央と右中央のランタンが灯り、次に消した左中央のランタンの時は、最初に消した左後ろと右後ろが灯って、隣接している左前と右中央が消えたのだ。


 この法則に気がつくまでに費やした時間は三十分だったが、そこからが地獄だった。


 三体のモグラが向いている方向のランタンを消すために、あらゆる手順でランタンを消すのだが、どうしてもうまい具合に消えてくれない。


 モグラの銅像が向いている方向を考えれば、消さなければいけないのは左右中央と左後ろ。 しかし何回やってもその三箇所がうまく消えてくれない。


 仕組みに気がついてからも黙々と色々なランタンを消し続け、部屋に入ってから三時間が経過した。


 もはや生気を帯びていない瞳で歩き回るファティマとマテウス中佐。 もはや考えて消そうなどと思っておらず、適当にランタンを消していればいつか当たりを引けるはず。 このように考えて、何も考えずひたすらランタンを消して回っているようだ。


 左後ろのランタンを消した途端、ファティマは頭をかきむしりながら悲鳴を上げた。


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ! もういいでしょう! 時間稼ぎが目的の罠だったとしたら! もう十分効力を発揮していることが分かりましたから! もうリタイアさせてくださぁぁぁぁぁい!」

「ファ、ファティマ殿! お気を確かに! お気を確かにぃぃぃぃぃ!」


 ヒステリックに叫び始めてしまったファティマに、必死に声を掛けるマテウス中佐だった。 この手のギミックは最初の挙動が大事であり、失敗したら即リセットしなければならないのだが、現実は甘くない。


 こうして無様にリタイアした二人を救出しにきたアミーナが、大泣きしながら腰に縋り付いてきたファティマの頭を撫でながら苦笑いを浮かべている。


「いやぁ~、今回も傑作だったね~」

「こんな罠! 人としてどうなんですか! 突破できるわけがないでしょう!」

「怪我しなかっただけいいじゃ~ん。 それに、本来足止めする予定なのはインテラル解放軍なんだから~、適当に作ったら街が陥落しちゃうでしょ~」


 アミーナが困ったように答えると、マテウス中佐は気難しそうな顔で唸りながら、


「それもそうですな、この簡易罠の安全性は身をもって知りました。 というか、簡易罠と呼んでもいいのでしょうか? 入り口の罠よりも凶悪な気がするのですが?」

「いやいや、入り口の方は大怪我するのが当たり前みたいな凶悪性だから、こっちと比べれば可愛い方でしょ~」

「いやいや、熱湯風呂は熱かったですし、ビリビリのドアノブはすごく痛かったですぞ? それに、ファティマ殿はあの重い扉に潰されかけておりました!」

「う~ん、マテウス中佐は入り口の罠に挑戦したことなかったからね~。 まあ、こっちの罠の性能を実証できたんだからいいとしようか~」


 アミーナは苦笑いしながら立ち上がり、ギャン泣きしているファティマをよいしょとおぶった。


 しかし、モグラの銅像をじっと見ていたマテウス中佐は、解せないといいたげな顔で座り込んだままだった。


「そんなことよりアミーナ殿、この扉はひどいですぞ、こんな複雑な仕組みでは、どう頑張っても開きません!」


 ギミックを解除途中のランタンやモグラの銅像を見ながら不満げに口を尖らせるマテウス中佐だったが、


「ああ、それね~。 君たちは難しく考えすぎなんだよ~」


 ファティマをおぶったまま銅像に近づいていくアミーナ。 何食わぬ顔で銅像に手をかけ、息をするような手つきで銅像を回転させる。


「……カァッ!」

「……ほぇ?」


 目をかっぴろげるファティマと、ポカンとしてしまうマテウス中佐。 アミーナはランタンがたまたま灯っていなかった方向にモグラの銅像を向けると、あっけなく奥の扉が開かれる。


「初めからランタンをいじんないで~、銅像の向きを変えればよかっただけだよ~」


 呆れ笑いを浮かべながら、放心状態のマテウス中佐に向きなおったアミーナだったが、おぶっていたファティマがこめかみの血管を浮き上がらせながら、


「この! 悪魔めぇぇぇぇぇ!」

「ちょ! 苦しい苦しい~! 首しべないでぅぇ~! キュワァ~~~ワワワワワ!」


 怒りの形相でアミーナの首にチョークを極めるファティマと、顔を青くしながらファティマの腕を何度もタップするアミーナだった。

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