第24話
「あんまりです…… こんなの! 卑怯ですぞ建築士殿ぉぉぉぉぉぉ!」
ずぶ濡れで這い上がってきたマテウス中佐の叫びが、部屋の中にこだまする。
既に部屋の隅で膝を抱えて戦意喪失しているファティマ。
「なんなんですこれ、なんで私がこんな目に遭わないといけないのですか」
闇堕ちしてしまったかのように、暗く濁った瞳で虚空を見上げながら呪いの言葉を吐くようにぼやくファティマ。
一方わんわん叫びながら何度も壁を叩くマテウス中佐だったが、壁を叩いた衝撃で、部屋の隅に立てかけられていた看板がバタンと倒れた。
すると、看板の裏に真っ黒な穴が出現する。 人一人くらいなら、屈んでいれば余裕で入れそうな穴だった。
目を点にしながらその穴を凝視する二人。 ファティマは『まさかな? そんなはずないよな?』とでもいいたそうな顔で看板を摘み上げ、書かれていた文字をよく見ると、
『本物の道を探して下さい』
「……マテウス中佐、この看板には、一言も『この三つのドアの中から』なんて書かれていないですけど?」
「え? あの、それは反則だと思うのですが、この光景を見てどう思うのです建築士殿?」
マテウス中佐はどこにあるのかわからない監視筒に語りかけているのだろう。
「これはさすがに道徳的にどう思うのです! 卑怯ですぞ建築士殿ぉぉぉぉぉぉ!」
地団駄を踏みながら部屋の天井や壁などに忙しなく視線を移し、ガミガミと文句を叫び続けるマテウス中佐。
しかしその様子を見て頭を抱えてしまうファティマ。
「ああもう、やかましいですよマテウス中佐。 とりあえず、正しい道を見つけたので先に進みましょうか」
半ば苛立ち気味のファティマの言葉を聞き、顔を真っ赤にしたマテウス中佐は看板の裏に隠されていた横穴に入っていった。
大人が屈んでギリギリ通れるような横穴を四つん這いで進む二人。
ここまででかかった時間はおよそ一時間。 ようやく第三関門にたどり着いた二人は目の前に広がっている光景を見て、口から魂が抜けてしまっているかのように口をあんぐり開けている。
「なんですかこれ」
「頭を使う系は、地味に辛いです」
部屋の大きさは第二関門の部屋よりも三倍くらい大きい、小さなホールのような大きさになっており、走り回るには十分なほどに広い。
部屋の中央にあるのは三体横並びに並んだモグラの銅像。 逆三角のサングラスと、丸型のサングラス、四角のサングラスをかけた三体のモグラ像の奥には、壁に取り付けられた大きな看板が目に映る。
『モグラの視力は光に弱い。 故にこの部屋の光からモグラを守らなければ、この部屋の扉は開かない』
謎の言葉を黙読した二人は、部屋を見渡す。 部屋には等間隔に置かれた六つのランタン。
「光というのは、ランタンのことですよね?」
「っていうかこの銅像、サングラスつけてるじゃないですか」
「そこはつっこんではいけないのでは?」
などと言葉を交わす二人だが、書いてある言葉の意味が全くわからない。 モグラの銅像はそれぞれあらぬ方向を向いている。
三角サングラスが右、丸型サングラスが左斜め後ろ、四角サングラスが左。 光っているランタンの位置は四隅、右後ろと右前、左後ろと左前。
「え? なんですかこれ? というかこの銅像、ナビア殿にそっくりではないですか?」
「十中八九、作ったのはお師匠様でしょう。 っというかそんなことはどうでもいいんです、これって単純にランタンを消せばいいんじゃないですか?」
そういいながらファティマが左後ろについていたランタンを消すと、
「おや?」
「……まじか」
左後ろのランタンを消した瞬間、右後ろのランタンも消えた。 それだけではなく、灯がついていなかった左中央と、右中央のランタンが灯ってしまった。 地面に八つ当たりするような歩調で左中央のランタンに向かい、有無を言わさず明かりを消す。
すると今度は、最初に消えたはずの左後ろと右後ろのランタンが灯り、左前と右中央のランタンが消えた。
「「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!」」
二人の悲痛の叫びが、部屋の中で反響した。
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