第18話

「建築士殿ぉぉぉぉぉぉ! 建築士殿はこちらですかぁぁぁぁぁ!」


 朝っぱらから響き渡るマテウス中佐の甲高い声が、町中に響き渡る。 研究室で四輪トロッコの車輪改造に明け暮れていた建築士くんたちは、その聞きなれた声を聞いて顔を見合わせて苦笑いを浮かべていた。


 研究室の扉が蹴破るように開かれると、肩で息をしたマテウス中佐がドアノブにもたれかかるようにしながら、


「建築士殿! 大変です!」

「ど~したのさ~、また正門にガーメール大尉が来ちゃったの~?」


 ゼーゼー息をしているマテウス中佐に、半ば呆れた視線を向けるアミーナだったが、


「インテラル解放軍が、投石機を取り寄せたようです!」

「「……え?」」


 ファティマとアミーナの呆然とした声が反響する。 作業中だった建築士くんの手はぴたりと止み、必死の形相で返事を待っていたマテウス中佐にゆっくりと視線を向ける。


「ちなみに、岩の大きさはどのくらいです?」

「管制室から見えた様子だと、おおよそ三百キロ以上の重さがあるかと……」


 マテウス中佐の額に玉の汗が滴り落ちるが、報告を聞いたファティマは呆れたように肩を窄めていた。


「三百? そんな重い岩では、物理的に飛ばせないですよ?」

「ファティマ殿、言いたいことはわかりますが、相手は魔族軍。 魔法が使えるのです!」

「だ、だったらなおのこと! こちらには鏡鉱石板があるんですから! 跳ね返して一丁上がりですよ!」


 無理に取り繕ったような声で返事をするファティマだったが、建築士くんは大きなため息と共に天井を見上げた。


「いや、無理っすよ? 流石に」

「……そん、な」


 建築士くんの諦めるような言葉を聞き、マテウス中佐だけでなくアミーナやファティマも、すがるような潤んだ視線を向けていたのだが、


「岩を飛ばす際の工程で魔法を使ってたとしても、こっちに飛んでくるのが普通の岩なら、それはもう物理攻撃っす。 鏡鉱石板は重さ三百を超える大岩が相手では、ガラスみたいに簡単に割れます」

「で、では! 何か対策を立てればどうにかできるのでは?」

「圧倒的な質量が相手だと、どんなに頑丈な建築物でもほぼ無意味。 火攻めの対策はしてたんですがね~。 岩を落とされたら地上には何も残らないでしょう。 潔く諦めましょう」

「そんな……ここまであらゆる攻勢に対応してきた建築士殿が、そんな簡単に諦めるなんて! らしくないではありませんか! 本当は何かしらの対策はしてあるのでしょう? そうなのでしょう!」


 怒鳴りながら建築士くんににじり寄り、肩を鷲掴みしてぶんぶんと揺らすマテウス中佐だったが、


「こればっかりは僕でもどうにもできないっす。 拡声器を使って村の人たちを家の中に避難させましょう」


 マテウス中佐は、涙を堪えながら膝をつくことしかできなかった。

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