インテラル解放軍の大逆襲

第14話

 早朝、寝ぼけ眼を擦りながら長い階段を登っていくマテウス中佐。 暗い場所に慣れていた瞳に朝方の眩しい日差しが突き刺さり、思わず自分の手をサンバイザーのようにして目を細める。


 外に出ると、珍しく街の住人が地上に集まっていた。 マテウス中佐は不思議そうに首を傾げながら人が集まっている場所へ足を向ける。


「失礼、これはなんの集まりでしょうか?」

「ああ! マテウス中佐じゃないですか! 私たちは建築士さんとアミーナちゃんのデザイナーズ建築が完成したと言う噂を聞きつけて集まったんです」

「……? デザイナーズ建築?」


 マテウス中佐はたまたま近くにいた村人に尋ねると、聞き慣れないワードに戸惑い始める。


 その様子を見た村人は苦笑いしながら前方を指さした。 マテウス中佐は村人が指し示した方角に視線を向けると……ようやく日差しに慣れてきた瞳に、目を疑うような建物が二つ映った。


「え? なんです、これ?」


 マテウス中佐が戸惑うのも仕方がない。 目の前にあったのは地面に刺さった巨大なトンカチと、大口を開けて地面から顔を出した巨大なモグラ。


 トンカチの方は全長十メーター近くあるだろう、モグラの方は三階建ての一軒家に近い大きさだ。 よく見るとモグラの方は逆三角形のサングラスをつけているため、ナビアにそっくりだ。


 驚愕するマテウス中佐の背後から、コツコツと地面を叩く足音が近づいていく。


「ここ最近、暇な時間を使って作ってたデザイナーズ建築ですよ」

「おや? 建築士殿ではありませんか! ご苦労様です。 それにしても、デザイナーズ建築とは一体何ですか?」


 突然背後から声をかけてきた建築士くんに、振り向きざまに思わず質問してしまうマテウス中佐。


「デザイナーズ建築っていうのは、僕みたいな建築士が設計した特殊設計の建物でして、外装や見た目にこだわった芸術品のような作品のことです。 僕がこだわったのはナビアさんに似せて作るという点でしたが、ここまでそっくりにできるとは思いませんでしたよ!」

「ああ、確かにナビア殿にそっくりですな。 しかし、こんな大きな建物を一体どうやって?」


 感心したように息を漏らすマテウス中佐。


「まあ、木材を使わずにこれを作るのは少し大変でしたが、土や石をうまく加工して資材不足をどうにかして作ったんです! 優秀なお手伝いの大工さんたちもいますからね!」


 にっこりと微笑む建築士くんの後ろでは、誇らしげな顔で力瘤を見せてくる建築士くんお抱えの大工たち、総勢二十名。


 背中越しに見せつけてきている力瘤は、もはや餅が膨らんでいるのかと錯覚してしまうほどに隆起している。 ちなみに、全員建築士くんの真似をしているのか、耳には炭を円筒状に固めて作った筆記具が引っ掛かっている。


「なるほど、大工の方々はこれを作っていたから夜勤以外で最近見かけなかったのですね?」

「そういうことですね」

「それでは、こちらの建物も建築士殿の作品なのでしょうか?」


 マテウス中佐が指を刺したのは、全長十メーターほどあるトンカチだ。 その佇まいは非常に不安定に見える。 巨人が投げたトンカチが地面に突き刺さったのではないか? そう思わせるほどの大きさと傾き加減。 角度的に傾いているのは七十度ほどだろう。


「それを作ったのはあたしたちだよ~」


 背後からかけられた声に、マテウス中佐と建築士くんが同時に振り向くと、ドヤ顔で腰に手を当てているアミーナが立っていた。


「アミーナ殿の作品ですか? しかし、アミーナ殿は建築士ではないはずですよ?」

「ここ最近、インテラル解放軍が静かになっちゃったでしょ~? だから~、建築士くんに設計図の書き方とか、建築の仕方を聞いてたんだ~」


 ガーメール大尉が城壁に貼り付き、よもや捕獲できるかと思ったが、ギリギリで逃げられてしまってから早二週間。 インテラル解放軍に目立った動きはなく、メルファ鉱山の住人たちは暇を持て余していた。


 そこでアミーナが考案したデザイナーズ建築選手権が開かれたのだ。 よりすごい建築物を作った方が勝ちで、負けたら勝った方の言うことを一つだけ聞く。


 アミーナは覚えたての建築技術で建築士くんに勝負を挑み、建築士くんが度肝を抜いてしまうような芸術的建築を生み出してしまったのだ。 手先が器用な鍛冶精霊の名前は伊達ではなかった。


 鼻の下を擦りながら「えっへん!」などと言ってしたり顔を見せてくるアミーナ。


「しかしこの建物、傾いていて怖いですぞ?」

「安全面に関してはあたしたちの補償付きだよ~。 一応物見櫓って名目で作ったから、マテウス中佐、てっぺんまで登ってみる~?」

「あの、確認しますけどテッペンとは、あそこの傾いている持ち手の先端でしょうか?」


 よくみると、トンカチの持ち手の先端。 建物的に一番高いところになるであろう部分には謎の柵がついている。


「だいじょ~ぶ~。 落っこちないように柵がちゃんと付いてるから~」

「いえいえ! そういう問題ではありません! 落っこちる落っこちない以前に、傾いて倒れたりしたら怖くてたまりませんぞ!」

「ちょっと~、もしかしてあたしたちの技術を疑ってるつもり~?」


 アミーナの後ろにゾロゾロと集まってくる少女たち。 アミーナお抱えの鍛冶精霊、総勢八名。


 側から見れば園児の集まりにしか見えない身長だが、鍛冶精霊たちは元々小柄なため、こう見えても全員成人している。


「あ、いえいえ。 別に疑ってなどいないのですが、精神的に安心しないといいますか、なんといいますか……」

「ぐだぐだ言ってないで登ってみなよ~。 ほらほら~」


 鍛冶精霊たちに引っ張られ、半ば強引に連れていかれるマテウス中佐。 引っ張られていく最中、マテウス中佐は「助けてください建築士殿~!」などと叫んでいたが、建築士くんはにっこりと笑いながら手を振ってあげたのだった。

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