ガーメール大尉、捕獲の危機
第8話
マテウス中佐が正門でやらかした五日後、ガーメール大尉は二度目の罠地獄攻略に成功した。 しかし魔法を使わずに正門を開けようとするガーメール大尉は、やはりというかなんというか、マテウス中佐と同じような手順で「ちくしょう! 力尽くでこじ開けないといけませんの? 魔族ともあろうこのわたくしが、腕力を行使することになるとは!」などとガミガミ文句を垂れながら門を押したり引いたり、はたまた蹴り飛ばしたりして一生懸命に開こうとしていた。 助走をつけて飛び蹴りしていた辺りもまさにデジャブだった。
管制室からその様子を伺っていたマテウス中佐は非常に居た堪れないのだろうか、ファティマやアミーナから向けられている視線を意図的に無視しながらガーメール大尉の様子を伺っていたのだが、ここまでくればこの次にとる行動は予想がついている。
案の定城壁に目をつけたガーメール大尉が城壁の前で助走をつけ始めたタイミングで、建築士くんたちが動き出す。
「よしよし! これは多分、第一捕虜を確保するチャンスですよ!」
「ついにこの時が来たね~、ほらほらマテウス中佐! そんなところでモジモジしてないで~、ガーメール大尉が壁に貼りついたら捕獲しに行くよ~」
アミーナや建築士くんを筆頭に、慌てた様子で管制室の棚に置いてあった荷物をカバンの中に放り込み始める。 その様子を不思議そうに見守るマテウス中佐。
「え? ガーメール大尉を捕まえるのですか? 彼女は灰燼公と言われるほど強力な魔族なので、兵士でもないあなた方が正面から戦ったところで勝てるわけが……」
「兵士のはずのマテウス中佐は、ついこの前兵士でもないお師匠様の仕掛けのせいで身動きひとつ取れなくなりましたよね?」
管制室に置いて合った手錠を見せつけながら下卑た笑みを浮かべるファティマ。
「その手錠は? 先日アミーナ殿と建築士殿が共同開発した魔封じの手枷?」
「これがあれば、ガーメール大尉は魔法を使えなくなる。 魔法が使えないガーメール大尉なんて、ただの小娘ですからね」
魔封じの手錠は無論鏡鉱石で作られている。 そのためこの手錠をかけられれば、魔法を使った瞬間自滅する運命しかない。
悪人面で「ニッシッシ!」っと笑い出すファティマを見て、マテウス中佐は瞳孔を開く。
そう、城壁に塗られていた瞬間接着液の恐ろしいところは、くっついた者が味方ではなく敵だった時、無抵抗で捕虜にされてしまうことだった。
先日、身をもって瞬間接着液の脅威を知ったマテウス中佐は改めてそのことに気がつき、ゾッとした顔で建築士くんたちに視線を送ると、
「ま、まさか! あの瞬間接着液は相手を捕獲するために? ということは、ついにこの包囲網を突破できる日が来るのですか?」
敵の大将であるガーメール大尉を捕らえることができれば、このメルファ鉱山を包囲しているインテラル解放軍の指揮は一気に崩れる。
それでなくてもインテラル解放軍は、この一ヶ月の間ずっと無慈悲の罠地獄を踏破するため血の涙を流しながらメルファ鉱山までの細い坂道を登っているのだ。 言うまでもなく全員満身創痍になっている。
ガーメール大尉を今日捕獲できれば、士気の下がったインテラル解放軍を退けることも難しくないかもしれない。 それはつまり、ここでガーメール大尉を捕らえれば、この戦いを終わらせることができるのと同義。
それを悟ったマテウス中佐は、湧き上がる興奮を抑えることができなかった。
「今日は終戦記念日になるのですね! 宴の準備をいたしましょう!」
「いや、それは気が早すぎるっす。 無事にガーメール大尉に魔封じの枷をはめてから準備してくださいね?」
正門に駆けていく建築士くんは額に汗をこぼしながら正論を並べていた。
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