第33話 要するに、こいつらは昔のパリピ

 第二王子、エルドゥアン・ヴィルケ・フィステール。


 彼は、激怒した。

 なぜなら、自分のパートナーとしてエスコートした女に、声をかけられたから。


(主催者である私が登場した直後で、招待者への挨拶も済んでいないのだぞ!?)


 メンツが丸潰れだ。


 第一王子の派閥の奴らは、ニヤニヤしている。


(許されることなら、すぐに爵位を剝奪して、嬲り殺しにしたい!)


 しかし、今は会場に現れたばかりで、貴族どころか、給仕の下っ端まで注目しているタイミングだ。


(兄のブリクサを出し抜けると思い、焦りすぎたか……)


 エルドゥアンは、観光業のような笑顔と違う、微妙に微笑んでいるっぽい感じで考える。


 第一王子、ブリクサ・ヴィルケ・フィステールは、脳筋だ。

 彼が国王になれば、政敵の自分は助からない。

 下手をすると、国王に即位した場で、本人に斬り捨てられる……。


 発想と行動が、ゴリラだ。


 いや、その表現は、森の賢者であるゴリラに失礼すぎる。


(裏切った芝居のスパイか? いや、あり得ない)


 私の派閥に潜り込み、情報を引き出すにしても、あまりにバカすぎる。


 ワイングラスを片手に持ったままのクルポルト・ヘンチュケ男爵は、片膝をついたまま。


 姫や高位貴族の令嬢に求婚する、騎士のごとし。


(そのまま、風車にでも突っ込んでいろ!)


 あまりにバカすぎて、その場の勢いで動いたとは考えず。


 第一王子がゴリラなら、この男爵は蚊柱をつくるユスリカみたいなものだ。


(こいつは第一王子の鉄砲玉で、私にミスをさせたいのだろう……)


 いえ、そいつは真面目にあなたの派閥に来たつもり。

 そのうち、あなたも始末する気ですが。


 ともあれ、すぐに対応しなければ、主催者として無能すぎる。


 エルドゥアンは改めて、アピールされた衣川きぬがわイリナを見た。


(驚いた顔……。後ろのメイド2人は、今にも倒れそうな顔だな?)


 常識的な反応だ。


(ここで私を困らせる理由はなく、共犯ではないか……)


 深呼吸をしたエルドゥアンは、愚かな男爵をたしなめようとする。


「ヘンチュケ男爵? 今は私が――」

「はい、よろしく」


 ほぼ求婚されたに等しいイリナが、膨らんだロングスカートのままで、笑顔に。


 それを見たエルドゥアンは、口を半開きに。


(この女は、兄の差し金か? だが、勇者召喚の情報は――)


 混乱するエルドゥアンに対して、イリナに受け入れられたクルポルトは歓喜する。


 立ち上がりつつ、まるで婚約が成立したかのように叫ぶ。


「おお! では、さっそく私を――」

「今はエルドゥアン殿下でんかのお話だから、下がっていてね?」


 笑顔のイリナがはっきり告げたことで、周りを含めて、納得した顔に。


 すかさず、エルドゥアンが口をはさむ。


「ヘンチュケ男爵? 交流は、私が紹介した後でお願いする」


 お前、自分がどれだけ非常識か、少しは自覚しろよ?


 言外にマナー違反をしたと教えるも、肝心のクルポルトはヘラヘラと笑いながら返す。


「分かりました……。では、お待ちしております」


 行くわけないだろう! と叫びたいエルドゥアンに対して、イリナが言う。


「うん、後で」


 エルドゥアンは、また口が半開きに。



 ◇



 ドレスを着たつつみ夏夜かやは、女子高生なのに胃が痛い。


 衣川イリナに仕えるメイドというていで、松永まつなが瑠香るかと後ろに控えているが――


(第二王子は、だいぶ混乱していますね?)


 エスコートしている第二王子がイリナを紹介していき、ついでに自分と瑠香も。


 貴族らしい受け答えだが、その表情と視線で、だいたい分かる。


 乱入してきたクルポルト・ヘンチュケ男爵は、第一王子の派閥のようだが、そのわりに第二王子と繋がっているようだ。


(でなければ、さっきも反応が鈍かったことに説明がつかない……)


 夏夜は、イリナが第二王子への嫌がらせでクルポルトに優しく対応したことも理解した。


 すると、2人の王子が向き合う場面へ。


 主催者である第二王子から、発言する。


「兄上! こちらが私のパートナーである、キヌガワ子爵です」

「……ご苦労だった。あとは、俺のほうで3人とも相手をしよう」


 明るく笑った第二王子が、第一王子に言い返す。


「兄上は、冗談も上手いのですな? 他にも挨拶がありますので、失礼!」


 あしらった第二王子は、優雅に会釈して、イリナの手をとった。


 

 ――控室


 適当な用事をつくり、第二王子と向き合った。


 ローテーブルだけが、この男を防ぐラインだ。


(帯剣した近衛騎士やメイドが、壁際にいますが……)


 緊張した堤夏夜は、心の中で嘆息した。


 本来なら、未婚のレディがいる部屋のドアを閉めない。

 貞操を保証できないからだ。


(であるのに、閉じた……。この男の派閥で、私たち3人を手籠めにする気と)


 秘密の話であることを踏まえても、あり得ない。


 こいつらの視点では、小なりでも貴族の正妻や、大貴族の愛人にするのは得がたい幸運なのだろう。


 女子3人が座った反対側にいる第二王子は、不機嫌そうだ。


「君にアピールした男は、気にするな! ディエヌス帝国としては、どうなのだ?」

「パーティーに出たよ? そっちも、約束を守ってくれない?」


 すねているような声だが、夏夜には衣川イリナの最終警告だと分かった。


 隣に座っている松永瑠香は、細かく震えつつ、アッと小さな声。


 イリナが怖いのは、遊びに行こう! ぐらいの感覚で人を殺せること。


 駆け引きを無視する点では、さっきの男爵と同じだ。

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