第29話 ハーレムパーティー(他に手を出したら死ぬ)

 困った俺は、研究所からの見張りであるクラスメイトにして、クラス召喚をしたイングリット・ド・アブリック辺境伯の手下である女子2人を見た。


「今のところ、お前らを害する気はないけど……。イングリットの部下である点は、どうするつもりだ?」


 頷いた衣川きぬがわイリナも、ジト目で突っ込む。


「そうね! いきなり、寝込みを襲われても……」


 うんざりした顔になった女子2人のうち、松永まつなが瑠香るかが話す。


「イングリット様の希望と、上手く擦り合わせができればいいなー!」

「そちらはスキルを封じられても気にしないと思いますが、こちらは死活問題です」


 クールなつつみ夏夜かやが、代わりに説明した。


(ふむ……)


 俺は考えたあとで、口を開いた。


「さっき、『皇帝が命じた』と言ったな? じゃあ、イングリットは俺か、俺たちを殺すしかないじゃん」


「うっうー!」

「そうですね……」


 あっさりと同意する、女子2人。


 アホの子だが、素直なようだ。


 腕を組んでいたイリナは、悩んだままで提案する。


「この2人がノースキルにされたら、ただのお荷物だし。とりあえず、イングリットと協力する方向で良くない? 話し合いでダメだったら、そのまま殺そう」

「いや、待ってください」


 夏夜のツッコミを無視して、イリナに返事をする。


「イングリットは、ノースキルと判明した俺に軍資金をくれたし……。そもそもの元凶だが、元の世界へ帰る手段を知っているのなら、他の貴族よりはマシだろう」


「フェアに交渉できるのなら、問答無用で潰すのはもったいないわね……」


 気に食わないけど、と付け加えたイリナ。


 今後は、どの街にも入れないだろうし、村もヤバい。

 となれば、水や食料を買えず。


 要するに、後ろ盾となる貴族、それも高位のやつが必要だ。


「よし! お前らに宿題を出すぞ? イングリットを説得して、俺たちと話す機会を作れ! 直接じゃないと、意味がない」


 困った表情の女子2人は、それでも応じる。


「オッケー!」

「私たちは、いったん帝国を出るしかないでしょう。その上で……」


 瑠香は、もはや条件反射だ。


 夏夜だけ、真面目に考えている。


 5分後に、夏夜が顔を上げた。


「条件をつけ加えても、いいですか?」

「何だ?」


 俺が答えたら、夏夜は恐る恐る、言う。


「イングリット様の勇者から、あなたの勇者にしてください。理由は、国外逃亡となれば、もうイングリット様を頼れないから! あなた方がこの世界で生きていくのなら当面は一緒ですし、戻ればお互いの生活になるだけ」


「そうか……」


 チラッと見れば、イリナは不機嫌そうだ。


 けれど、いつノースキルになるか不明な女子2人を抱えても、怖すぎる。


「要するに、お前ら2人の身元保証というか、身の安全を保障しろと?」


「できたら……」


 夏夜は、頷いた。


「イリナ? こいつらにメリットがない状態では、逆に信用できない! 4人で元の世界へ帰る方針で、イングリットと交渉しよう! 後のことは、それからで」


 しきりに頭の向きを変えていたイリナは、諦めたように息を吐いた。


「ヒト君に手を出したら、殺すから」


「おっけーまる!」

「邪魔をしないよう、気をつけます」


 というわけで、俺たちは4人パーティーになった。


 BGMを鳴らしてくれ。


「決まったのなら、動くだけだ! 今後は一蓮托生だから、名前で呼び合うぞ?」


「……そうね」

「わたし瑠香! 今後ともヨロシク」

「はい」



 ◇



 俺たちを召喚した、金髪ロングに翠眼の美少女は、いかにも高貴な服装で告げる。


「構いません……。夏夜と瑠香は、西坂にしざかさまにお譲りします。今の時点をもって、私の庇護はなくなりますよ? 出金だけではなく、私物も忘れないように」


 視線を向けられた松永瑠香と堤夏夜は、首肯する。


「はい!」

「お世話になりました」


 こちらを見たイングリット・ド・アブリック辺境伯は、息を吐いた。


「不思議ですか? たまに、あるんですよ。制御できない荒神のような存在を召喚することが……」


 これまでの経緯から、俺とイリナが殺しても死なないことも計算しているようだ。


「なので、私が望むことは1つだけ! ディエヌス帝国からの国外退去です」


「皇帝は、俺たちを殺せと言ったのでは?」


 微笑を浮かべたイングリットは、穏やかなまま。


「皇帝陛下は、この帝国を統べる御方……。であれば、その領土から消すことで命令を達成したのと同じ」


詭弁きべんだな?」


「心外ですね……。私たちで計れない存在を相手に、みなが幸せになる選択をしています」


 真面目な顔になったイングリットが、本音を告げる。


「あなたが私と領土を好き放題にしたいか、殺したいのであれば、タダではやられません! しかし、都市を包囲できるほどの軍勢を率いたトーニ・バルテル子爵があのザマになった以上、あなた方と自分から対立する気はございません」


 表立っては無理だが、辺境伯としての支援は可能だ。


 そう説明したイングリットは、息を吐く。


「こちらも、せっかく育てた勇者を減らしたくありません……。他の貴族に付け入られるだけ」


 思っていたよりもスムーズな交渉は、これで終わった。


「あなた方の帰還ですが……。帝国から即時退去をしてもらうので、その遺跡は使用できません。他の貴族が使っていることも多く、いずれにせよ今日、明日では無理! こちらに召喚できても、そちらの世界へ戻す前提ではないんですよ」


「……どうしろと?」


「私が知っている方法は、2つです。勇者を召喚する仕組みを作り上げた国へ行くか、未知のアーティファクトを頼るか……。元の世界へのルートなどの情報は、改めて教えます」

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