第25話 今、人々の心は1つになる!

 大都市シウディーダの外壁。

 野党や軍を防ぎ、モンスターを食い止める、まさに最後の砦だ。


 まだ、日が高い時刻。


 いきなりジャンプしてきた、つつみ夏夜かや松永まつなが瑠香るか


 驚く兵士たちは、イングリット・ド・アブリック辺境伯の名前を出されたことで、思わず固まる。


 すぐに内側へ飛び降りた、女子2人。


 どうするべきか? と悩む兵士たちの前に、今度は薄汚い男がジャンプしてきた。

 若く、見るからに貧乏な庶民。


 勢いづいた兵士の1人が、長槍を向けた。


「何者だ!」

「ヒヒヒ……。怪しい者だよ!」


 言うや否や、薄汚い男の姿が消えた。


 トーニ・バルテル子爵の直属である勇者、ネクロ。

 彼も、さっきの女子2人と同じく、高い外壁を飛び越えてきた。


 けれど、その様子を見ていたうえに高貴そうな雰囲気とファッションの女子2人とは違い、卑屈そのもので、どこから紛れ込んだか? も不明な男。


 仕事柄、このような浮浪者をあしらうことに慣れており、適当に追い出すつもりだった……。


 けれど、ネクロも勇者。


 風のように動きつつ、逆手で持つショートソードによって警告した兵士の首筋を薙ぎ、そのまま内側へ飛び降りた。


 首を斬られた兵士が、槍を下げつつ、反射的に傷口に手を当てる。


「くっ!?」

「大丈夫か?」


「あ、ああ……ガッ!」


 前屈みになった兵士は、獣のような雄たけびを上げつつ、顔を上げた。


 一瞬で死体のような肌色となり、金色の瞳で、その相手にかじりつく。


「ぐわああああああっ!」


 かじりつかれた首筋から鮮血をほとばしらせつつ、新たな生ける死体が完成する。


 周りが状況を把握する前に、動く死体による部隊ができあがった。


 彼らは肉体のリミッターが外れたのか、時速60kmのスピードで走り出し、外壁の上にいる兵士たちが同じ色に染まる。


 トーニ・バルテル子爵が『カバナシア』と呼んでいた、化け物。

 それこそが、彼らだ。


 ネクロは、バルテル子爵の直属である勇者。

 死霊術師クラスのLv5。


 それだけでは、ただのザコであるものの――


 彼には、傷をつけた者を死体の化け物に変えるスキルがある。

 鑑定したら【カバナシア】と表示されており、イジメていた他の勇者を攻撃したことで判明。


 忌み嫌われたが、自分を引き取ってくれたバルテル子爵に感謝している。


 召喚される前にもイジメられていた彼は、元々の名前を捨てた。


 クラス名の死霊術師であるネクロマンサーを呼びやすくした、ネクロと名乗っている。

 今となっては、本人も名前を憶えていないだろう。


 まだ低レベルであるのは、反乱を防ぎ、扱いやすくするため。

 いざという時に、始末するためでも……。


 自分の身を顧みず、攻撃することで増える化け物を生み出す。

 こちらの世界にゾンビという概念はなく、スキル名のカバナシアで統一されている。


 外壁の上にいるカバナシアの群れは、自由を求める集団のように、ズラリと横に並んだ。


 けれど、これから始まるのは前へ進むための探索ではない。


 両膝を曲げてバネを作ったカバナシアは、生身の人間にあるまじき跳躍力を見せて、シウディーダの各所に落ちていく。


 技術も何もない着地は、その音と衝撃だけで死んだと分かるほど。


 しかし、驚いた周りが見守る中で、カバナシアがむくりと起き上がる。


 そこからは、ネズミ算式で増えていく……。



 大都市を循環している鉄道。


 高速で走っていた車両のドアが開かれ、中に乗っていた乗客のカバナシアたちがばら撒かれていく。


 海外の新聞配達が、戸建ての前にある庭の芝生へポンッと置くように。

 あるいは、適当な置き配。


 傍で見る分には、もはやギャグでしかない。


 外壁にぐるりと囲われたシウディーダは、たった今、カバナシアたちを閉じ込めるための檻に変わった。



 ◇



 俺は、食べようとした焼き鳥にかじりついた男を殴りつけた。


 その男は金色の瞳で、こちらを見てくる。


 死体と変わらない肌色に、自分の力を封じ込める意味での新たな武器、ロングソードを呼び出して、斬りつけた。


 両手で振り切ったまま、周囲を見れば――


「お前ら……」


 同じように金色の輝きと、墓地に埋まっていそうな肌に囲まれていた。


『アァアアアッ!』

『オアアアアアッ!』


 一斉に襲い掛かってきたので、ロングソードで横に薙ぐ。


 動きは速いが、あっさりと吹っ飛んだ。


 痛みを感じずに立ち上がった連中を見て、思わず顔をしかめる。


「そんなに、焼き鳥を食べたいのか!?」

「いや、違うって!」


 すぐに突っ込んだ衣川きぬがわイリナは、紫色に発光する大剣アルキュミアを両手で構え直し、くるりと回転しながら突進してきた奴を張り倒した。


 ロングソードのつかを握り直しつつ、改めて言う。


「また、スキルか?」

「うん! たぶんね!」


 イリナと話す間に、結論を出した。


「しょうがない……。こちらも物量で対抗するか?」

「え゛!?」


 俺が片手を振ると、目が光っているゾンビ人間に大量のキノコが生えてきた。


 カチカチと独特な音を立てつつ、ゾンビ人間たちに襲い掛かる。


 さあ、祭りの始まりだ!


「しばらく、キノコ食べられないよぉ……」


 イリナの苦情は、無視した。

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