第18話 真実を知った人間から死んでいく

 俺は、残骸になったハンドライフルを投げ捨てた。


 握る部分のグリップだけでは、意味がない。


 ボトボトと落ちたパーツは、下が剥き出しの地面であることから、あまり響かず。


 その時に、メイドと戦っていた衣川きぬがわイリナも駆け付けた。


「ごめん! 遅れた!」


 敵である男女2人を見たまま、答える。


「銃を壊されたから、そのまま戦うぞ?」

「え゛!?」


 暗闇の中に、イリナの間抜けな声が響いた。


「いや、面倒だし――」


 次の瞬間、えぐれるような感覚で、意識が途切れた。



 ◇



 空間ごと、キューブのように抉った。


 布立ぬのだて峰茂呂みねもろの必勝パターン。


 殺し合いをしている最中に、2人で話していたうちの馬鹿を。


 西坂にしざか一司ひとしは、見えない何かで削ったように、その体を丸ごと消した。


 それを見届け、手応えのあった峰茂呂が叫ぶ。


「やった! 衣川さん? ショックだろうけど、あいつはクラスの裏切り者だ! 力を持ちながら、魔導大戦から逃げ出した! おそらく、スキルを隠蔽する手段を持っていたのだろうが……」


 暗闇に立ち尽くしているイリナは、呆然としたまま。


 それを見たランティーヌ・ディアは、まだ警戒を解かない。


(さっきバラバラにした後で、どうなったのか……)


 相手の正体も、復活した方法も分からない。


 幻覚か、ただの超回復であれば、今の攻撃で終わったはず。


「キヌガワ様? ご覧の通り、ニシザカ様は死にました! 私は申し上げましたよ? ヌノダテ子爵のスキルには勝てないと」


 紫に光る大剣を再び地面に突き刺したイリナは、遠巻きにしていたモブの群れがじりじりと包囲網を狭めてきたことを牽制しつつ、ランティーヌを見た。


「ハ――ッ! 分かっていない。あなた達は、ヒト君のことを何にも分かっていない!」


 冷や汗をかいたランティーヌは、仕草で襲いかかろうとした味方を止めた。


 並行して、情報を引き出す。


「なら、どういう意味で? どう見ても、彼は死んでおりますが?」


 ランティーヌが改めて西坂一司がいた場所を見るも、やはり消えたままだ。

 いくら夜でも、変化があれば気づく。


 それに対して、イリナが答える。


が、そもそも間違っているの! ところで、布立くん?」


「な、何だい、衣川さん!?」


 いきなり話を振られたことで、上擦った声の峰茂呂。


 けれど、イリナは思わぬ質問をする。


「もし、いきなり別の世界に迷い込んだら、どうする?」


「この世界で、俺たちは力を――」

「それは、どうでもいい! 『元の世界に帰りたい』という問題よ?」


 呼吸を整えた峰茂呂が、真面目に答える。


「元の世界に繋がっている場所か、方法を探すさ!」


「ヒト君は、中学生だった。それも1人だけで……。無理だったの」


 首をひねった峰茂呂は、矛盾に気づいた。


「西坂のことか? けれど、奴はさっきまでいたじゃないか!?」


「だから、『前提が違っている』と言っているの」


 らちが明かない会話に、峰茂呂は苛立った。


「いい加減にしてくれ! あいつはもう死んだ! 『まだ生きている』と信じたい気持ちは分かるが――」

「もう1つ、帰る方法があるから」


 人差し指を立てたイリナは、にっこりと笑った。


「発想を変えれば、いいんだよ?」


 暗がりに立つ美少女は、建物に隠れている連中からも注目されたまま、きっぱりと告げる。


「その世界を丸ごと吸収すればいい!」


 …………


 まさか。


 でも、それならば……。


 ――暗闇に覆われたダイザ村


 ――いきなり魔神や軍勢が現れたフダッシュの町


 そして、イリナとの戦いに、会話。


 彼女の戦い方は剣士だった。

 与えられたスキルは、魔法だったはず。

 奥の手があったのなら、出し惜しみする理由もない。 


 ああ、違う!


 逆だ!


 これまでの異変を起こしたのは、キヌガワ様ではなく、ニシザカ様のほうだ!!


 鑑定できない次元で力を持っていたのなら、ノースキルと見なされるだろう。


「あの女……。何て存在を呼び寄せたんですか」


 ランティーヌは、東羽とうは高校からクラス召喚をしたイングリットを心の底から憎んだ。


 今からでも、その女に押しつけてやりたいが――


「衣川さん! 訳の分からないことを言わないでくれ!」


 肝心の峰茂呂が、コレだ。


(もう、助かりませんね?)


 自分の予想が正しければ、殺して死ぬ相手ではない。


 幸か不幸か、人の形をしたナニカについて情報を揃えたのは、自分だけ。

 国に尽くすのなら、峰茂呂を見捨てて、今すぐ1人で逃げるべき。


 けれど、それは選ばない。


 深呼吸をしたランティーヌは、心の中でディア男爵家にいる家族や親しかった友人に別れを告げる。


 このような役目についている以上、いつ死んでもおかしくない。


 だが、その時間を与えられたのだ。


 目を閉じていたランティーヌは、ゆっくりと開ける。


 そこには、自分の主人である峰茂呂と、向き合っているイリナの噛み合わないやり取りがあるだけ。


(最後に残念なのは……)


 果たして、彼は自分が死んだことを悲しんでくれるだろうか?


 それを確かめられないことだ。


 おそらく、死体も残らない。


 足を動かしたランティーヌは両手の指を広げ、【糸繰り】のスキルを準備する。

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