第16話 言葉は通じるが会話になっていない
「どういうことだ? お前は……」
地元の連中が逃げた市街地に、
混乱しているようだ。
奴に仕えているメイドと、壁を作っている取り巻きたちは、ジッと待つ。
メイド服を着たランティーヌ・ディアは、俺を見て、暗やみでも分かるほどの青い顔。
(ま、死人を見ているようなものだしな?)
しかし、このままでは話が進まない。
「イリナ?」
「んー! どうしようか?」
地面に突き刺していたアルキュミアを引っこ抜き、両手で握るも、しきりに首をひねる
ここで、ランティーヌが叫ぶ。
「ニシザカ様! キヌガワ様は、私があなたを殺し損ねたと聞いて『まだ死なないのか』と嘆いておられましたよ?」
はいはい。
俺が予想外に手強い……というか、殺しても死なず。
イリナとぶつけることで、手の内を知りたいわけか。
敵対すれば、あいつは峰茂呂へ転がり込むだろう。
俺をバラバラにしたはずなのに、生きている。
切った足首すら、元通り。
幻覚を見せたか、五感を操作したのか?
時間を巻き戻した?
異常なまでの治癒スキル?
あるいは、双子か、誰かが姿を変えているだけ?
俺と戦ったばかりのランティーヌの考えが、手に取るように分かる。
そろそろ、答えてやるか……。
「ああ、よく知っている! いつものことだ! ……不思議か?」
声にならない、舌打ち。
普段は感情を表に出さないであろうランティーヌは、暗やみでも分かるほどに焦っていた。
自分の【糸繰り】スキルに、絶対の自信を持っているからだろう。
その時に、峰茂呂の声。
「お前……。ひょっとして、アンデッドか!?」
ふーん。
このメイドが嘘をついていたとは、思わないか。
峰茂呂の宣言に、周りが殺気立つ。
「ホーリージャベリン!」
光る槍が飛んできて、俺を突き刺した。
数は……4つ。
今、5つになった。
「やれやれ……。どこの蛮族だか知らんが、ずいぶんと物騒な挨拶だ」
手でつかみ、1本ずつ引き抜く。
焼ける手の平に構わず、どんどん地面に投げ捨てた。
「で? まだ、アンデッドだと? 今の攻撃は悪くない。残機が3つは減ったか」
攻撃した僧侶は、呆然としたまま。
よほど、自信があったらしい。
いっぽう、峰茂呂が詰問してくる。
「本当に、
「
俺の独白に、峰茂呂は黙った。
続けて、話す。
「なあ、布立? 俺の何を知っている? 元の世界を含めて、これが挨拶と連絡事項を除き、初めての会話だと思うが」
沈黙するも、こちらを睨む峰茂呂。
それを見たまま、結論を言う。
「今だから言うが、俺はとある研究所に幽閉されていてな?」
「確か……。中学にいた時に半年ぐらい、行方不明だったか。どこにいた!?」
答えてやる義理はないが、端的に言う。
「つまらない場所さ! 1つ教えてやると、それが原因で閉じ込められていた」
「うちに通っていただろ!? すぐにバレる嘘をつくな!」
首を振った峰茂呂は、イリナのほうを見る。
「衣川さん! こいつは殺しても死なない化け物だ! 俺たちは魔導大戦で命を預けていた戦友だろう? 信用してくれ! 上位の勇者2人が力を合わせれば、こいつを一時的に無力化するぐらいは――」
「え? 何を言っているの?」
心の底から、理解できない、と感じられる声音。
首をかしげたイリナに、峰茂呂が口説く。
「西坂は、おそらく魔神だ! あるいは、今の味方では倒せないレベルの魔物……。とにかく、いずれは君の願いである、こいつの殺害を――」
「ヒト君を悪く言わないで!」
顔をゆがませた峰茂呂に、女としての直感でか、ランティーヌが割り込む。
「ヌノダテ子爵! ここは
いい判断だ。
このメイドが殺しに来たものの、今は俺たちに敵意がない。
会話ができるうちに仕切り直して、良い手札に交換すればいい。
けれど――
「衣川さん! 君も来るんだ!」
「……ふざけないで」
イリナの声が、低くなった。
しつこい峰茂呂に対して、大剣のアルキュミアを構える。
ランティーヌが峰茂呂の前に入り、イリナと向き合ったままで叫ぶ。
「キヌガワ様とは、また機会があります! ニシザカ様を倒せない以上、もう限界です!!」
俺の正体、それに弱点を突き止めないと、勝ち目がないよな?
けれど、峰茂呂は諦めない。
「衣川さん!」
「いい加減にして……。その恋人を連れて、どこにでも行きなさいよ?」
「ランは関係ない! 誤解しないでくれ!」
言われたメイドは、何かに耐える表情に。
その背中を見ている峰茂呂は、それに気づかず。
(こいつ、愛称で呼びながら全否定したぞ?)
ランティーヌの独白によれば、この2人は日常的に関係を持っているようだ。
(いくら主従でも、ナチュラルに酷いな……)
イリナを見ると、やはりドン引きだ。
いっぽう、峰茂呂が決断する。
「ラン! ヌノダテ子爵、ならびに魔神退治の勇者として命じる! 西坂を殺すぞ!!」
「……はい」
ランティーヌが両足のポジションを変えつつ、独特の構えに。
ともあれ、これで会話は終わりだ。
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