第13話 俺と契約して勝ち分を支払ってよ!

 俺たちは、キュベウテという街にいた。

 これまで短期滞在をした町に比べて大きい。


 別に、魔法少女への勧誘はしていないぞ?


 ともあれ、この町はカジノがあるぐらいには、人と物の行き来があるのだ。



「お客様……。それ以上の発言は、当カジノの信頼を損ないますので」


 言外で、すぐに黙らないと、お前を始末するぞ? と警告されたのは――


「いい加減にして! そっちがカードをすり替えたんでしょ!?」


 連れの衣川きぬがわイリナが、大声で叫んでいる。


 どうやら、参加しているカードゲームで、イカサマをされたようだ。


 椅子から立ち上がって喚き続けるイリナを後目に、俺は両手で抱えている箱から零れんばかりのコインの山を運ぶ。


(カードなんて、ディーラーのやりたい放題だろ……)


 一部の客もグルなら、もはや無敵だ。

 確率論で、続ければ続けるほどに必ずプレイヤーが損をするゲームも。


 であるのに、客のほうはカードを数えるだけでイカサマの扱い。


 だから、俺は――


(スロットの目押し。これに限る!)


 2回も通用しないだろうが、このまま勝ち逃げする。


(イリナと違って、俺は大人だ。カジノと真正面から争うなど……)


 この手のカジノは、行政と裏稼業の2つと繋がっている。

 なぜなら、綺麗事だけでは済まないから。


 わざわざ、そんな相手と戦う必要はない。



 取引所のカウンターに箱を置き、換金を依頼した。


 近くのベンチに座り、バニーガールが持っているトレイからグラスを受け取った。


(優雅だ)


 イリナはまだ叫んでいて、ゴツい黒服の兄さん達が集まってきた。


(俺は勝ち分をもらったら、街を出るとするか……)


 勝利の美酒だ。


 何と、美味いことか――


「あの、お客様?」


 ようやく換金が終わったか?


「も、申し訳ありませんが……。先ほどのコインは、換金できないことに……」


 引きつった顔をした女の後ろには、さっきの黒服がズラリと。


 ついでに――


「聞いてよ、ヒト君! こいつら、酷いんだよ!!」


 あのさあ……。


 お前……。


「ヒト君も、何か言ってよ!」


 せめて、俺の換金が終わるまで……。


 その時に、女の事務員とイリナを背後から押しのけて、黒服の1人が歩み出た。


「そういう事だ! 小娘を連れて、今すぐに出ていけ。さもなければ……」

 

 わざとらしく、自分の拳をもう片方の手の平に当てた男は――


 低く、重い発砲音の直後に、頭が弾け飛んだ。


 俺は片手で握っているコンテンダーを折り、すぐに次の弾丸を差し込み、戻す。


「相変わらず、片手用の重さじゃないな、これは……」


 仮置きしていたグラスを片手で床に叩きつければ、二度と戻らぬ証でパリンと割れる。


 ほぼ同時に、頭を失った黒服がドサリと倒れた。


 片手にハンドライフルを握ったまま、立ち上がる。


「アルキュミアを使え! 俺たちの勝ち分はもらっていく!」

「そうこなくっちゃ!」


 嬉しそうに応じたイリナは、紫に光る黒い大剣を引っ張り出した。


 ヒュオッと振れば、それだけで周りの黒服が上下に分かれる。


 説明に来た女の事務員も巻き込まれたが、悪いのはイカサマをしたカジノだ。

 そっちを恨め。


「キャァアアッ!」

「に、逃げろおおおっ!」


 遊んでいた客と、従業員の一部が逃げていく。


 まさに、大混乱だ。


 押し潰されている人間もいるが、まあ頑張れ。



「すっぞ、ごらあああっ!」

「生きて帰れると――」


 ダアンッ!


 特に照準をつけないままの発砲で、押し寄せていた用心棒たちが口から血を吐いた。


 苦しみながら、それぞれに倒れ込む。


 空薬莢を抜き出し、新しい弾丸を差し込む。


 折った銃身を戻す。


 倒れ伏した、もうすぐ死ぬ奴の1人がうめく。


「な、何で……」


(衝撃波は、どれだけ防護を固めていても無意味だぞ?)


 それでも、耐えられるスキルを持った奴が襲いかかってきて――


 イリナの大剣に斬られた。


 事務所からの金庫へ行き、そちらも活き活きしたイリナが切り裂く。


 全てを別の空間に収納した後で、すぐに外へ。



「大勝ちしたし、別の店で仕切り直すか?」

「おー!」


 騒ぎになっているカジノの周辺に構わず、俺たちは優雅にコース料理。


『キャーッ!』

『探せ!』


「外は騒がしいな……」

「美味しい!」


 グラスを傾けてから、説明する。


「仕方ない。今夜のうちに、キュベウテを出るか」

「そうだね!」



 大混乱の通りを逆行して、外壁へ。


 途中で、こちらを見る視線に気づき、それを切る。


「気づかれたか……」

「たぶん、勇者の誰か」


 いよいよ、俺が不在だった魔導大戦で活躍した元クラスメイトと再会か。


 しかし、近くの建物の屋上に立つ人影。


 次の瞬間、それはスカートを膨らませつつ、飛び降りてきた。


 俺とイリナは、それぞれに違う方向へ飛びながら、煌めいた線も避ける。


 乱入したのは、1人のメイドだった。


 線が走った先で、その通りに崩れていく建物の壁。


「さすがに、この程度では倒せないと……」


 短めのボブにした黒髪と青い瞳が、俺とイリナを交互に見た。


「カジノで暴れたのは、あなた方で間違いありませんね?」


 言いながらも、細い指であやとりをするような構え。


 糸というより、細いワイヤーのような物体を操るか、生成するスキルって感じだな?

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