第12話 BSSだけど女を抱きまくりの勇者

「ぐうわああっ!」


 黒い液体を浴びせられた男が、断末魔を上げた。


 残った面々は、絶望的な表情だが、諦めず。


「フダッシュの町が魔神どもの巣になっていたとはな!」

「魔導大戦が終わったばかりで……」


 イメージしたことで、魔神のお代わりが具現化された。


 真実を伝える者が死に絶えるか発狂して、想像すれば現実になるとは夢にも思わず。


 イングリットによる調査隊は、質と量が揃った敵に、全滅寸前だ。


「やれやれ……。こんな事なら、美味い物をはち切れるほど食って、美女を4、5人いっぺんに抱いておけば良かった」


 言いながらも、その男は戦意を失っていない。


 顔の前に上げた、逆手のダガー。

 それを握っている指を動かし、握力を戻す。


 お互いに背中を預けつつ、自然と円陣を組み――


「退路を作る! そこを走れ!!」


 若い男の声が響いた。


 次の瞬間、見えないキューブで圧し潰されるように、ガンガンと空白ができていく。


 それは、フダッシュの外への直線。


 先遣隊に、希望の光が戻った。


「終わらせる者か!」

「助かった……」

「ふうっ! おせーんだよ」


 口々に言いながらも、懸命に走る。



 この世の地獄となった町、フダッシュから脱して、肩で息する面々。


 東羽とうは高等学校から召喚された勇者の1人、布立ぬのだて峰茂呂みねもろは、彼らを見た。


「偵察、ご苦労! ダイザ村のほうを優先していてね? 遅くなった……」


 偉そうな態度だが、年配者もいる先遣隊は、悪態をつかない。


「終わらせる者の異名を持つヌノダテ子爵が来てくれたんなら、百人力でさあ!」

「先遣隊は、俺たちだけです。後は……」


 頷いた峰茂呂は、魔神やゾンビなどが暴れるフダッシュを見た。


「ここも、ダメだな……」


 片手を振れば、町を包み込むほどの透明なキューブが出た。


 一瞬で、空間が塗り潰された。


 建物、人、花、その他の諸々も……。


「終わりだ」


 街ごと潰されたことで、想像したら具現化する現象は収まった。


 たまたま回避した超越者も、空間ごと抉られ、訳も分からずに死んでいく。



 ◇



「あなた方は、このまま本隊へ戻って報告を! 俺は、衣川きぬがわさんと会ってみますので」


「へい! お気をつけて」

「失礼します」

「あんたがいれば、心配いらんな!」


 ボロボロになった先遣隊は、立ち去った。


 わずかな従者と残った布立峰茂呂は、息を吐く。


(衣川さん……)


 峰茂呂は、元の世界にいた頃から衣川イリナが好きだった。

 けれど、彼女は西坂にしざか一司ひとしにベッタリで……。


(このディエヌス帝国に召喚され、結界師としてレベル60)


 お互いに命を預けての魔導大戦が終わり、ノースキルで行方をくらました一司のことは忘れて――


 それなのに、ようやく激戦が終わったと思えば、彼女は姿を消した。

 帝都での戦勝パレードにも参加せず。


(ようやく、衣川さんに認められる男になったのに……)


 高嶺の花で、他のクラスメイトだった勇者や、次期皇帝と目される上位貴族のアプローチも相手にしなかった女子。


(大丈夫だ! イングリット様に嘆願して、衣川さんとの仲を……)


「ヌノダテ子爵? そろそろ、移動されては」


「あ、ああ! そうだな!」


(報告では、西坂と一緒にいたとか……。ハハ、そんなまさか!)


 ともあれ、イリナを見つけなければ、話が先に進まない。


 監視も兼ねているメイドが、話しかけてくる。


「キヌガワ様は、何かしら事情をご存じでしょう」

「そ、そうだな……」


 分かりやすく動揺する峰茂呂に、メイドは目を逸らす。


 歩き続ける彼は、命懸けの激戦に伴っての発散に、イリナと似た少女を指名していた。

 話していたメイドとも、定期的な関係がある。


 彼女にしてみれば、この上なく分かりやすい男子という評価だ。


(問題は、キヌガワ様がこれらの現象を起こしていたうえ、反逆した場合……)


 彼女にしてみれば、これほどのスキルを持つのなら、村の1つや2つを捨ててでも取り込みたい存在だ。


 敵対した場合に、峰茂呂がどう出るのか?


(最悪は、反逆したキヌガワ様への同調ですね)


 仕込まれた技やスキルでそれなりに喜ばせ、気に入られていると思うが、キヌガワへの恋慕は特別のようだ。


(今まで、似た少女をどんどん抱いておきながら……)


 メイドにしてみれば、全く理解できない。


(まだ、俺様のものにしてやるぜ! ガハハ! と言うほうが、納得できます。何を今さら、センチメンタルに)


 しかし、メイドの頭にも、一司がやったという発想がない。


 峰茂呂のスキルは空間の塗り潰しで、こうやって単独行動のほうが良策。

 その縛りとして、メイドが女の役割を果たす。


 他にも護衛はいるが、雑用係に近い。


 偵察する人間が先行して、その情報を基に、向かっていく。


 少人数でスキル持ちばかり。

 先遣隊よりも早く、一司たちと遭遇することに。


 いよいよ、この異世界に召喚された勇者、元高校生たちの戦闘に入る。


 BSSにしてヤリチンだけど、ナイーブな男子高校生で、チート持ち。


 妙な肩書になった峰茂呂は、ストーカーのように、衣川イリナを追う。

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