第11話 万能ヒト型による贈り物とその結末

 ジャコロ・バルビニ男爵は、目に前にいる男女を見た。

 どちらも根なし草の冒険者で、片方は魔導大戦を生き延びた勇者のようだ。


 そのわりに、冒険者ギルドの情報では、女のほうもランクE。

 衣川きぬがわイリナという女は高レベルのウィザードとあったが……。


 そういった強者に特有のオーラ、雰囲気がない。


(どうせ、他の勇者にくっついてのパワーレベリングだろう)


 強力な魔法を使えても、自分で戦えないのでは、たいした脅威にあらず。


「領主に逆らう意味……。分かっていないようだな?」

「アウルムゴーレムは、お前のせまい領地じゃなく、別の場所で狩った。理解できたか?」


 西坂にしざか一司ひとしは、相手の返事を待たずに、背を向けた。

 それに続く、イリナ。


 執務室のドアの付近で立つ兵士が、慌てて剣を抜いた。


 イリナも、空手のような構えに。


 すると、何を思ったのか、一司がバルビニ男爵のほうに向き直り、執務机のほうまで……。


(何をする気だ?)


 内心でビビったものの、威厳を示すために平然と待つ。


 ところが、奴がすくうような形の両手から、ジャラジャラと金貨が湧き出てきた。


「は?」

「え?」

「な、何だ?」


 執務机の上に、光る山。


 それに見惚れていると――


「たった今から、この町ではが手に入るぞ? 良かったな」


「うわー! ヒト君、これをやっちゃうの!?」


 辟易したイリナの声。


 その男女は、自分でドアを開け、執務室から出ていく。


 我に返ったバルビニ男爵が、2人の拘束を命じようとするも――


「本当だ!?」


 見れば、兵士の1人が、同じように抱えきれないほどの金貨の山。


 どんどん床に落ちており、それだけで平民が一生で稼ぐ財を凌ぐほど。


(その日暮らしの冒険者など、後日にギルドへ問い合わせればいい)


 割り切ったバルビニ男爵は、すぐに出現させた物の提供と、無断での使用を禁じた。


(これは、千載一遇のチャンスかもしれん!)


 上手く利用すれば、爵位どころか、この場所からディエヌス帝国を支配できるやも……。



 ◇



「よりによって、あれを選ぶなんて……」


 街から逃げ出して、ようやく息を吐いた衣川イリナ。


 それを見た俺は、彼女に催促する。


「じゃ、魔法でよろしく! 恐怖心をあおる奴で」


「ハーイ……」


 振り返ったイリナは、フダッシュの町の近くに、多くの魔神の幻影を作り出し、一斉に叫ばせた。


 数分も経たずに、その幻は消え失せる。


「ハアッ……。もう、この辺には近づきたくなーい!」


 愚痴をこぼしたイリナは、俺より早く歩き出した。


 少しでも遠くへ。


 肩をすくめた俺も、その背中を追う。



 ◇



 大慌てで、関係各所に伝令を走らせていたバルビニ男爵は、凄まじい叫びに驚いて、作成したリストから目を離した。


「何事だ!?」


「た、多数の魔神が、町の近くにいます!」


 けれど、すぐに避難と、戦闘態勢をとらせる間もなく、それらは消え失せたとの報告。


「幻影……。さっきの奴らの嫌がらせか? 次に会ったら――」

『うわあああああっ!?』


 外から、野太い叫び。


 息を吐いたバルビニ男爵は、もう魔神はいないと伝えろと、言い捨てる。


 けれど――


 館の外壁ごと、巨大な魔神の持つソードで切り裂かれた。


 轟音と土埃が収まれば、屋根よりも高い位置から、ニヤリとした顔。


 下半身は巨大な馬だ。


「バ、バカな! げ、幻影だと……」


 まだ戦う意志がある騎士が、ソードを構えて、周囲に叫ぶ。


「お下がりください、男爵! 注意しろ、暗い部分には――」

 

 次の瞬間に、その騎士の影が、槍のように突き刺した。


 串刺しの騎士は、ダランと両手を下げる。


 それを見ていたバルビニ男爵が、閃いた。


(まさか……)


 ――望むものが手に入る


「想像するな! すれば、それは現実になってしまう!!」


 けれど、学のない農奴、目の前の作業だけで暮らす平民は、想像力だけは豊かだ。


「ま、魔神だあああっ!」

「人がゾンビに!」

「いや、おらは敵の軍隊が攻めてくると聞いたぞ!?」


 それらは、漏れなく現実に……。


 これまで狙われることもなかった田舎町は、突如として、ラノベの主戦場へ。


 人では勝てないような魔神が10体を超えており、完全武装の兵士たちに略奪され、死体はゾンビとして起き上がる。


 あるいは、頭が花のように開き、仲間を増やしていく。


 軌跡のように、廃墟となった館の二階で座り込んだバルビニ男爵は、限界を超えた。


「ハ、ハハハハ……」


 イメージしたものが具現化するのなら、砦を作ればいいのに。


 それをしている者もいたが、ネガティブな想像をした瞬間に敵が湧く。


 この世界で一番危険なゾーンになった、フダッシュの町。

 魔王討伐よりも悲惨、と評された激闘は、しばらく後だ。


 望んだものが手に入るから、ここでは常に陽キャでいなければならない。

 さもなければ、災いの全てが訪れよう。


 生き延びた者も、自身を強化するだけで、動くものを全て殺しにかかる有様。

 すでに、正気は残っていない。


 ある意味、パリピ♪

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