第4話 意味もなく親切にする他人はいない

 城から連れてきた騎士は、動きやすい平服のままで、片手を上げた。


「じゃあな! もう城には近づくんじゃないぞ? 俺たちは、次に近づいたら殺すよう、言われている」


「なあ? せっかくだから、少し聞いてもいいか?」


 俺の発言で、去りかけた男は、振り向いた。


「……何だ?」


「俺のクラス……。一緒にいた連中はどうなる?」


 向き直った男は、両腕を組む。


「お前は自分の心配をしたほうが、いいけどな? この国の勇者さまとして、敵国やらにぶつけるまで! 最低限の訓練はするし、俺たちの役に立つ限りは貴族並みの待遇さ……。上手く立ち回って、有力者の庇護下に入れば、騎士や貴族になれるかもな?」


 お前はもう、放り出されたが。


 そう言いたげな雰囲気で、男はニヤつく。


 ふむ……。


「お前らは、これが初めてじゃないよな? 過去に召喚した奴らは?」


「さあな? さっき言ったが、この国で成功した奴や、死んだ奴……。お前が思っているように反逆した馬鹿もいた! やめておけよ? ノースキルらしく、身の丈に合った生活をしていろ」


 言葉とは裏腹に、どう見ても、俺に悲惨な未来が待っている雰囲気だ。


 愉悦で黙っている情報があるらしい。


 たとえば、俺たちのような召喚された人間のスキルが強力で、それを妬むか、憂さ晴らしをしたい連中がいるとか?


 まあ、知らされても、意味はない。


 現地の誰かを頼らないと、衣食住を確保できないから……。



「ここが冒険者ギルドだ! あとは、ここの奴らに聞け!」


 それ以上の質問を許さない声音で、男は背を向けた。


 城下町で大通りを歩き去っていく騎士。


 見送りつつ、冒険者ギルドと言われた、ドアがない入口の傍で立ったまま、奴が持っていた小袋を片手で持つ。


 上から指を入れて、1枚を取り出す。


 金色の光だ。


「俺に渡すよう言われて、着服しやがったか? あいつが自分で支払いをするようには見えなかったし」


 上に弾いた金貨を空中でつかみ、小袋に入れる。


 あの女は、俺が生きようが死のうが、どうでもいいだろう。

 しかし、恩を着せておけば、色々と便利。


 何かの拍子に、俺がクラスメイトと出会い、話をする可能性もあるしな?


 イングリットは幹部っぽい雰囲気だったし、命じられた会計の奴らも、それなりの思惑がありそうだ。


「あいつと会計で山分けとか、グルかもな?」

「何が?」


 女の声に振り向けば、いかにも町娘っぽい姿。


「何だ?」


「景気が良さそうじゃない! ねえ? 私がこの町を案内してあげようか?」


「俺は、これから冒険者ギルドで登録だ」

「じゃあ、私が話をつけてあげる! これでも、顔役なんだよ?」


 俺の腕を引っ張り、そのまま中へ……。



 ――数時間後


 初心者用の装備を身に付けたまま、夜の通りを歩く。


 散々に世話を焼いてくれた少女が、立ち止まった。


「そろそろ、宿に――」

「周りの連中と一緒にか?」


 俺のツッコミに、その少女が立ち止まった。


 緊張した様子で、こちらを見る。

 

「な、何を言って――」

「お前が最初に見ていた金貨は、もうない……。そう言ったら?」


「そんなわけ……」


 思わず言いかけた少女は、苦々しげに口を閉じた。


 間抜けは見つかったようだな?


 少女が取り出した笛を吹けば、裏路地などから、ゾロゾロと野郎が出てきた。


 息を吐いた後で、こちらを睨む。


「大人しく騙されていれば、その金貨の小袋だけで済んだかもしれないのに……」


 けれど、笑った大男が、いかにも切れ味が鈍そうな大剣を肩に担ぎつつ、否定する。


「おいおい? こいつ自身も、大事な商品だぜ?」


 それに合わせて、周りの野郎も笑う。


 察したのか、通行人は逃げたようだ。


 左右に並ぶ建物でも、窓や出入口が閉じられる。


「俺を売っても、たいした金にならないのでは?」


 ニヤついた大男が、首を横に振った。


「そうでもないぜ? お前、ノースキルだろ? 城から追い出されて、その小奇麗で異国人の姿……。スキル持ちには、散々に苦しめられているからな! 憂さ晴らしをしたい奴が山ほどいる。その中でも、金を持っている奴のところに連れていけば、一財産さ」


「他の奴らも、こいつと同じ考えか? ……では、さようなら」


 その瞬間に、俺と案内していた少女を残し、大男と一味が消え失せた。


 気配がなくなったことで、共犯の少女はオロオロと見回すだけ。


「お前は見逃してやる。とっとと、失せろ」


 震えている少女は、俺を指さしたまま、叫ぶ。


「な、何で!? そんな力を持ちながら、どうしてノースキルと――」

「自分の能力をベラベラと喋る義理はない」


 きびすを返して、大通りのほうへ歩けば、後ろから声。


「ま、待って! 私だけ残されても――」

「同じ場所へ行きたくなかったら、俺に関わるな! 次はない」


 後ろで、ペタンと女の子座りをした気配。


 手裏剣のような物体を握った様子だが、俺を攻撃するのか、説得して金貨の一部をせしめるかで迷っているようだ。


 構わずに、大通りに出て、人混みに紛れた。


 このまま、遠くへ逃げたほうがいいな……。

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