第2話 あなた達には2つの選択肢があります!

「俺、ソードマスターだ!」

「占い師……。微妙」

「シェフ? ああ、料理長のことね」


 喜びの声が、至るところで聞こえる。


 召喚された俺たちには、スキルが生えていた。


 どういう原理か、空中に画面が浮かび、RPGのようなステータス画面。


 ニコニコしているイングリットは、すぐに仕切る。


「どうでしたか? 『ゴミスキルだから』とは、言いません! この国で無理のないお仕事を与えますから、安心してくださいね?」


 控えている文官らしき連中に、行列を作って、1人ずつ申告。


 数日の滞在で、かなり警戒心が薄れているらしい。


 見た限りでは、ステータス画面を出したままで、伝えている。



 ――数日後


 戦闘職には、経験者による基礎教練とバトル。


 生産職であれば、親方をつける。


 管理系も、そちらの事務員が指導。


「そっちは、どう?」

「部活と変わらねーよ! いいな、座っていられる仕事は」


 食事をしながら、和気あいあいと話し合うクラスメイト。


 いっぽう、俺と一部の連中は、縮こまった状態で、飯を掻きこむ。


 食い終わったら、蔑むような視線から逃げるように――


「ちょっと、いいですか? お時間は取らせないので……」


 監督者であるイングリットが、武装した兵士をバックに、笑顔で話しかけてきた。


 有無を言わせず、そのまま連行。



 別室で、俺たちは宣告される。


「結論から言うと……。あなた方には、ご自分で生活していただきたく――」

「出て行けってことかよ!?」


 耐えかねた男子が、思わず叫んだ。


 つかに手をかけた兵士を制したイングリットは、笑顔のままで同意。


「平たく言えば、そうです! さすがに、スキルなしの無能……コホン! 王城には置けないので! 城下町へ行けば、どこかで住み込みをするなり、冒険者になるなり、選択肢はありますよ? ひとまず、滞在しながら仕事を探せるだけの環境をご用意しました!」


 選ばなければ、問答無用で叩き出すか、こっそりと消す……。


 王侯貴族がいる場所で何かあれば、好ましくない。


 血で汚れるとか、政敵につつかれて面倒ぐらいの感覚だろうが。



 男子の1人は、慌てて叫ぶ。


「な、何があるんだよ?」


「はい! この説明が長くなりそうな場合は、明日、明後日も行いますね? そこまでは、追い出しません! 冷静に、聞いてください」


 1つ、冒険者ギルドに所属する。


 1つ、下っ端でいいのなら、兵士などの肉体労働へ。


「あのさ! な、何か商売をするとか……」


 困った顔のイングリットは、丁寧に説明する。


「無理です! 理由は、あなた方にスキルがなく、自分の身を守ることが難しいから! 信用できない相手に応じる商人もおらず。まともな商会は同じぐらいのバックがいなければ、とことん足元を見ますよ? 私たちのようなノブリス・オブリージュがなく、平気で人を売り飛ばし、あるいは、奴隷と変わらない労働」


「お、お前らが身元を……」


 言いかけた男子は、追放されることを思い出した。


 にっこりと微笑んだイングリットは、肯定する。


「それはできません! 理由はもちろん、お分かりですね? 可能なのは自分で全財産を持ち歩く行商人ですが、仕入れ、運搬、販売と、全てで関係者にむしられ、悪党にも襲われて身ぐるみ剝がされます。お勧めできません! 鍛冶師などの職人についても、弟子入りは難しいです。聞いた限りでは、あなた方は貴族のような生活だったようですし、挨拶代わりで殴られて怒鳴られ、20年以上の下積みとなる修行に耐えられないでしょう? 親方になるにも、彼らに認められたうえで、その権利を買う必要があります。加えて、手に職をつけられる弟子入り希望者は庶民の子供でウジャウジャいますから! 推薦人なしでは、話すら聞いてもらえません」


 肩をすくめた女に、その進路を考えていた男子陣が落ち込む。


 俺は、座ったままで片手を上げた。


「はい、どうぞ?」


「えーと……。あんたらが見限ったのは理解したが、俺たちはどういう立場になるんだ? 具体的には、どこに住めばいいのか、どうすれば金を稼げるのか。今の言い方だと、働くことすら難しいんだろ?」


 首肯した女は、考える。


「最初に、ご説明するべきでしたね? 何もせずに出ていった場合は、自力でどこかの権力者に頼み、そこに置いてもらうしかありません。冒険者はそういった方の受け皿になっており、所属すれば、街の出入りでも税金を払わずに済みます。いっぽう、私たちが斡旋する下働きはどれもキツいですが、最低限の衣食住は保証されますよ? 周りに認められれば、数人の部下を持つ立場になれるかもしれません」


 要点をまとめる。


「冒険者にして、ならず者が庶民や自分たちを襲う前に、敵へぶつけるわけか」


「どう思うかは、あなたの自由です……。ガラが良いとは言えないですね」



 ビビった連中は、こぞって下働きを選んだ。


 イングリットは、前に立ったままで、ぐるりと見る。


「それでは、皆さまは再出発を……。まだ、何か?」


「俺は冒険者になるよ! その代わり、支度金や基礎知識をくれないか?」

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