緋影はりんねちゃんの制服を作りたい。4
一年一組の生徒達は皆、恐怖と緊張で心身ともに疲れ果てていた。そして終業のホームルームの時間、教室に現れたのは担任の篠山先生ではなく、なぜか新米の英語教師である新田先生だった。新田先生は明らかに恐怖に震えたぴえん状態で、生徒たちに終業の挨拶をし、ぎこちないホームルームを進行する中で、その日の学校生活はようやく幕を下ろした。
シーンと静まり返るクラスメイト達に、何の違和感や疑問を感じることもなく緋影は机の上で終始退屈そうにしていたりんねちゃんを抱き上げ、右前腕に鎮座させると早々に教室を後にした。
静けさとともに一瞬の平穏が訪れる教室。安堵の息を漏らす生徒たち――――――だが、それも束の間、なぜかぴえんとホームルームを終えても教壇に立ち尽くしている新田先生から、残された一年一組の生徒達に対して、今後も呪いの人形(ドール)が登校してくることを告げられ一様に絶望の表情を浮かべるのであった。
自宅のマンションに帰ると、緋影はりんねちゃんを部屋のテーブルの上にそっと鎮座させ、手際よく制服から私服に着替えた。続けて、必要なものをリュックに詰め込み、玄関で当然のように待機していたりんねちゃんを抱きかかえると、再び家を後にした。
歩くことおよそ1時間弱。実家にたどり着いた緋影は、門扉の横に設置されているインターホンを鳴らす。数秒待つが、返事はない。首を傾げつつもう一度インターホンを鳴らしてみるが、やはり反応はない。
(誰もいないのか? 母さんくらいはいるかと思ったんだけど……)
仕方ないと、緋影は門扉を開け中に入り、念の為にと持ってきていた実家の鍵を取り出して開けると家の中へと入っていった。
とりあえず、りんねちゃんを1階のリビングのリビングテーブルの上に座らせると緋影は洗面所に向かった。どうやら、手を洗いに行ったようである。
一人残された呪いの人形(ドール)りんねちゃんは、リビングにある超大型の8Kテレビに無表情で大興奮。すぐにテレビの前をいつの間にか陣取ると、これまた、いつの間にかテレビがつき、サブスクでいろいろな番組を見られることを知って更に無表情で大興奮なりんねちゃんなのであった。
手洗いを済ませリビングに戻ってきた緋影は、いつの間にか動き操作されている大型のテレビの存在を完全にスルーし、ソファに腰を下ろすと制服関連のコスプレ衣装の作り方が書かれた書籍をリュックから取り出す。
一年一組の生徒達は皆、恐怖と緊張で心身ともに疲れ果てていた。そして終業のホームルームの時間、教室に現れたのは担任の篠山先生ではなく、なぜか新米の英語教師である新田先生だった。新田先生は明らかに恐怖に震えたぴえん状態で、生徒たちに終業の挨拶をし、ぎこちないホームルームを進行する中で、その日の学校生活はようやく幕を下ろした。
シーンと静まり返るクラスメイト達に、何の違和感や疑問を感じることもなく緋影は机の上で終始退屈そうにしていたりんねちゃんを抱き上げ、右前腕に鎮座させると早々に教室を後にした。
静けさとともに一瞬の平穏が訪れる教室。安堵の息を漏らす生徒たち――――――だが、それも束の間、なぜかぴえんとホームルームを終えても教壇に立ち尽くしている新田先生から、残された一年一組の生徒達に対して、今後も呪いの人形(ドール)が登校してくることを告げられ一様に絶望の表情を浮かべるのであった。
自宅のマンションに帰ると、緋影はりんねちゃんを部屋のテーブルの上にそっと鎮座させ、手際よく制服から私服に着替えた。続けて、必要なものをリュックに詰め込み、玄関で当然のように待機していたりんねちゃんを抱きかかえると、再び家を後にした。
歩くことおよそ1時間弱。実家にたどり着いた緋影は、門扉の横に設置されているインターホンを鳴らす。数秒待つが、返事はない。首を傾げつつもう一度インターホンを鳴らしてみるが、やはり反応はない。
(誰もいないのか? 母さんくらいはいるかと思ったんだけど……)
仕方ないと、緋影は門扉を開け中に入り、念の為にと持ってきていた実家の鍵を取り出して開けると家の中へと入っていった。
とりあえず、りんねちゃんを1階のリビングのリビングテーブルの上に座らせると緋影は洗面所に向かった。どうやら、手を洗いに行ったようである。
一人残された呪いの人形(ドール)りんねちゃんは、リビングにある超大型の8Kテレビに無表情で大興奮。すぐにテレビの前をいつの間にか陣取ると、これまた、いつの間にかテレビがつき、サブスクでいろいろな番組を見られることを知って更に無表情で大興奮なりんねちゃんなのであった。
もしも、緋影が異変探しのホラーゲームをプレイしようものなら、きっとひとつも異変に気がつかないだろう。単純にテレビが勝手についている異変にすら気がつけないのだから。
そんな緋影は、今日中にはりんねちゃんの制服を作り終えたいと考えていた。型紙だけは、優々子から制服を貸してもらって、ここで終わらせたいと思っているのであった。
そして、制服を貸してくれる優々子へのお礼の品もリュックから取り出し綺麗に横に置いて準備万端であった。緋影は取り出した本を読み始め、あとは、優々子の帰宅を待つだけとなった。時が流れ、待つこと1時間――――――テレビを見ていたりんねちゃんがハッとなり、いつの間にかどこかに消えるのだった。
もちろん、それに緋影が気づくことはなく、気にもせずに本を読み続けるのだった。
生徒会長の利賀 優々子(トガ ユユコ)は、本日の生徒会業務を早く切り上げようとするも、副会長の菅沼の妨害で帰宅予定時間が少しばかり遅れてしまい急いで帰宅したのである。生徒会業務中に事細かに緋影のことを副会長の菅沼に尋ねられ、内心ではウザいと思いながらも天使の笑顔で対応し、それとなく緋影との関係を匂わせといた優々子なのである。
(少し帰宅が遅くなってしまいましたね……緋影はもう家についていますかね)
身だしなみを整えながら、門扉をくぐり抜け家の扉を開くと玄関には、呪いの人形(ドール)りんねちゃんが呪いのオーラを放ちながら『こんにちは泥棒子猫』と鎮座していた。緋影に会えると上機嫌だった優々子の時が止まる。
「びにゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!」
そして、独特な悲鳴が家中に響くのであった。もちろん、リビングで義理の姉の優々子の帰宅を待っていた緋影にも聞こえたはずだが、今日は朝からよく悲鳴をあげている優々子なので、また、なんか、ゆゆ姉がおかしくなってるなとしか思わず、スルーする緋影なのであった。
バックバクで心拍数が限界突破している心臓を労わるように胸を抑えながら、次第に冷静さを取り戻し始める優々子の視界には、先程まで玄関に鎮座していたはずの呪いの人形(ドール)の姿が見当たらない。
「あれ……ど、どこに行ったんですか!?」
キョロキョロと周囲を見回し呪いの人形(ドール)の所在を探す優々子はハッとあることに気がつく。
「あ、頭に重みを感じる……ま、まさか!?」
玄関に置かれている姿見の方をゆっくり向き、そして、見る。そこには、なんと自分の頭の上にうつ伏せで乗っかり、ドヤ顔無表情な呪いの人形(ドール)りんねちゃんの姿が映る。それを見た優々子は当然。
「びゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!!」
と独特な悲鳴を再び家中に響かせた。そして、激しいヘドバンを繰り出し、呪いの人形(ドール)を振り落とそうとするも、りんねちゃんは絶叫マシーンに乗っているが如く、キャッキャと楽しそうな無表情を浮かべていた。
姿見を再び見るも、余裕の無表情で頭の上に乗っかり続けるりんねちゃんを見て、優々子の顔面は蒼白、急いで緋影に助けを求めに行くのであった。
「……はぁ~、いったい、どうしたんだ? ゆゆ姉?」
ガチャッとリビングの扉が荒々しく開かれ、その音に気がついた緋影は、読んでいた本を一旦リビングテーブルの上に置いてボソリとため息混じりにそう言いながら、扉の方に視線を向ける。
「ひ、緋影…………取り憑かれました!! 取ってください!!!!!」
そこには、涙目ぴえんと頭の上に無表情のドヤ顔りんねちゃんを乗せ、ゾンビのような動きで助けを求めてくる義理の姉の優々子の姿があった。
「………………ゆゆ姉……りんねちゃんを頭の上に乗せて何やってるんだ!?」
「いいから取ってください!!!!!」
自身の義理の姉の奇行に単純に疑問を抱き首を傾げる緋影に対して、必死に助けを求める優々子。そんな彼女をジッと見つめる緋影は、おもむろにポケットからスマホを取り出す。
「……な、何してるんですか!? 緋影!? は、早く取ってください!!!」
「……とりあえず、ゆゆ姉……写真撮って良いか?」
「良いわけ無いじゃないですか!!!! 早く取ってください!!! というか、取りなさい!!! 緋影!!!!!」
泣き叫びながら怒る優々子と頭の上で愉悦な無表情を浮かべているりんねちゃんを、パシャっとシャッター音を響かせスマホで写真を撮る緋影。そんな彼に対して、怒りで震えだす優々子なのである。
「写真じゃありません!!! 呪いの人形(ドール)を……ですぅぅぅぅっっっっ!!!!」
そんな義理の姉を無視して先ほど撮った写真を眺める緋影はハッと良いことを思いついたとばかり、涙目ぴえん状態の義理の姉の優々子の方を見る。
「………………ゆゆ姉」
「なんですか!? 早く取ってください!!!!」
「この写真、SNSにあげてもいいか?」
「駄目に決まってるじゃないですか!!! そんなことより! 早くこいつを取ってください!!!!!」
どうやら、撮影した写真が大層気に入った緋影に対して、必死にSNSへの投稿を止めさせ、呪いの人形(ドール)が乗った頭を差し出し取ってもらおうと必死な優々子なのであった。
自分で頭の上に乗せといて、なんでオレが取らないとダメなのだろうかと考えながら、渋々、『もっとからかいたい』といった無表情を浮かべているりんねちゃんを抱きかかえ、優々子の頭から引き離すと、リビングテーブルの上に優しくりんねちゃんを鎮座させる。
とても、似合っていただけに、ちょっと不服そうな緋影をギロッと睨む優々子は、一安心とばかりに落ち着きを取り戻し始める。
「全く……緋影!! なんでその人形(ドール)を連れてきたんですか!? いいですか!! そいつは次からは絶対に家に連れてこないでくださいね!!!! 出禁です!! 出禁!!!」
プンプンと頬を膨らませ怒る優々子に緋影は、今日は本当にゆゆ姉の珍しい姿を見られる日だなと呑気に思っていたら、再びギロッ優々子に睨まれ、タジタジな無表情になる緋影なのである。
「え、えっと……それより……ゆゆ姉……制服を貸してくれないか?」
「………………全く……仕方ありませんね……では」
「いや、ここで脱がなくていいから……それに、貸してもらうのは予備の制服でいいから」
現在この家には二人きり(りんねちゃんは数には入っていない)再び緋影を誘惑するチャンスとばかりに、制服をこの場で脱ごうとする優々子を冷静に止め、部屋に向かわせる緋影に、不満そうな表情で渋々と自身の部屋に向かう優々子なのであった。
待つこと数分、階段から優々子が降りてくる音がして、リビングの扉を開き、じゃーんとセクシースケスケネグリジェ姿で登場と現れた優々子に、頭を抱える緋影と、無表情で怒りを示すりんねちゃんなのである。
悩殺ポーズと緋影を誘惑しようとして彼に近づく優々子を威圧する呪いの人形(ドール)りんねちゃんに、恐怖で後ずさる優々子なのである。
「なななな、なんですか!? わ、わわわわたしはあなたのことなど怖くありませんからね!! 本当に怖くないですから!!」
恐怖で震え喚く優々子に対して、冷静になった呪いの人形(ドール)りんねちゃんは、まじまじと優々子を観察する。そして、結論、セクシーさをアピールする小学生にしか見えないと残念な優々子を鼻で笑う(笑えてない)りんねちゃんなのである。
ムッとなる優々子とやる気かとなるりんねちゃん――――――お互い睨み合い火花を散らす。そんな中、緋影は優々子から視線を逸らし冷静に物事を考えていた。
(絶対にゆゆ姉の美人局には引っかからないでおかないとな……あとで、どんな脅しをされるのか……考えただけでも恐ろしいからな)
そんな緋影の心をチラリと見ただけで察したのか頬を膨らませ可愛らしく不満顔の優々子なのである。
「むぅ~、別に美人局なんてしてないですよ」
「………………………………」
「怖くないですよ♪」
ゆゆ姉の洞察力はもはや天才の域を超えて神の領域である。ポーカーフェイスで覆い隠そうと、訓練で感情のコントロールをしようと、無意味であり、優々子の瞳に見られれば、誰もが本音を隠せないのである。
内心で怖っとなる緋影の心も見透かす義理の姉の優々子に対して、明鏡止水、心を無にするように務める緋影なのであった。
そんな、残念な優々子を見ながら、あの副会長はなんで、こんなのを好きになったんだろうと疑問を浮かべていたりんねちゃんにあからさまな不満の表情を浮かべる優々子なのである。
「言っておきますけど、私はかなりモテるんです……不気味で残念体型の呪いの人形(ドール)とは違って」
そんな挑発をなんのそのと受け流し、りんねちゃんは優々子に視線でアドバイスを送る。もう、お前のことを好きになってくれる人間はあの筋肉くらいしか居ないから、筋肉とつきあっておけと。そんな、呪いの人形(ドール)に不満爆発な優々子。
「……は? 私はあの副会長と付き合う気はないですからね! だいたい、私と彼では全く釣り合っていませんから」
『確かにお前にはもったいない筋肉メガネだった』
「あいつが私に釣り合ってないのです!!!」
『筋肉とお似合い』
「私は筋肉ムキムキなのは嫌いなんです!! あいつは、護衛にちょうどいいから近くに置いてるだけなんです!! 今度また、余計なことしたら……硫酸ぶっかけて跡形もなく溶かしますからね!!」
『かけれるものならかけてみろ』
「それに……私には緋影が……って、怖い怖い!!! なんですか!? すぐそうやって私のことを脅そうと! 私は脅しには屈しません!!」
りんねちゃんの無言の呪いの波動が優々子に襲いかかる。
「びにゃぁぁぁぁぁぁ!! の、のの、、の、呪いにも屈しません!」
恐怖で泣き叫び、地面にへたり込みながら喚く優々子に対して、勝利の無表情を浮かべるりんねちゃんなのである。
(なんか、ゆゆ姉……人形(ドール)のりんねちゃんと会話始めたんだけど……やっぱり、ゆゆ姉も女の子なんだな)
緋影は、リビングテーブルの上に置いた無言で人形(ドール)のりんねちゃんと激しく口論する義姉の優々子に対して、お人形さん遊びしてるんだなくらいにしか思っていないのであった。
「とりあえず、ゆゆ姉……これ、ゆゆ姉へのお礼」
優々子とりんねちゃんの会話が一段落ついた段階で、ゴスロリ衣装を優々子に手渡す緋影と、それを黙って受け取る優々子は、ゴスロリ衣装をじーっと見つめる。
「緋影は……こういうのが好きなのですか?」
上目遣いで愛らしく甘い声で尋ねてくる優々子に対して、早くりんねちゃんの制服を作る作業に入りたい緋影は心を無で返答を返すことを決める。
「あ……あぁ、まぁ…好き…かな……あの…それより…ゆゆ姉…制服を貸してくれないか?」
なるほど、緋影はこういう服が好きなのですねと独り言を呟き、なにやら、考えている優々子に、内心で早く制服を貸して欲しい緋影なのであった。数秒の沈黙後、優々子はにっこり笑顔を緋影に向ける。
「はい、緋影……脱ぎたてですよ♪」
優々子から綺麗に畳まれた制服一式を笑顔でそう言われながら手渡された緋影の無表情な額に冷や汗が流れる。そして、ゴスロリ衣装一式を持って、なにやら上機嫌に優々子は自分の部屋へと戻っていくのであった。
「…………ゆゆ姉・・・・・・そんなに俺のことが嫌いなのか・・・・・・とりあえず、早く制服返して帰るか・・・・・・」
緋影はソファに腰をおろし、義理の姉の温もりがまだ残っている脱ぎたての高校の制服をまじまじと観察するのであった。そんな緋影の前にいつの間にか陣取り、ジト目の無表情で緋影をジーッと睨むりんねちゃんなのであった。
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